第135話 別れ

説明神様は寝床を作ろうとしていたが、オアが泊って行けと言うから彼女の洞穴に泊めてもらった。


そこでまたまた夢を見た。


いつもと違って短い夢。

出てきたのは守と呼ばれていた神。


その神がこちらに顔を向けた。


雪乃っぽい……。


『っぽいって何よ』

「はい?」

どういうことだ?

夢なのに会話してるぞ?


『まぁ、夢なのは間違いないわね。こんな私は存在しないわ。塔弥君は夢でもお盛んなのね』

どういうこと?

好きだった奥さんの夢を見てるだけなのに、なぜお盛んなんて話になるんだ?


『くっ、そんないかにも当たり前のように好きだったとか……』

「いや、好きじゃないと同棲はしないし、結婚しようとしないだろ?」

『そうだけども……もう……』

いや、別にからかってるとかじゃないから。


『女の敵さんはい~っぱい女の子を侍らしているようだけど?(怒)』

「いや、それは不可抗力だろ? 前世とか来世とかだぜ?」

『へー』

「ごめんなさい」

『ううん。ダメね。そんなことを言うために来たんじゃないの』

なんだ? 何かを教えてくれるとかか? 例えば、長と迷宮神の関係とか。


『それはわからないわ』

「わからないんか~い」

ダメだ、使えねぇうごぉおぉ……。


『私ね。怒ってるの』

「なっ……なぜ……」

『婚約指輪を他の女にあげちゃう人、はじめて見たんだけど』

「へっ?……あっ……」

『ふん……』


短い夢は終わってしまった。

やべぇ……ファナに気軽にあげた指輪だ。


確か説明神様からリッチに転生するときに貰ったものに含まれていたものだが、言われれば間違いなく婚約指輪だ。

なんで忘れてたんだ?

あの形……お互いにデザイン選んで買ったのに……。

やべぇ……。


翌日、朝一番で慌てて指輪を取り返した。

理由を話したらファナに爆笑されたから、殴り飛ばそうと思ったが説明神様の背中に隠れられてしまった。


一晩でずいぶんと仲良くなったようだな。

まぁ、悪いことじゃなく、むしろ良いことだから、婚約指輪を返してもらう代わりにアイテムボックスの中から別の指輪を2人に贈っておいた。


そうしていると、説明神様が迎えが来たようだと言うから外に出てみたら、とても美しい馬……いや、翼に角があるからペガサスか? ……がいた。

それが何かを蹴って遊んでいた。


「なにをしているのかしら?」

一緒に洞穴から出て来たファナが不思議そうに首を傾げているが、お前アホなのか?

どう見てもあれはゲシャの残骸だ。


説明神様がデバウラーを上手く斬り出せずに何回か斬っていた。その残り……心臓というか核以外の5つの部分だ。


あれ、なんか動いてないか?

蹴り飛ばされてるからそう見えるのかと思ったが、どうも違う。

それぞれが個別に動いている。


そしてそれぞれ別の方に向かって逃げ出した。

その光景は意味不明だったけど、それぞれにめちゃくちゃ見覚えがある。


あれ、五神じゃね?

まじかよ……あいつら、ゲシャの残骸だったのかよ。


どうりでよくわからんやつらだと思った。

よくわからんのは性格もだけど、そもそも"彷徨う影"、"不浄の化身"、"封印された思念"、"奇怪な獣"、"見えない竜"とか、それぞれ意味不明だったもんな。

神様が切り離されて、その肉体や精神体から生まれて来たものだったのか。


どうりで変な奴らだったわけだ。

そして五神の名の通り、本当に神に連なる者だったんだな。

厨二病的な痛い感じを拗らせてああなったのかと思いきや、最初っから意味不明だったんだな。


五神と思われる何かが飛んで逃げて行ったあと、ペガサスは俺の方にやって来た。

そして首を垂れ、乗れと言っているような態勢になる。

いや、乗れって言ってるんだろうな。


そこに自然に跨るファナ……なんでだよ!?


説明神様が無言で引きずりおろす。

「や~め~て~。私は帰る! 帰るの~~~」

「まったく。諦めなさい。君はあそこに帰ってもまたここに飛ばされるだけだ。無駄な労力をこれ以上使わせるんじゃない」

「ひえぇええぇぇええええ」

そのままずるずると説明神様に引きずられていく。


まぁ、ファナ。頑張れ。お前がいないと、俺も存在しないかもしれないから。


というか間違いない。

ファナが魔王族を生んでくれないと、俺はヴェルトとしてあの世界に呼ばれていない。

そうなったらその後リッチとしての今もないかもしれない。


それが平行世界とか、完全な別世界なんてこともあるのかもしれないけど、とりあえず彼女にはここで根を張ってもらった方がいい。


「もし機会があればまた会おう。ファナ」

「うぅ……思えば、最初は私を喰ってしまう悪魔か死霊かと思って怖かったけど、あなたが一番ましだった……ねぇ。子孫を残すなら別にこんなインテリ眼鏡じゃなくて、あなたでも……うぎゃぁ」

そのままずるずると説明神様に引きずられていった。


『行くのか』

「あぁ。デバウラーのこと、それから倒し方を教えてもらったからな。俺が目指す迷宮神が同じ状況なのかはわからないが、まぁあがいてみるさ」

『守様にもし会えたらよろしくな』

「あぁ。でも、長が迷宮神だったら、ちょっとやりづらいな……」

悲しい過去で奮闘した神。そして守の想い人。雪乃はどう思うんだろうか。

案外どうも思わないかもしれないし、助ける方法を探っているのかもしれないけどな。


『長がその迷宮神というのは考えづらいな。なにせもう何十万年も前のことだ。そしてお前は10万年後から来たんだろう? そんなに長いことデバウラーに囚われて活動できるというのは信じられない』

そうなのか……なら別なのか?


『まぁわからんがな。とにかくお前はもう友達だ。無事に目的を達成することを祈るよ』

「ありがとうな」


オアに別れを告げると、ペガサス? が歩み始め、不思議な光に包まれた。

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