第132話 神を貪る者に取り憑かれた神

ようするに、この目の前でぐったりしている女にはそれ相応のスキルが与えられており、それを利用してゲシャごと神を貪る者を倒すつもりだったということだった。

この女人間だろ? そんなことできるのか???


「ここは不思議な世界だ。なにせ、ほぼ滅んでいるようにしか見えないのに、可能性を持っている。実際に君が産まれる頃には復興していたということだろう。今から何が起こるのかはわからないが、十二分に力を割くべき場所とされており、実際この女にはかなりの神の力がつぎ込まれている」

なるほど……。


『ふむ……だが、ゲシャを消してほしくはない』

「そうだろうな。ということで、ヴェルト君。何か知恵はないだろうか?」

そこで俺に振るのかよ。

どうでもいいけど、お前ら神様達にじっと見つめられると凄まじいプレッシャーを感じるから勘弁してほしい。


「取り憑いて離れないのであれば、斬れないのか? この世界にいつからあったのかは知らないけど、魂を切れる剣があったんだが」

『魂を斬るか……やってやれないことはない気がするな』

えっ、マジで? ダメもとで言ったんだけど、さすが女神様だな。


『なんかバカにしてないか?』

「滅相もない。もしかしたら前々世の奥さんの仲間かもしれない神様に対して不敬を働くつもりなどない」

『ぐっ……いちいちこれ見よがしに出してくるな』

「もしオアがその力を持っているのであれば、私が剣を作って封じ込めればいいかもしれないな。魔法として放つのでもいいが、どうだ?」

『安定させるためには武器に入れて試す方がいいだろうな』


ということで、ここで神々の3分クッキングをお見せしよう。

まさか突然鼻歌を歌う羽目になるとは思わなかったがな。


テ~レテッテレテテ~レテ~……なんか違う気がする……。


『案外できるものだな。やはり力の使い道という点では神は劣る』

「そうだな。こんなことは考えたこともなかった」

神様達がなぜか俺を感心した目で見る中、俺はなぜか見覚えがあるフォルムの剣を凝視してしまった。


えっと、お前、ここで生み出される剣だったのか?

もしかして、生みの親に近いから俺に執着していたのか?


まだ自我はないみたいだから、気付かないふりをしておこう。


「えっと……ここは……あっ、あのクソ真面目神!?」

「目を覚ましたか」

「ここは……えっ、いやっ、助けて、私まだ死にたくないの。この神様のせいでここに連れてこられたんだから、やるならこの神様にして!」

なんかめっちゃ俺を怖がってて、今にもまた気絶しそうな勢いだった。


「別に取って食ったりしないぞ? 今は転生説明神様達と対策を考えていただけだしな」

「えっ、仲間? あなた、この世界には知的生命体はいないって言ってなかった?」

「いないはずだったんだが、いた……というか送り込まれていたんだ。だから協力してもらっている」

「はぁ、そうなんだ。私はファナ」

「俺はヴェルトだ。本来は10万年後のこの世界で生まれる勇者で、今はさらに転生した世界でダンジョンボスのリッチをやっている」

「どんな状況なのそれ?」

「自分でもわからん」


ファナという女は転生とか言いながら地球で言う高校生くらいの年齢に見えた。

やや明るめの茶髪で、とても猫っぽい子だったが、これ人間か?

どうも違うように感じるんだが、まぁ今は関係ないか。どうせここにいるのは2柱の神様とリッチだ。


「ファナ。君には生涯をかけてゲシャという神を倒してもらう予定だったが、状況が変わった。早速行って倒すぞ」

「はぁ? そういうの普通、修行したりとか、敵の子分とか倒したり、カッコいい王子様とイチャコラしながらヤりまくりな旅をした末に命をかけて戦うものじゃないの!?」

『何を言ってるんだ?』

お前が言うな……。




『もう怒ったぞ! オア! いきなり吹っ飛ばすな!』

そこに巨大な声が響き渡り、そして飛んで来る火球。


消し飛ばしたはずのゲシャだろうな。

確かに、オアと互角に戦っていたはずの神にしては弱い。

なにせ、俺にはオアの攻撃はほぼ視認できない。

一方でゲシャの攻撃は見えるし、余裕で避けられる。


『出て来たなゲシャ……また弱くなって……』

「これで弱くなったの? もともとどんな強さだったのよ!」

まぁファナの驚きはわかる。俺たちが避けた火球によってさらに地形が変わった。

俺の記憶にない形になってるんだが、大丈夫かよこれ。


『まぁ、とっとと終わらせよう。"斬"』

『なっ、なんだぁ~~~』

記憶にある剣は記憶にあるような斬撃を生み出し、記憶にある敵と同じようにゲシャを真っ二つにした。

くそ、仕事をするな俺の記憶。忘れていたいことまで思い出すな!


『なんだなんだなんだなんだ?』

『ゲシャ、正気になったか?』

『おぉ!? オア、なにをしたんだ? おらは!?』

『お前はアレに取り憑かれてたんだ』

『あれ? そうだったのか。どうも力が出ないと』

『だろう。弱かったからな』

『なんだとぉ!? 勝負だオア!!!』

『もちろん』


そうしてお空の上で戦い始める2柱の神様。うん、勝手にやってほしい。

俺たちはこっちの神を貪る者……ロデアガルドっていう神様がデバウラーと呼んでいたやつらを始末する。


転生説明神様は青白い光の魔法を、俺はオアが放り出した剣をしれっと拾って斬っていく。

ファナはぼーっとしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る