第130話 白き神オア

『で、お前は誰だ?』

「今さらそれかよ」

搾りかすみたいになって、回復させられて、また絞られていたら朝になった感じだ。

これが神???


『だって知らないもん。なんで白き神の力持ってる? ここにはもうわらわしかいないはずなのに』

「一人だけ?」

寂しそうな感じは一切ないが、ただ淡々と1人だけだと言う女神の表情が全く読めない。



女神様だけあって綺麗なんだけど、野性味とか凶暴さを隠せてはいない。

今は機嫌がいいのか、ちょっとやんちゃなお姉ちゃんみたいだけど、怒ったら迷宮神とかロデアガルドって神様くらい強いんだろうか?


もう魔力量とか読める領域じゃないからわからん……。


「俺はリッチ……は種族名なのかな? この世界での名前はヴェルトだけど、未来の話だな」

『どゆこと?』

「えっと……」

『ロデアガルドって誰だろう。なんか聞き覚えがあるな。迷宮神ってのは知らん』

そう言えば思考読まれるんだった……。


『なんだ知らないのか。強そうなのに抜けてるやつだな。ガードすると思いながら喋ればそんなに簡単に読めないぞ?』

ガード! ガード! ガード!


これでいいんだろうか?

そしてこんなヘンテコな神様に抜けてるって言われた……。


『ヘンテコとはなんだ?』

ガードできてねぇ~~~~~~


凄まじい衝撃で吹っ飛ぶ俺。

いつ降られたかわからない、パンチなのかキックなのかもわからないが、俺はとりあえず洞穴から外に飛ばされた。

オアっていう女神様に強引に連れ込まれて、力づくで叩き出された……。


思考へのガードじゃなくて、物理的なガードを敷くべきだったな。


『勝手に出ていくな』

えぇ!? 今吹っ飛ばされたと思うんだが。

『それくらい防げよな』

むちゃ言うな! 俺はか弱いリッチなんだぞ?

『そんなに魔力持ってるのにか? 見るからに強そうというか、わらわが襲われそうな外見だな。はっはっは』

ガード。なんで笑われているかわからんが……。


『むぅ。ちょっと読みにくくなったな』

やったぜ。この痴女神め……


ふっとばされた。


『なんか不快な心情を感じたな』

すみませんでした。

『わかればよい。で、そのヴェルト? お前はなぜこんなとこにいる? ここは生命体が住むような場所じゃないぞ?』

ガード……これ、言っていいんだろうか? 別の神様に話聞いて来いって言われました、なんだけども。

しかもちょっと寂しそうな顔してるな。これはむしろ話を聞く方向に持って行った方がいいのかも。気難しいって話だけど、話はできそうだしな。


「俺はとある神を倒す必要があるんだが、その方法がまったくわからない。手も足も出ない感じなんだ。それでいろんな場所を巡っていた」

『ふむ……貴様ほどの魔力を持っていて、手も足も出ないとなるとなかなか強い神だな……』

俺の方をじっと見るオア。


「あのもう1人の神は敵なの……」

凄まじい勢いで殴られた俺は地面に埋まった。


『ゲジャは友達だ! 敵なんて言わせない!!』

すみませんでした。まだ言葉を終えてなかったが、怒らせたなら……


『あっ、ごめんごめん』

「ぐぉぉぉ……あがっ……ぐぅ……」

そして引っこ抜かれた。いかんな、大根みたいな声を出してしまった。

まぁ回復魔法もかけてくれたみたいだから何も問題はないんだが……


『大根ってなんだ?』

話しが進まんがな。


「友達の神様が変になっちゃったって感じ?」

『そうだな。そんな感じだ。あいつとはずっと殴り合ったり、酒飲んだりだったんだが、急に変になってな』

「そうだったのか」

『もしわかるなら戻してやりたい。そうしないと……』

切なそうな顔になる女神様。やはり慈悲の心とかあるんだろうか。見た目は抜群に美しいから絵になるが、今までの会話や態度を鑑みるに違和感しかない。


『わらわが常に勝ってしまうからつまらん』

「はい?」

ただ、悲しんでいる理由が想像したものとは全く違った。

常に勝ってしまうとは?


『こんな世界暇だからな。なにせ生物はいない……のかな?』

「いや、知らんがな」

神様なのにこの世界を知らないの?

もしくは興味ない感じか?

興味ない感じだろうな。友達だと言う神様に対して話していた時の悲痛な感じは消えた。


『この世界にまともな生命はいない。これでいいだろう。いなくなったのかもしれないがな。わらわが流れ着いた時にはこうだった』

「流れ着いた?」

『あぁ。わらわは大いなる白き神の世界で生まれた』

「長とか守とか?」

『なぜそれを知っている?』

「えっと……」

これはどっちだ。もう殴られるのは勘弁してほしい……。


『あぁ、すまん。攻撃はしない。長と守と言うことであれば、長は偉大なる高き神のことで、守は守神だろう。わらわは白き神の一族。つまり、長や守に守られていたものだ。もしそなたが彼の神々と関係があるのなら、今までの非礼は謝罪しよう』

非礼っていう認識はあったと……


『いや、そのなんじゃ。これは言葉の綾というやつじゃ』

「まぁいいさ。長と守を知っている理由は夢に見たからだ」

『なんじゃ、ただの夢か。びびらせおってからに』

「守っていう神様は転生を繰り返しているとか……」

『そうじゃな。彼の世界が閉じた後、行方知れずとなった長様と、輪廻に去った守様で分かたれたはずじゃ』

「俺の前々世の奥さんが、どうもその守って神様の転生した姿だったっぽいんだ」

『大変失礼しました。どうか今までの非礼は忘れて頂いて、どうぞこのオアをよろしくお願いいたします』

「おい!」

『許す?』

「許すと言うか、別に怒ってないから」

『ほっ……』

どういうことだ?

守も偉い神様なのか?


『守様は生き残った白き神の新しい長じゃった。だが、白き神の一族が安住できる場所を見つけたあと、隠れてしまった。そこからは輪廻の中にいるのだろう』

そうだったのか。


『もちろん神は自由ゆえ、みんな好き勝手にいろんな世界に行ったり、作ったり、滅ぼしたりしているじゃろうが、本拠地は重要だ。ゆえに、全ての白き神は一族を救った長様と、新たな地に導いてくれた守様を敬っている』

そうだったのか。

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