第128話 世界が動き出した

「ようやく静かになったな」

真面目な神様は煩い女神様が連れて行かれてホッとしているようだった。


「あれはいったい……」

「すまないな。まさか尋ね人があるとは思っていなかったから油断していた。今日は転生説明の仕事の予定はなかったから」

「はぁ……」

本当にどこかのサラリーマンみたいだな。


「それで? ロデアガルド様が向かった世界に迷い込んでいたと聞いたが」

「はい。実は……」


俺は今までのあらましを説明した。

ダンジョンのフロアボスモンスターになったこと、迷宮神ってやつがいて世界を滅ぼしそうなこと、管理者を名乗る勝手に生き物の魂をあやつってるやつがいたこと、迷宮神を倒す手掛かりを探していること、貰ったお守りがかなりの効果を発揮したこと、なぜか間野塔弥だった頃の妻の気配があることなどだ。


神様は目を閉じて俺の話を聞いてくれた。


「ふむ。少し前にジュラーディスという気持ち悪いジジイがやってきてな。その時に聞いた話とだいたい同じだった。一応、信じてよいのかどうかわからんジジイだったから君の話も聞いたわけだが」

真面目な神様に気持ち悪いジジイ呼ばわりされるジュラーディスっていったい……。


「以前君に会った時のことは私にとっても不思議な経験だった」

「というと?」

「まずスキルを与えず、アイテムを渡したというのが初めてのことだ。あとで考えれば渡すことを要求された……いや、強要されたようだった。それに、転生理由である敵の情報が曖昧だった。そんなことを喋ったことも驚きだ。曖昧な情報しかない場合、普通は現地で聞いてくれとか、調べてくれとなるんだ。そして、結末の話はしない。敵性生命体がいる世界だから滅びの可能性はもちろんあるのが普通だから、あえて言わないものだ。でも、君には世界が滅亡寸前だと伝えた。あれも何かに操られているようだったんだ」

そうだったのか。

神様でもなにかに操られたりするのか?


「だが、ジュラーディスのおかげで知ったこともある。やつの記憶の中には我々が愛してやまない方の姿が見て取れた。白き光を纏う、高き高き神だ。その神と迷宮神とやらの関係はわからない。迷宮神という呼称は我らの中にはないものだ」

「白き神……それは女か?」

「いや、性別はないが、通常は男神だな。遥か昔、多くの神を守った神だ。彼の神がいなければここも生まれていなければ、今の無数の世界の神々の中にも存在しないものがいただろう」

「そんな神様がジュラーディスと関係があったということか……」

「わからぬ。わからぬが、邪なる心で彼の神の力を汚したことだけはわかった。ゆえに輪廻から追放するため、消した」

「えっ……」

まじか。どうりでリポップしないと思ってたけど、説明神様に消されてたのかよ……。


「きっと君の世界のダンジョン、そして迷宮神とやらは彼の神と関係がある。できうることなら解明してほしい」

情報量が多くてよくわからんけど、なぜか期待されていることはわかった。


「白い魔力と言ったな。それは彼の神にも通じる力だと思う。もしかしたらそちらが何か関係があるのかもしれない」

「夢の中で見たんだ。"長"と"守"と呼びあっていた。彼らは何かに苦しんでいて、それへの対処法で決裂していた。でも、お互い想い合っていた。"長"がどうなったのかは分からなかったが、"守"は何度も転生を繰り返して救う方法を探していた。それが俺の地球で人間をやっていた頃の奥さんなのかもしれないんだ」

「……」

俺はふと夢の話をする。

なんでかはわからない。


でも、目の前の神様の期待を感じたら、話さないといけない気がしたんだ。


その話をしたら、説明の神様が涙を流していた。


「まさか"守神"様の話をここで聞けるとは思わなかった……」

「"守神"? その"守"と呼ばれていた女神様が?」

「あぁ……。古代神に連なる全ての神の敬意を受ける女神様だ。彼女がいるのであれば、"長"は私の言う高き高き白き神だ。間違いないだろう。はじまりの場所で神々を生きながらえさせた大いなる神たち……おぉ……」

説明の神様が震えながら両手で顔を覆う。

その姿は戸惑いと、歓喜が混ざったようだった。



「まさか、我々の管理下に白き神々がいらっしゃったとは、想像もしなかった。礼を言う。良い話が聞けたことを。そして、できうる限り君を支援しよう。ロデアガルド様が関与するのはまずい。あの方の位階では問題になるかもしれない。私程度ならかまわない」

「本当に? それならさらに可能性が上がる気がする」

全く何をすればいいのか分からなかったところからまさかの進展だ。走り幅跳びをしようとジャンプしたら、怪鳥に連れて行かれて次元を飛び越えた感じだな。着地したところが予想外過ぎてビックリだけど。



「でも、まだ足りない。加護は与えよう……これに関してはロデアガルド様も与えているが、それくらいなら問題ないだろう」

おぉ、加護が増えたな。ありがたい。


「少しゆっくりしていてくれ。できること、やるべきことを整理するから」


どれくらいの時間がかかるのかはわからないが、俺は待つことにした。

協力してくれるならとてもありがたい。

なんなら迷宮神をぶっ殺してくれてもいいんだが、さすがにそれは無理かな?

ジュラーディスを葬り去ったんなら、別にいいんじゃないか???



とかバカなことを考えながら部屋を歩き回った。ただの暇つぶしだよ。



そうして再び目を開いた神様がとんでもないことを言い出した。


「整理しておくから、君は地球とつながった世界……君の前世の世界に行ってくると良い。あぁ、今じゃないよ? ざっと10万年くらい前だね。そこに"オア"という神がいる。彼の神に会ってくるといい。白き高き神様達の一族だ。何かわかることがあるだろう。面白いな。君というピースがはまって世界が動き出したみたいだ。集まる情報がつながっていく。ばらばらに存在したことが並んでいく。恐れずに行ってくると良い。幸い君はダンジョンのモンスターのままだ。次に死ねばまたあのダンジョンに戻るだろう。記憶を覗いた限り迷宮神とやらもそれを望んでいるようだ。幸運を祈る」

説明神様は少し興奮した様子で俺に語り掛ける。

俺に語り掛けているが、その言葉はどこか芝居がかっている。これも何かの導きなのだろうか?


わからないが、やるべきことが目の前にあるのは良いことだ。

進んで行けるからな。


「1つだけ気を付けてくれ。オアは気難しい。決して怒らせないようにな」

えっと、それは相手さん次第なんじゃないだろうか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る