第126話 神をも貪り食うもの
『我が救うはずの世界には死霊はいないはずなのだが?』
「□○▼?」
ゆっくりと降りてくる光の塊を眺めていたら、あたりに声が響いた。
淡々とした無機質な声だった。
『喋れぬのか? 難儀だのぅ。ほれ、魔法をかけたぞ。これで喋れるはずだ』
「えっ、まじで? 本当だ! 喋れる! 喋れるぞ!???」
こんなところで突然に悲願を達成した件……。これで地球に帰ったら普通に喋りながら面白おかしく配信できるな!
『ふぉっふぉっふぉ。そんなに驚き喜ばれると魔法をかけた甲斐があるぞ。して、そなたは誰じゃ?』
「俺はリッチだ。間野塔弥とかヴェルトって名前もある」
目の前の光の球がなんなのかわからないが、聞かれたからには答える。
悪いやつじゃなさそうだしな。
『知らぬのう。なぜこんな場所におるのじゃ? ここは生命の途絶えた遺棄された世界ぞい。救いもなく放置されてしまった。ただ、よからぬものが蔓延っておるゆえ、我が消滅させに来たのじゃ』
ちょっと待て。想像以上に危ない世界だったし、なんで俺はこんなところに?
『他の世界から紛れ込んだのかのぅ? 覚えはあるか?』
「俺の世界に迷宮神ってやつがいて、そいつに殺されたはずなんだ。でも『行って来い。そして戻って来い』とか言ってたような……」
『ふむ……神格がそなたを導いたということか。しかしこんな世界に飛ばして何がある? そして我らと交わっておらぬ神格ということか? なぞは尽きぬのう』
「交わらぬ神格……? あなた方はそれを認識しているのか?」
神は神としか認識していなかったが、そもそも地球には様々な神が祭られている。
前世の異世界でも人間と魔族とは別の神を信仰していた。
他の世界には他の世界の神様がいるだろう。
迷宮神は突然どこかからやって来た神だし、俺の場合は転生の際に説明してくれた神様も知ってる。
『認識というか、知覚することはあるのぅ。我らは世界を股にかけて活動しておるゆえ、現地の神と出会い、時には交流したり、逆に殺し合うこともある』
それもそうか。全く別体系で生きている別種族みたいなもんなんだろうか。
そんな戦いに巻き込まれたくないけど、可能なら迷宮神を倒してくれないかな?
『我らは基本は不干渉ぞ。生きとし生けるものの魂と輪廻を司る我らが、ほいほいと現地に手を出すのは無秩序を生み出すゆえに』
「なかなか制約があって難しいんだな」
いきなり破滅させられるよりはましか。
だが、さっき消滅させに来たとか言ってなかったか?
「この世界はなんなんだ?」
『ここは忘れ去られし場所じゃ。遥か昔、生み出した神は逃げ、後には意思を持たぬものと敵性生命体のみが残った。その後何度か介入したがいずれも失敗した故、責任をもって我が消しに来たのじゃ』
「責任?」
『あぁ、そうじゃ。我が転生の説明を行ったものが連続で失敗した故、責任をな』
「転生説明神?」
『そうじゃ。はて、その名を知っているということは、もしかして我が転生させたものの成れの果てか? だとしたらあいすまんかった』
「いや、たぶん違うと思う。俺に説明をしてくれたのはギャルみたいな神様と、めちゃくちゃ真面目そうな神様だった」
『我がその真面目な神かもしれぬではないか。なぜ我をそこから外すのじゃ?』
「一人称が我ではなく私だったから……」
『では我ではないのぅ。我はこの一人称に誇りを持っておるゆえ』
めちゃくちゃ食いつくべき話から、めちゃくちゃどうでもいい話にスムーズに移行するなよ。
「原因はあるのか? その、ここが滅びた」
『そなたも先ほど戦っておったじゃろう。あれはデバウラー。神をも貪り食うものじゃ』
そんなヤバいものと戦ってたのか俺?
『神とは力の集合体じゃ。その本質はただの力なのじゃ。その力に取り憑き、変質させる。あれに取り憑かれたら神ですら壊れるのじゃ。そして全てを破壊する。この世界の神は全て逃げたのじゃ。それによって破壊は免れた。しかし生命体が死滅してしまった。結果として、もうこの世界には生命体はいない。だからこそ、我が消し去りに来たのじゃが、そなたを感じて降りてきたわけじゃ』
なんで俺、こんなところに飛ばされたんだ?
迷宮神は何を考えている?
そしてなぜここに来れた。
疑問は尽きない。
しかしこの目の前の神様の邪魔をするわけにもいかないだろう。
『転生説明神を知っておるなら、救世神は知っているな? 我は責任を取って今回限りの救世神となり、この世界を消し去ることで救済を成すのじゃ』
ごめんなさい、意味わかんない。
そして知らない。救世神なんて。
「転生説明神に会ったことがあるから知っていたけど、救世神は知らない」
『そうか。ではそなたは何がしか転生説明神の与えた試練に失敗した者というわけではないらしいの。では、少し待っていると良い。我はこれを消し去り、そなたを案内してやろう。そなたを導いた説明神に会えば、状況や対処法がわかるかもしれん』
「ぜひお願いします。一度転生説明神に会いたかったんだ」
『はて、そなたも難儀な役割を持っているようじゃの。ではとっとと用事を済ませるとしよう。運ぶでな』
そう言うと俺は目の前の光と同じような光に包まれた。
そして気付けば……宇宙?
えっ? どういうこと?
『見ているが良い。はぁあぁああぁあああああ!!!!!!!』
隣にいたおっさん……いや、神様が光の球を放つ。
目の前にある星に向かって。
全体が青黒い星だ。
地球のような明るさが一切ない。
なぜ空が赤かったのかもわからない。
しかしその星に神様の光が到達した瞬間、凄まじい爆発が沸き起こる。
そしてその中からあの暗い色の光が無数に出て来た。
『ふん。抗うかのぅ。無駄なことじゃ。我は貴様らになど取り込まれてはやらぬ。消えよ!根元無双!』
神様は暗い光の群れに突っ込み、片っ端から殴っているようだ。
やっぱり物理なのか……。
俺は吹っ飛ばされるも消滅しなかったやつを追いかけ、殴りつけていく。
『助力に感謝するぞい。さすが異界にわたって転生説明神の頼みを聞くだけあって、強力じゃ』
やつらに触れることでなんどもなんども腕が溶けたけど、とりあえず全部消し去ることに成功した。
『ではまたついて参れ。転生説明神たちの拠点に参ろう』
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