第118話 3バカトリオの終焉

湊会長を通じた依頼を受けた私はイギリスに向かった。

私を呼んだのは"サンダーボルト"。

かつて探索者になったばかりの私が何度か一緒にダンジョン探索を行ったことがあるチームだ。


今ではAランクになっているらしい。

リーダーは世界ランキングにも載るレベルまで強くなり、メンバーのバランスも悪くない。


このチームは名前にもある通り雷属性の魔法を得意とするメンバーが多い。


順調に成長すればエメレージュにも勝てそうな気がするけど、簡単に探索者を殺しに来る彼女を放置しておくのはまずい。

探索者を殺せば殺すほどに強くなるとか言っている動画も流れてしまっている。



ということで彼らと一緒にエメレージュの元までやって来た。


よくわからないが石畳の間に響き渡る荘厳な協奏曲。

豪華なローブを纏い、顔を隠したエメレージュがゆっくりと歩み出てくる。


ただの血濡れの殺人吸血鬼のくせに、やけに芝居がかった登場シーン。


こいつは何がしたいんだろうか?


『あぁ、あのときのバカ女か』

そしてそのシーンを見ていたら"剣"が喋り始めた。


「バカ女とはなによ?」

作り上げた雰囲気を全て蹴り散らかす女……。


『ヴェルトを抱きこんでいれば幸せに生きれたものを』

「なによあんなやつ」

さらに繰り広げられる会話が酷い……。


『けなしても無駄だ。国を崩壊させたバカ女と、多くのものに慕われた勇者では格が違う』

「きーーーー!!!!」

なんかどうでもよくなってきた……。



「消し飛ばしてやるわ、このクソ"剣"!」

『ふん、ひ弱なお前には持ち上げることすらできなかったことの逆恨みかな? 醜い……』

「なによ! 消えなさい!」

『ふん』

私は何もしていないのに勝手に剣が振られる。

そして放たれた魔法ごとエメレージュの腕を斬り飛ばした。


「きゃ~~~~」

『お前の魔法は軽い。弱い者いじめはできても、同格かそれ以上の相手には無意味だ。ただの害悪なのだからとっとと消えろ』

"剣"さんは私に対するものと違って辛らつね。

まぁ、人を殺しまくったモンスターに丁寧に接されても困るけど、リッチも『わからせて来い』って言ってたし、"剣"の思うようにさせるのがいいんだろうな。


「くっ、なに? なんで回復できないの?」

『ふん。無知にも程があるな。私の力は魂の切断だ。私に斬られた場所はお前ごときには回復できない。大人しく死ね。それが世界のためだ。異世界にまで迷惑をかけるんじゃない、クソ女!』

清々しいほどに容赦ないわね。姿は相変わらず剣のままで声だけだから余計に感情を感じないからかな?


「やめて~助けて~」

そしてエメレージュは泣きだした。

正直、可愛くはないし、同情心も湧かない。ここに来るまでにサンダーボルトのリーダーに聞いたけど、この短期間の間に50人以上殺したらしいからな。


どうやら探索者を殺すことに味をしめたエメレージュは普段はあり得ない階層にポップしたりしていたらしい。


やはりここでやるべきだろう。


そう覚悟を決め、エメレージュの首に向かって"剣"を振るった。


しかし"剣"が切り裂いたものは別のもの……大剣? これはいったい?


「危ない。さすがに簡単に殺させるわけにはいかないんだ」

現れたのは見覚えのあるモンスター……ラガリアスだった。


どうやら前世からのお仲間を助けに来たらしい。

1人くらいは味方がいたということだ。


『誰かと思えばクズ剣士か。それにダメ魔導士も』

「貴様……」


"剣"の罵倒に拍車がかかる。気付けばラガリアスの後ろにもう一体モンスターがいるが、これが"ダメ魔導士"ってやつか?


「しっかりしてくれエメレージュ。これで3対1だ。あの女を倒すぞ!」

えっ?っと思ったが、確かに私ひとりになっていた。


背後を見ると、既に避難しているサンダーボルト……。それでいいのか?


『ふん、ゴミが3つになったら粗大ごみになるだけだ。その辺に転がって虫にでもたかられていろ』

3人で共闘しようとするラガリアスたちに対して辛辣さが増す"剣"。


「剣さん、大丈夫? 今来た2人はなかなか強そうだけれども」

『問題ない。そもそも現時点で君の方が強そうだが、まぁあの世界のよしみで私が消し去ってやろう』

どんなよしみかはわからないけど、"剣"さんはやる気満々だ。

きっと凄まじい斬撃とかを生み出しそうだからサンダーボルトの面々は避難してもらっていてよかったのかもしれない。


『では私を構えてこう唱えてくれ』

私は言われる通りに構える。


すると"剣"さんから凄まじい魔力が漂い始める。


えっと、えっ?


『普段から君の魔力を吸わせてもらっている。特に文句を言わない君にはしっかりと報いたい。行くぞ。"斬"』

「"斬"」


その瞬間、視界が銀に染まった。

それが全て"剣"による斬撃だと気付くまでに少し時間がかかった。おかしい、振っているのは私なのに……。



その銀が晴れた時、エメレージュもラガリアスももう1人の賢者? もいなくなっていた。

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