第119話 戦う理由
「協力……というか殲滅に感謝する……あいつらのせいで多くの探索者が亡くなったから……」
「それはご愁傷様だった」
あんなのに負けるのは悔しいだろう。私は渋い顔をしているリーダーの言葉を受け止め、哀悼の意を表する。
リッチの真似をするわけではないが、探索者として今後、ここに残った者たちが成長してくれることを祈る。
「それでな……フラン」
「ん?」
「お前が日本でパーティーを組んでいるのは知っている。だが、どうだ? 帰ってこないか?」
「断る」
冗談じゃない。なにが楽しくて1人で帰らないといけないんだ?
私は詩織やレファ。姫乃、夢乃と強くなると誓ったんだ。
あそこにはリッチもいる。
ロゼリアさんも。湊会長や早紀さんも。
居心地のいいあそこを離れるなんて考えられない。
『それを伝えると良い。せっかく手に入れた場所を手放すに値しないとな』
いや……"剣"さんの言葉はみんなに聞こえているから、もう一度言い直す必要はない気がするんだが……。
「そうか……そりゃそうだな。昔のことはすまなかった」
「あぁ。別にもういい。気にしていない。過ぎたことだ。でも、今帰る気はない。私は私の仲間たちと強くなる」
「そうか……」
「そうしないと世界が滅ぶらしいしな」
「えっ?」
どうやらこの情報は知らないらしい。リーダーのきょとんとした顔というのは初めて見る。
「知らなかったのか?まぁ、それはそうか。私もリッチや管理者を名乗るモンスターと出会わなければ知らなかったからな」
「本当なのか?」
「嘘ならいいけどな。嘘だと断じる情報は持っていない」
「そうか……」
言っているのはリッチ、そしてこの前リッチが倒したお爺さんだ。つまり、現在のモンスターの中での最上位に位置しそうなものたちが恐れている。
これを嘘だと一蹴することはできない。
「それに抗うのか?」
なにか憑き物が落ちたような、どこか諦めたような表情でリーダーが聞いてくる。
きっと私を勧誘するのを諦めたんだろう。どうせこっちのダンジョン協会とかお偉いさんとかからプレッシャーを受けていたんだろうな。
かつて関わったことがあるというだけの理由で。
「できる限りな。私の力などたかが知れている」
「世界一位だぜ? それが『たかが知れている』程度なんだとしたら、他のやつらは全く力になれないってことか?」
「正直そうだ。私ではあのリッチには歯が立たない。そのリッチが相対しただけで気絶しそうだったとか言っている迷宮神が相手だ。正直何ができるのかわからない。でも、抗いたい。それが私たちの目標だ」
でも、悪いけど私は戻らない。全くもって力になれるとは思えない。それでもリッチは育てると言う。理由はわからないが、私たちの頑張る理由としては十分だ。
「仲間なんだ。きっとな。戦女神も、リッチも。みんな暖かい。それが理由だ」
「そうか……」
「この前なんか、酷い飴を食わされて数時間吐き倒したけど、それでも暖かいし、楽しいんだ」
「えっ……大丈夫なのか?」
思い出したら腹が立ってきた。いつかレファには仕返しをするだろうけど、それでもこんな風にバカなことをやれる友達は今までいなかった。
デコピン100連発くらいで許してあげようか。
「何はともあれ、迷宮神を倒さないといけないらしいからな。そのためにモンスターは探索者を育てていたらしいが、一部のモンスターは制限がなくなって勝手な行動をしているらしい。これからもそういったモンスターが出てくる可能性はある。お前たちも強くなることだ」
「わかった。頑張るよ。ここは俺たちの故郷だしな。スタンピードだってあるわけだから、頑張るよ」
「それがいい」
はじめてサンダーボルトのリーダーが笑顔になったな。
覚悟を決めたものの表情だ。かつてのような厭らしさはもう感じない。
こうやって探索者たちを焚きつけていくことの意味はまだよくわからない。
それでもこんなことをあのリッチはずっとやってたんだ。
意味があるのかどうかわからない。遅々として進まない探索者育成。
それに業を煮やすこともなく、情けないとブチ切れることもなく。
たまに煽ったりエッチな悪戯をするくらいで、有益な情報を垂れ流しながら焦りにつぶれることもなくやってきたんだ。
自分が教えようとした瞬間に白旗を上げそうになる。自分だったら無理だ。
でもきっとやっていることに意味はある。
彼の教えたものたち、彼の関わった者たちは前に進んでいる。
彼に反旗を翻した者たち、仲違いした者たちは自滅していく。
この流れに従うべきだと感じる。
そうすれば道が開かれる予感がある。
自分の中の深いところでそれを感じている。
私が今ヨーロッパに帰って引き篭もることはない。
私は私の心の声に従う。
もしかしたらこれこそが自らを倒してほしいと願っているらしい迷宮神の導きなのかもしれない。
加護まで授けて無関係ということはないんだろう。
待っていろ迷宮神。
私もリッチと協力してお前を倒しに行ってやるからな!
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