第116話 ある者にとっては輪廻の終着点

見渡す限りの無機質な空間……。

足元は大理石のような白い美しい石でできた床。

頭上には星空のような何か。これから来るものの行き先を転写していることもあれば、無意味な夜景を投影している時もある。意味は分からない。


そんな場所で私は一人瞑想にふけっている。

今日は人が来る予定がない。

そんな時は過去に転生させたものを思い出すことがある。


そう言えばこの前転生させたやつは意味不明だった。


孤高の戦士だったな。愛を求めず、ただ剣を振るい、敵となったものを全て斬り殺してきた男だった。死因は老衰だった。

そんなやつを淫魔と陰獣の星に転生させて何がしたかったんだ?



その前も変なやつだったな。

2回目の転生というのは珍しい。いや、転生自体はみんなしてるけど、記憶と経験を残したまま2回目というのはな。


スキルを与える必要がないやつというのは私としては初めての経験だった。

なぜかアイテムを渡したわけだが、あれもよくわからなかった。


この場所では神と言えども明確な指針を持って転生候補者に相対しているわけではない。

もちろん私は転生者がなるべくよい生を過ごせるように、必要だと思うスキルや知識は許される範囲で渡している。

しかしそのスキルや知識、さらには許される範囲というのが全て感覚的なものだ。


これはOK、これはNG、そんな風に感じる心に従って対応しているだけだ。

仮に何かに操られていると言われても、別に違和感は感じないほどには何かしらの介入を感じる。


そしてまた、たまにあるのが候補者ではないのにここにやってくるもの。

目の前のジジイなどはその最たるものだ。


なんだこの気持ち悪いジジイは。

調べても生み出された形跡すらない。なにせ記録がないのだ。

つまり、そもそもこのジジイは我々が管理している輪廻にはいないものだ。


「こんな場所があって、歩みゆく魂に手を加えているとはのぅ」


話を聞けば勝手に漂う魂を捕獲してダンジョンというシステムの中に投入していたとか。

輪廻警察に逮捕されろ、このくそじじい!忌避感とか罪悪感なんか欠片も持ち合わせていないことが明白で、まるで他者の魂を道具のようにしか感じていないようだった。


ちなみにそんな組織は存在しないが……。

 

こんなやつがなんでここに?と思ったが、これも神の導きだろう。もちろん私も神だが、神にはランクがある。より上位の神の思し召し、または暇つぶし、または……考えるのはやめよう。どうせ考えても空しくなるだけだ。


ジジイの悪辣さには目を瞑って、しばらく情報交換に勤めた。


「リッチ……。たしか間野塔弥という元人間をそのダンジョンの中に転生させたな……。そうか、彼は元気か?」

「元気も何も、我をここに吹っ飛ばしてくれおったわ」

聞いてみるとついさっき思い出していた相手の話。彼は頑張っているようだった。私がなぜか喋ってしまった世界滅亡を回避するために探索者を育てているらしい。


その一環でこの目の前のジジイを倒したのだろうか?

なぜ育成者となったモンスターが味方のはずのモンスターを倒してるのかはわからないが、まぁ元気にやっているのは喜ばしいことだ。


そして迷宮神とやらが世界を自ら滅ぼすことを恐れ、自らを倒せるものを生み出そうと無茶苦茶に暴れていることも知った。神の権限を持っていて成しているなら問題にはならないだろうが、異なる世界をつなぐとか無茶苦茶だ。


ただ、知ったからと言って手は出せない。

リッチに対して私は不可思議な行動をいくつか取っている。


アイテムを渡したこともそれの一つ。目の前のジジイの記憶を読んでいたら効果を発揮していたのが見えた。あれは間違いなく彼が戦うために必要だったのだ。


さらにジジイの記憶を読んで愕然とした。

消えたはずの……懐かしい神の姿。白き力の溢れる気高き、美しき御身。


同時に腑に落ちた。

ジジイはその力の一端を勝手に使っていたのだ。それで魂を捕え、改編していたのだ。

あの敬すべき方。優しきあの方の力で罪を犯していたのだ。


ジジイの悪事の全てを知った。こんなやつを輪廻に戻す必要はない気がするな。



しかし改めてリッチに興味を持った。

ジジイがこんな力を持ってしても抗えなかった破滅への歩み。どうかあの方のためにも止めてほしい。


私自身は力を振るうわけにはいかないが、きっと踏み込み、対話し、力を示せば未来は変わるだろう。


寄り添っている力を信じろ。周囲に集まる力を信じろ。未来を信じろ。


それがきっと過去にあった暖かさを取り戻す。



そして……


「なにをする!?」


リッチの未来を祈ると同時に、目の前のジジイは許せない。


愛すべき神の力を穢したのだ。

全てをもってしてでも消し飛ばしたいと感じた。


この場で感じることは大いなる神の意思。

我々はその心に従うのみ。


「貴様は許されざる罪を犯した。もはや輪廻に戻ることすら許されん」

「なっ……我は彼の神の解放を願っただけ……」

「問答無用だ。この魔力は罪ある者のみを消し飛ばす。これに消されること、すなわち罪がある証拠。文字通り身をもって償え。ただただ罪悪を悔いながらな……"審判ジャッジメント"」



***

ここまでお読みいただきありがとうございます。

↓ちなみに予想以上にヘイトを貯めていたジジイを○した転生の神様は昔短編で書いたこの方でした(アゲインw)↓

『数え切れない転移者をさばく実は優秀な神様のお話』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074730183390

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