第115話 八咫烏の終焉

□とある拘置所の中……(黒田)


「痛い……痛い……いたい……」


□別の拘置所の中……(竜司)


「痛い……痛い……いたい……」


□看守


「えっと、なにがあったんだ?」

「わかりません。いつからか何かを怖がるようになって、影を怖がるようになって、暗闇を怖がるようになって、そしてあぁなりました。特に夜中が酷くて呻くので他の囚人たちからクレームがあがっています」

部下は困ったように言うが、それはそうだろう。

毎晩うめき声や叫び声が聞こえてきたら嫌になるし、気持ち悪い。


「医師の見立ては?」

「いままでずっと好き勝手やって来たが、新宿ダンジョンのリッチにやられたことから、悪夢としてみるようになり、精神を病んだのではないかとのことでした」

「医療刑務所に移すしかないか」

「手続きを申請しておきます」


□ダンジョン協会本部(湊皇一)


「で、俺に回ってきたと?バカなの?」

「バカとはなんじゃ!バカとは!」

まったく面倒臭い。なんで今さら俺が四鳳院家と八咫烏を継がなきゃいけないんだよ。

バカも休み休み言え。


俺を追放したのはお前だろ?

あまりにも低い世界ランキングにショックを受け、当時婚約者だった……もう名前も忘れた女に婚約破棄を言い渡されて追い出されたんだぞ?

当然お前は許可を出していたはずだ。


なにせ俺の戸籍上の父親であるこいつが当時の四鳳院家の当主だったわけだから。

そう……竜司をそのままジジイにしたような目の前の肉塊こそ、四鳳院家の先代家長だ。そして八咫烏の前総帥だ。


「せっかくの四楓院家に戻るチャンスだ。まさか断らんだろうと思っていたが、ここまでバカだったとは」

「どうして戻ると思ったんだ?名声は地に落ちているし、俺になんかメリットがあるのか?」

「貴様……四鳳院家を愚弄するのか!?」

短気なところも瓜二つだ。勘弁してくれ。唾を飛ばすな。バカが移る。


「貴様が政府や様々な団体と利害調整するときに四鳳院家の名前を使っているのは知っているのだぞ?」

「ふん……それで?」

「それでだと?利用価値があるということだろう。もう一族には貴様しかおらん」

「それ、俺が跡を継いだとしても俺の後で終わりじゃね?俺に子供はいないぞ?」

「竜司の子がいる。養子に取ればいい」

「なんの罰ゲームだよ」

「罰ゲームとはなんじゃ!?」

煩いな。竜司の息子だろ?あの会うたびに人を見下してくるクソガキだ。成人したのにママのおっぱい吸ってるレベルのクズだぞ?

というか成人してるんだからあいつでいいだろ?


四鳳院家って噛まずに読むことすらできなさそうだけど、どうせ汚いお飾りだろ?鴉とか虫とかならよってくるんじゃないか?

あ~そのなんだ。鴉と虫さんごめんなさい。言葉の綾でな。



「まずは八咫烏をなんとかしろ。四鳳院家に関しては来月家長会議を開いて決定する」

「八咫烏?まぁわかった」

「連絡はこいつにしろ。探索者でもある。そこそこ優秀だし、女としても上等だから好きにしろ」

ナチュラルに人を……それも自分を支える組織で働いてる人間を見下せる神経がわかんないんだよな。


渡された名刺は女の名前だ。


そもそも名前に見覚えがあるな。

確か黒田とか姫乃ちゃんと一緒に探索者をやってた子だ。


「もしもし」

『はい、蛇沢です』

「俺は湊皇一だ」

『ダンジョン協会の?なぜこの携帯に?』

「竜司が俺の弟だってことは知ってるか?」

『えっ、はい。存じております』

急に丁寧な対応になったな。どうせ竜司もセクハラの嵐だったんだろうが……。


「さっき、俺たちの父親から話を聞いてな。八咫烏は俺に任せるんだと。それで君の電話番号を聞いたんだ」

『なっ……そうでしたか。それではご指示を』

「今どんな状況なのかをまず聞きたくてな」

『今は大量に退職者が出まして、残っているのは20名ほどです。赤坂ダンジョンの管理で精一杯ですね。探索や要人警護、暗殺依頼などは止まっていますので、四鳳院家への上納金は猶予していただけると助かります。あと権田議員から総理を襲撃するから探索者を貸せと言われていますが対応余力がありません」

待って待って。情報量多い。


要人警護はいいけど暗殺依頼ってなんだよ!?

それに権田議員バカじゃね~の?総理襲撃を宣言すんなよ。ダメに決まってんだろ!?


もうこんな組織いらないよな?

まじでただの日本の闇じゃね~か。


決めた。


「あ~。それ全部やる必要ないからな。八咫烏は今日を持って解散する。赤坂ダンジョンの運営はダンジョン協会が引き取るから、その引継ぎだけお願いしたい」

『……よろしいのですか?』

「よろしいも何も、そんな業務続けられたら俺が処刑されるわ!」

『私はどうすれば?』

「すまんが解雇になるな。君は優秀な探索者だったはずだが、何か問題があるのか?」

『八咫烏にその……借金がありまして。それで……』

まさか借金で縛って働かせてたのか?

そう言えば姫乃ちゃんも脅されて働かされてたな……。


「借金は八咫烏からか?なら債権を放棄する。あとは自由にしてくれていい。今から一度そっちに行く。全部片づける」

『あっ……ありがとうございます!お待ちしてます!!!』


想像以上に八咫烏がクソだったと言っておこう。

辞めた人間も、縛られまくって辞めれていなかった人間も、全員まとめて解放してやった。


くそ親父が気付いて文句言ってきたけど、もう解散したもんね。

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