第109話 やはり女の敵!?

"覇者の咆哮"ヴィクトルクラーグス

"闇にはためく不明のさざめき"オブスクラヴェスティガ


「"転輪ロタキクリス"」

「"流王止水アクアレギスタグナーレ"」




えっと……正直に言ってもう何をやっているのか全く理解できない。

これはこの世の戦い?


四天王や大鬼さんたちも、レファも、私も、ただポカンと師匠せんせいとイルデグラスさんの戦いを眺めている。


『あっはっは。凄いな。よく理解できないけど、間に入ったら消し飛ばされそうだけども』


そんな私たちを今守ってくれているのはこのふわふわと浮いている灰色の光。

たぶんこれが"封印された思念"っていう神様の一柱なんだよね?


『そうそう。それで合ってるよ、ヴェルトの奥さん』


えっ?考えが読める?こわい……


『ひかないで!誰でも読めるわけじゃなくて、僕が加護をあげた人だけだから』


「そういえば詩織、飴を拾ったって」

「そうそう。これ。レファにもあげるね。これで"封印された思念"様の加護が貰えるよ」

『ヴェルトの奥さんに様なんて言われると照れるね。えへへ』

私はレファに持っていた飴の1つをあげる。

あと5個。

なぜか持って行かないといけない気がするの。


「これ、本当に舐めて大丈夫なやつ?なんか凄い変な色……」

『大丈夫だよ。僕の加護がつくから魔力は上がるし、他にも効果があるよ?さぁ、一思いに!』

「うっ、うん……」

 

フランと、姫乃と、夢乃と……あとは誰のだろう?そういえば師匠せんせいも持ってないらしいから、師匠せんせいのか。

でもあと1つは?


まぁいっか。たぶん渡す相手はわかると思う。

この心の声が何なのかわからないけど、悪い気はしない。

 

そう言う風に感じるように細工してるとか言われたらもうお手上げだけど、私にも先生にもこの感覚があるんだとしたら私にはどうしようもない。


『ん?そうなんだ。僕にもよくわからないけど、悪い感じはしないね。むしろ慈愛みたいなのを感じるよ』

「あっ、ありがとうございます」


あれ?レファは?……ってなんでひっくり返ってピクピクしてるの???

あれ?



「まっず!これやばい。これやばいよ!?おぇぇ|大鬼|ヽ(_ _|||)))) オェェェ!!」

「なっ、汚なっ!?アルトノルン様!?汚なっ!!!?」


うん。乙女にあるまじき顔でキラキラしたものを吐き出してるわね。


「おかしいな。なんか美味しかった気がするんだけどな?」

「いや、それは何か誤解してるんじゃないかな?すっごいマズいけど加護が貰えると考えたら、なんとか"封印された思念"を発見したら全力で魔法を撃ち込むくらいで許せる味と言われているはず……」

「えっ?」

『えっ?』

そう言えば夢うつつの中で見つけて飲んだ時に『まっずい』って思った気もする……。

あれ?レファに酷いものをあげちゃった?

そして"封印された思念"様はなんでそんなに驚いているの?


「あうぅ~~~あぁ~~~~」

うわ~……えーと、ちょっとまずいわね。

これ人に見せちゃダメな顔というか状態というか景色よね。


たぶんもう胃から吐き出すものがなくなって、それでも込み上げてくる気持ち悪さで胸の奥が重たい感じ……。

ごめんレファ。せめて夜寝る前とかにあげればよかった……。

他のみんなにあげるときは気を付けよう。




"永遠なる夢の終わり"アエテルノソムニオルム

"破壊の巫女の祈り"ファタルデシトリクスプリエス


あっ、師匠せんせいたちの戦いが終わって……やっぱり師匠せんせいが勝ったみたい。

イルデグラスさんを連れて帰って来た……お姫様抱っこして……。



む~



「お前ら、俺達が真面目に戦ってるのに、何してんだ?ってレファ、どうしたんだ?」

『おかしい。僕は美味しいはず。前に食べた子は血の涙を流しながらおいしいでしゅ~って言ってたのに。おかしい……』


それきっと美味しくない反応です。

そして師匠せんせいは"封印された思念"様の様子を見てなにかを感じ取ったのか、イルデグラスさんを四天王の1人である執事さんっぽい魔族に預けて私とレファの方にやってきました。


四天王の方々と大鬼さんはイルデグラスさんを心配して奥へ行ってしまった。

 

「詩織、ごめんな」

「むぅ……」

「そんな膨れないで」

「膨れてません」

「じゃあ許してくれるよな?」

「キスしてください」

「あぁ」


……もう。仕方ない人ですね。


「機嫌治った?」

「まだです」

「まだかよ!」

当たり前です。

きっとレファとは毎晩のように……。それなのに1回のキスだけじゃ許してあげません。

 

「だって一か月ですから」

「あぁ、うん、そうだな」

「だから今度は私と一か月一緒にいてもらいます」

「いや、現実世界に帰らないと」

それはそう。フランたちが心配だし、もっともっと強くならないといけないのだから。

 

「いつでもいいので……」

「わかった」

「じゃあ今日一緒に寝てくれたら許してあげます」

「わかった」

そう言って師匠せんせいは私を抱きしめてくれる。

暖かい……。

久しぶりです。



「あっ……あんたたち……私がこんなに苦しんでいるのに……」

「あっ、ごめん。今気を楽にする魔法をかけるからね。"安らぎセレニタス"」

「あっ、待て……」

「うぇえぇぇぇ~~~~~……」

「えっ?」

『えっ?』

どういうこと?レファが変なうめき声を出して気絶……なんで?


「あ~、"封印された思念"の欠片を食ったんだろ?」

「はい、師匠せんせいたちが戦っている間暇だったので」

「暇って……まぁ、そりゃそっか。それでな、思念の欠片を食うと、称号が得られるんだけど、体を無理やり書き換える感じなんだよ。その時にめちゃくちゃ気持ち悪く感じるんだけどな。そこに魔法をかけると気持ち悪さが倍増する」

「えぇっ?」

『えぇっ?』

さっきからなぜ"封印された思念"様も一緒に驚いているんでしょうか?


『知らなかった……』

「お前、不安定だからな。もし『まずい』なんて言ったら機嫌損ねるから言わないようにって、昔お前の加護を貰ったやつが書き残してるんだよ」

『なっ?じゃあ、みんな?みんなまずいと思ってたの?』

「詩織、一個くれ。俺が確かめてみる」

「はい……あ~ん♡」

「あーん?」

私は飴を1つ食べさせてあげた。

はっ……!?はじめてのあ~んをこんな飴でやってしまった……。


『君も案外酷いね!!!』

「うん、問題ないな。俺なら大丈夫だ」

『なぜ?むしろヴェルトは少しくらい苦しむべきだよね?』

「なんでだよ!」

『そもそも君はアルトノルンもだし、イーレスも、フェルメリアも、クレスフィアも、シャリアローゼンも全部食べただろ!!!?』

「おい!今そんな危険な発言してんじゃねーよ!」


えっと、昔の女でしょうか???

え?



聞きたいことはいっぱいあった……というか今増えましたが、師匠せんせいが"封印された思念"様と喧嘩しだしたので今日は聞けそうにないですね。


まったくもう。

もしレファが知ったらまた"女の敵"って怒られるよ?

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