第108話 女の友情?

□魔王城(詩織)


うーん、まだ来てくれない……。

さすがに1か月くらいこの城に閉じ込められていると、少し寂しい。


師匠せんせいには待ってますって言ったし、レファとのこともほどほどにって伝えたのは私。

でも、1か月も私は1人……。

レファは師匠せんせいと一緒……。


これは少しくらい怒ってもいいかしら?

私だって……。


「どっ、どうしたんだ?なにがあった?」

私の様子を見てとってもグラマラスな女の人……この世界の現魔王様が慌てている。


「いえ、さすがに遅いなと思うとちょっと悲しくて寂しくなってやりきれなくて心の中がもう暴れそうで……」

「ストップ!ストップだ、シオリ!」

「むぅ……」

何も言い足りてないのに……。


師匠せんせい……。次は私の番ですからね?

1か月放しませんからね……?



「その……攫ってきた私が言うのもなんだが、ヴェルトの魔力は近付いてきているから、そろそろだと……」

「……」

「その……すまん」

慰めてくれようとしたのだとは思うわ。

この方はその凄まじいボディに反して優しく真面目な性格をしているから。


部下の方にもいろいろと話を聞いたけど、どうも前魔王様に対しての想いが強いだけで、とても良い統治者だと慕われていた。


この世界では、かつては人間との間に深い溝があったらしい。

その無理解からくる諍いで人が死ぬような出来事もたくさんあって。そんな中で師匠せんせいというイレギュラーが人間側に生まれてしまったため、それを利用した人間との戦争が起きてしまった。


その反省から、今はある程度人間側との対話を開きつつ、相互不干渉を貫いている。

これは師匠せんせいがまだ生きていた頃に取り決めたものらしいけど、それが有効に活用されていて平和な世界になっている。


そんな中で帰って来た元魔王アルトノルン。

今度こそ何の障害もなく魔族領で暮らしてほしいと、そう考えて師匠せんせいの魔の手から攫ったのがまさかの私。

平謝りされるというのは予想外だった。


だからちょうどいいので修行をお願いした。

師匠せんせいたちが来るまでね。


来たらきっとイルデグラスさんは師匠せんせいと戦うだろう。

でもきっと口で言うほどもう憎んではいないようだし、殺し合いにはならないのかな。

そして私たちは現代世界に帰るわ。


そろそろフランや姫乃たちと合流したい。

私もレファもきっとこっちで強くなったし、フランたちも強くなった。

そうしたら100層以降の深層を本気で攻略するのよ。


師匠せんせいの言う通り、迷宮神と戦うために。



でも師匠せんせいはもとのリッチに戻っちゃうのかな?

今の姿も控え目に言ってカッコいいから惜しいけど、リッチ様の姿ならそれはそれで問題ない。

1か月ですからね、師匠せんせい

放しませんよ?



「来たな……」


そしてようやく来てくれました。

その力を感じた魔王……イルデグラスさんが迎える。


「やっぱり戦うのか?」

「もちろんだ。貴様を倒してアルトノルン様を救う」

いつものように気だるげでカッコいい師匠せんせいを睨みつけながら宣言するイルデグラスさん。

 

「待って?私は特に救われたいとかは……」

「レファ……こっちへ。その人たちは戦わないと理解し合えない人種だから仕方ないわ」

そこにレファが口をはさむのを私は止めた。

そんなことを言ってもきっと無駄なのよ。


「待て詩織。俺は決してそんな超〇〇みたいな戦闘民族じゃないぞ?」

「(ぷい)」

「えっ?」

師匠せんせいが言い訳をするけど、今はちょっと許しません。


「ぷ~くっく。来るのが遅すぎて怒られてる気分はどうだ?」

「なっ……、いや、詩織。悪かったよ。悪かったけど、お前にも送った称号を得るのに時間がかかって。というかレファが遅くてな。鞭で叩いたり蹴り飛ばしたりしてようやくスピード上げてこれだったんだよ」

それきっと遊んでるよね?絶対遊んでるよね?

レファは大変だったかもしれないけど、師匠せんせいは絶対に楽しんでるよね?

 

「たのしそうですね……」

「えっ、いや……」

ジト目で見つめるとアワアワしている師匠せんせい。可愛い……。


「詩織!違うからね!?楽しくなんかないからね?」

「……」

「ごめんなさい」

「うん。レファ、こっちに。そこは危なそうだから」

素直に謝れたレファは許してあげる。


「いや、なっ、詩織。俺だって……」

「男が女々しく言い訳などするな!貴様はここで成敗してくれるわ!」

たぶん待ちきれなくなったのね。

強引に割り込んできて思いっきり魔力を解放させたわね。


もう少し離れておいた方が良さそうだから、レファを促して離れる。

ついでに四天王の方々とか、大鬼さんも離れさせた。


「うるさい。そもそもお前が詩織を攫って行くから……」

「くっくっく。それならすぐ助けに来ればよかっただろ?1か月も遊んできたクズ男なんかに詩織は相応しくない!」

「待て。お前らなんでそんなに仲良くなってるんだよ!?」

「女の友情にクズ男が入ってくるな!行くぞ!!!」

「うおっ」

そう言うとイルデグラスさんは無詠唱で魔法を放つ。


魔王と勇者の戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。




物語で言う憎しみとか恐怖とかは一切ないけども。

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