第107話 信じる力
□新宿ダンジョン100層ボス部屋(姫乃)
悔しい……もう力が残っていない。
攻撃魔法どころか、回復魔法も支援魔法すら使う魔力が……。
立ち上がる気力さえも。
こんなことなら八咫烏にいたときからもっと本気で鍛えていればよかった。
あんなに長い時間を無気力に過ごしてしまった。
そんなどうしようもない反省に意味などないのに……。
情けない……。
とりとめもなくそんなことを思っていたら不意に体が暖かくなった。
何かに包まれたかのよう。
目を開くと自分の身を包んでいるのは白い暖かい魔力。
さっきまで凶悪な魔法を発動しようとしているモンスターのお爺さんからの圧力でもがいていたのに。
それが薄れている。
あの赤い光から守ってくれたのと同じもの。
あの時感じたのはなんだった?
あの時も暖かかった。
まるで眠れない夜にお母さんに抱っこしてもらった時みたいな淡い喜び……
お母さん?
え?
私はなんとか体を起こす。
視線の先にはあのリッチさんがゆっくりとモンスターのお爺さんの方に向かって行っている。
表情はわからない。
でも……。
そうとしか思えない。
なぜかなんかわからない。なんでこんなことになっているのかも……。
ずっとお父さんと一緒にいたの?
お父さんの中にいたの?
意識があるのかどうかもわからない。
……きっとお父さんみたいに話すことなんかできないのね……。
それでもずっと?
今も?
もしここで消されたらどうなるの?
あのリッチさんは、お父さんとは違う。
さっきヴァンパイアさんはなんて言っていた?
死ねば戻らないと言っていなかったか?
そんな……。
お母さん、消えちゃうの?
なのになんでそんなに前に出るの?
いや……。
いやよ。
誰か……
違う……そうじゃない。
私だ。
私が頑張らないといけないのよ。
もうただ、守られているだけの小さな女の子じゃないのよ。
諦めてただ戦うだけの機械でもない。
お父さんに、夢乃に、仲間たちに、なにを教わってきたの?
「ほう、立ち上がるか……その意気やよし」
私は私を囲んでいる白い魔力を取り込んだ。
まだ戦える。
リッチさんが私の方を振り返って止まる。
この白い魔力……やっぱりリッチさんが出してくれているのね。
私を守ってくれるのね……お母さん。
例え喋れなくても。
例え偶然の産物でも。
私が諦めるなんてことをしてしまったから、それを教えてくれたのね?
優しいけど厳しかったお母さん。
私は剣も盾も失ったけど、それでもまだこの魔力があるわ。
『想像以上だ。素晴らしい想いだ。心のままに使え。その盾を呼び覚ませ』
「受けてみるがいい。"
お爺さんは私に向けて魔法を放ってきた。
私はリッチさんよりも前に出ている。お母さんを守れる場所だ。
そして発動する。
ただただ心の奥底の想いに従って。
こんな魔法は使ったことがない。
でも確実に使える。
だから私は唱えるだけ。
両腕を掲げ、魔力を注ぎ込みながら、ただ口を動かすだけ。
「"
お爺さんが放った黒い魔力と私が放った白い魔力。
二つが交じり合う。
その私の手に"盾"が現れた。
これは???
『それは聖具である"盾"だ。良い気力。そして良い覚悟だ。"盾"は君を気に入ったようだ』
聞こえてくる声が何なのかはわからないけど、私はその盾を改めて構え、魔法を防ぐ。
なんという、心地良さ。
暴れ回る黒い魔力の奔流に晒されているというのに、感じるのは安心感だ。
まるで産まれ出でたときからずっと守られてきたかのような安らぎだ。
「姫乃、よく守った!あとは任せて!」
そしてそこに飛び出してきたのはフランだ。
良かった。無事だった。
けど、視界に捕らえたのはフランが質素な剣を振り被っているところ。
彼女はお爺さんが魔法攻撃に集中し、私の魔法と拮抗している隙に距離を詰めていて、一気に攻撃に移っていた。
けど、その剣は?
大丈夫なの?
『問題などない……。我は折れたりしない。安心せよ』
「わかっているさ。もとより疑っていない!行くぞぉおおぉぉおおお!!!!」
「なっ、なに!?」
お爺さんは斬りかかってきたフランに驚いているが、対応はできていない。
この魔法は、ロゼリア?
「ふん、そうやって上位にいるつもりになって周りを見下していたことが敗因よ。そしてそんな風に考えてしまう心がまだあんたの心の中に残っているということ。しっかり噛み締めて死ね!」
見ると彼女も杖を持って立っている。
「ばっ……ばかなぁ!?」
『ここがどこか知らぬが不思議な感覚だな。その魔力ごと頂こう』
「"閃"」
その一撃はまるで時間が止まったかのようにゆっくりと流れ、ジュラーディスを切り裂いた。
□???
ずっと傍にいたものが落ちた……?
もういつだったかすら思い出せない遠い昔。
滅ぼした世界の一部をダンジョンに取り込んだ。
あの時に紛れ込んだものが。
結局、あれは達成することができなかった。
当初は可能性を感じた力も、途中からは伸びなかった。
我に対して、想定とは異なる死を提示してきたときには驚き、怒った。
それ以来、小さくまとまってしまった小さきもの。
感じるのは近付く滅び。
早く我を倒せ。
手遅れになる。
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