第106話 自省の先に

「さすがにそこのたちを消すのは賛同できないわね。彼女たちは人間の探索者よ」

「なれば挑めばよい。我は構わん」

くっ、このジジイ。


「新たなる取り組みになるやもしれぬ。人と、管理者と、モンスターが共に戦うと言うのはのぅ!いくぞ!」

好きなことを言って攻撃を放ってくるジジイ。


「マジックシールド!マジックブースト!軍神!部隊強化!進軍!凱歌!鼓舞!」

「ディヴァイン・シールド!」

「……」

それに対して夢乃、姫乃、リッチの順で支援と防御魔法を展開している。

彼女たちはジュラーディスのことは初見のはず。

だけど、放ってくる魔法を見て展開した防御はかなりのものね。


それに私まで効果範囲に入っている。


「ロゼリアさんだよね?お父さんから聞いています」

「えぇ。共闘というところね。くそジジイを倒すわよ」

「いいのですか?」

「問題ないわ。ここに来るまでも殴り合ってたわけだしね」

「えぇ?」

彼女たちから見ると私とくそジジイは仲間に見えるのは当然だと思う。モンスターだしね。

でも、だったら彼は何なんだと言う話になるし、今ここにいるリッチだってそうよね。


くそジジイの言う通り、今までにない勢力図というかチーム構成になるもの当然か。

ほかならぬ迷宮神自身が促したのだから。


しかしくそジジイは強い。


連戦しているはずなのに全く衰えない。


それにさっきまでの白い魔力は消えてしまった。



姫乃の防御と、夢乃の支援魔法、リッチのでたらめな攻撃魔法でなんとか持たせているけど、フランと私が厳しい。


フランは武器が破損していて全力を出せていない。

私はさっきのジジイとの殴り合いで魔力量に不安がある。


くそっ。



「手加減はしてやれぬのじゃ。これは頂きへと続く布石かもしれぬのでのぅ!」

「くっ……」

「うぐぅ……」

そして姫乃の防御が回避されてフランが直撃を受ける。

通常のモンスターとの戦いとは違う展開になると対応できない。たぶん彼女たちに取って経験不足な点よね。


普通、ある程度のヘイトや注意を集めた盾役からモンスターが意図的に注意を移すことはない。

ただ、これが対人戦だと考えたら、普通は厄介な相手や、ハンデを抱えている相手から落とすだろう。


攻撃力に劣るフランが最初に落とされ、吹っ飛ばされてしまった。


こちら側のバランスが崩れて一気に防戦に傾く。

私は回復魔法を試みるが、ジュラーディスの攻撃が集中することになってしまった姫乃への支援と回復で手が回らなくなる。

リッチすら防御や支援に回ってしまった。


さっきまでのは当然遊びよね。

本人がやる意義が見いだせないとか言っていたものね。

降り注ぐ光や闇の魔法。



「急ごしらえのチームではやはり厳しいか。可能性は感じるのだがのぅ。まぁ、ここは我の勝ちじゃ。そこのリッチは貰うぞ」

「させません!"聖なる盾セイクリッドシールド"!」

「お姉ちゃん!?」

特に魔法名は唱えずに放たれた怪しい光を姫乃が受ける。

正直、驚いた。

人間の探索者……それを侮っていたのは私も同じかもしれない。

ジュラーディスのことを言えなくなったわね。


それくらい素晴らしい魔法だった。

さっきの夢乃とは違って外部の支援は受けていないにもかかわらず、あのジュラーディスの魔法を止めた。



しかし、そこまでだった。

力尽きたのか姫乃が倒れる。


「くっ……」

支援型の私や夢乃だけではどうしようもない。

リッチすら魔力がほぼ残っていないようだ。


詰んだか……?



「リッチさん!」

そしてリッチがゆっくりと前に進み出る。


「今はこれで終わりじゃのう」

ジュラーディスは勝利を確信したのか、最後の一撃となる魔法を紡いでいる。

 


「どうして?」

夢乃が呟くが、リッチは犠牲になるつもりだろう。

ジュラーディスの目的はあのリッチだけ。

魔法を放ってあのリッチさえ消せば他には手を出さずに去るだろう。

そしてあのリッチはモンスター。

普通に考えたらまたリポップする魔物であって、命を賭して守るべきでもない。


心配するなとでも言っているように穏やかに前に進み出た。


でも本当に?

本当に”あの"リッチは戻るの?

何かおかしいのよね……。

さっきの白い魔力もそうだし。


いや、また放出されている……あのリッチから。


もしかしたら彼の一部?

そんなわけないわよね?



□フラン


くそっ、前衛火力があっさりと吹っ飛ばされては倒す可能性がなくなるのに……。


以前リッチから言われた通り、どんな武器でも戦える一方で、これと決めた芯になる武器がない。

見つけられていない。


あれ以降、多くの武器を見て来た。

ドロップアイテムも得た。

しかししっくりこない。


『それは君の心の問題かもしれないな……』

だれ?


『私か?私のことは気にするな。今は君の問題だ。理解はしているだろう?』

それはそうだけど。


『はっきりとした理解はできていないと思うが、今の状況はまずいぞ?あのリッチは多分死ねば消える』

なっ……?


『君がすべきことは深い自省だ』

自省?自分は失敗ばかりだが。


『そう言う意味ではない。どう言えばいいかな?なぜ君は武器を決めれないと思う?』

なぜ?

なぜだろう?

私はずっと1人でやってきた。

身を託せるものは自らの拳。そして剣だった。


『いいぞ。その調子だ。それで、実際にどうしてきた?』

実際に?

私が初めて身につけたのは借り物の武器だった。


『その武器はどうした?借り物なら返したのか。最初に手にいれた武器は?』

返したな。最初の自分の武器は協会から貰った剣だったな。


『それはどうなった?』

折れたな。巨大な亀の甲羅に叩きつけたら折れた。


『そうか。その次は?』

次は買ったんだ。信頼できる武器を、とその時も言われて、高いものを買った。


『それは?』

折れたな。金属製のゴーレムに叩きつけてな。


『君は剣技というものは?』

特に習ったことはないな。それが問題か?


『いや、間接的にはそうかもしれないが、直接的にはそれじゃないな』

うーん……。


『どう思った?剣に対してだ』

どうとは?今までのものは折れて、次を入手する。その繰り返しだ。


『つまり?』

つまり?えっと、剣だよな?


『あぁ、そうだ』

剣は折れる。


『君の使った剣は全部そうなってきた。だから君は剣は折れるものと思っている。そこでだ。君にとって剣はなんだ?』

剣は……武器だ。その……ダメになったら変えるものだ。


『だろうな。つまり?』

つまり?それ以上何かあるのか?


『君は何か強力な剣があったとして、それがあれば大丈夫と思っているか?例えば今戦っている相手に対して』

思っていないな……。そうか、そういうことか。


私か。



私が剣を信用していないんだな?



『そう思う。だからこそこれだという感覚を剣に対して持てないんだろう。翻って、探索者に対してはどうだ?』

今まではずっと同じだった。

探索者も信用できなかった。


『今は?』

今は違う。姫乃も夢乃も。レファも、詩織も。彼女たちは強い。もうダメだと思っても立ち上がる。


『信用できる?』

信用どころか、信頼している。


『彼女たちだって敗れ去り、折れることもあるだろう。死ぬことだって』

それは避けたい。でも、もしそんな状況になったとしても、それは全てを尽くした後だろう。

後悔はない。

私はただ、みなに命を預けて戦うだけだ。それはきっと全員同じだ。


『そういうことだ。そして、"剣"だってそうだ』

えっ?


『さぁ、目を開けるんだ。そして握れ……』

なにを?






『"私"をな!』

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