第105話 白き魔力

□新宿100層ボス部屋(ロゼリア)


「貴様は何じゃ?どうしてここにおるのじゃ?」


飛び出して行ったジジイを追いかけてここまでやってきた。

ちょっと前まで自分の部屋だったし、なんなら今だってそのつもりなんだけど、今この時点でのこの部屋の主はジジイに詰め寄られているリッチだ。

どんな絵面なんだろうか?


ジジイ×死霊なんて需要ないでしょ?

ただお迎えが来ただけじゃない。

やって来たのがジジイで、宣告を受けているのが死霊っていうのが普通と逆で珍しいくらいでしょ?



「何も答えぬか……」

「……」

そしてリッチは何も答えない。

当然なんじゃないかな?

もしそのリッチが彼と無関係なのならただのとばっちりだ。


何も知らない普通のモンスターであるリッチを、モンスターの支配者を名乗るジジイがリッチの与り知らない理由で問い詰めて、なんなら殺そうとしているだけ。



「なにかのイレギュラーかもしれぬしのう。一度殺せば何かわかるか」

そしてこのジジイの考え方は基本的に暴論だ。

何度でもポップするモンスターだからこその理論ではあるが、やられる方はたまったものではない。


「エターナルダーク!」

そしてジジイは魔法を撃ち込む。

普通のリッチなら逆立ちしても弾けないレベルの魔法だ。

もし彼だったとしても40層のボスだった頃なら厳しいかもしれない。

きっと"素通りさせるモード"とか言って適当にあしらうんだろうけど……本当に面白いわよね。さすがお兄ちゃん。


「なに?」

私が彼を思い出していると、ジジイが驚愕の表情を浮かべていた。

そりゃそうよね。消し飛ばして終わりの簡単なお仕事かと思ってたのに普通に跳ね返されてカウンター喰らったら驚くわ。


って、このリッチ強いわね。

あのジジイと普通に戦ってるってどういうこと?

「やるではないか、ロゼリアよりも上か」

「うるさいわよ」

私だってびっくりしてるわよ。

これ、本当にお兄ちゃんじゃないの?


全くもって予想外の魔法戦が開幕してしまった。

さっきの私よりも激しい攻撃魔法。それに付与された特性まで考慮された緻密な防御や支援魔法。

相手の先手を狙ったり、カウンターだったり、意表を突いたり……それでいて前後に放出された魔力すら利用するようなデザインされた戦闘だった。

 

「ふむ……何も知らなければ素晴らしいと褒めたたえて候補者にあげるレベルだのぅ。ただ、あのリッチとはやはり違う。似た技術は使っているし、考え方も近いように思うが、1つ1つの魔法に対する理解が浅い」

そろそろ理解を放棄しましょう。それがいいわね。


前世で聖女とか言われていたけど、それは戦闘狂になるためじゃなくて、溢れる魔力と回復魔法の技術から来るものなのよ。魔力による戦闘技術なんて知らないわ。




「これは?なにをしている?」


そこに入ってきたのは、確かフランソワードという女。

続くのは彼の前々世の娘たちだった。

これはまずいかも……。



「探索者か?なぜ下層から?まさかボスを倒していないものを通していたのか?」

「そんなリッチを倒さないと先に進めないなんて、新宿だけハードル上げ過ぎになるでしょ?あなたと普通に戦える時点で明らかにエメレージュたちより強いし」

「それでも許容できん!どんな理由があったとしても、100層のボスを倒さずに深層に向かわせるなどな!!!」

そして頑固ジジイが怒り始めてしまった。


これまでは互角に展開されていた戦いが、ジジイ側に傾く。

普通勝利の女神かわいいこがやってきたら正義が勝つと思うんだけどな……。


あぁ、もとから女神がここにいるけどね。



しかしこれはまずい。

ジュラーディスは恐らくリッチを倒してしまう。

一方で、リッチが探索者を通していた理由が気になる。


もしかしてリポップしたら消えてしまうようなものなのかしら?



「待って。理由を確認した方がいいんじゃない?」

「どうせ倒せばわかる!」

「倒したら二度と現れないかもしれないわよ?」

「それならそれで構わん。そんな不確定な力、迷宮神の目的には沿わぬ!」

「これだから頑固ジジイは……」

全く会話にならない。


こちらの意見を端から聞く気もなく攻撃を続けるジジイを見てうんざりする。

そして入って来た、確か戦女神ヴァルキリーというチームの娘たちも激しい魔法戦に手を出すことはできない。


「止めだ。"根源たる闇の帳アビサル・ダスク"」

「……」

ジジイの衝撃的な魔法を前にして、リッチは……彼の娘たちを見ている?なぜ?

骨だけのリッチの視線にどんな感情が籠っているかなんてわからない。


でも、何かを感じてしまったのね。

もう止められない。

魔法は当たる。


「なっ?夢乃!!!?」

「"神秘の壁アルケイン・フォート"」

ジジイの魔法がなぜか飛び込んだ娘を巻き込んでリッチを消し飛ばすと思ったが、そうはならなかった。


リッチが身につけていたお守りのようなものから白い魔力が溢れ出し、それを飛び込んだ娘が魔法に使ったことはわかった。

そしてその魔法はジジイの攻撃を完封できるほどの凄まじい防御魔法だった。



「えっと、どういうことかわからないけど、なぜリッチを攻撃するのかしら?」

凄まじい白と黒の魔力の奔流が収まった後、その娘はジュラーディスに訪ねた。


「その白き魔力……エメレージュに持たせた魔道具による転移を防いだものだのぅ……」

しかしジジイはジジイらしく人の話など聞いていなかった。

興味の対象はお守りから溢れ出した白い魔力。そしてそれを使った目の前の娘。


「なぜか懐かしく感じる聖属性の魔力じゃと?」

そして考え始めた。




「夢乃!」

「フラン、お姉ちゃん」

「もう、びっくりしたわよ!」

「ごめん……でもなんか体が勝手に」

娘たちはジュラーディスを警戒しながらも手を取り合っている。


もしこれ以上ジュラーディスがリッチを攻撃しようとするなら、私も加勢しよう。

さすがにこの娘たちまでジュラーディスが消すようなことがあったら、間違いなくお兄ちゃんは怒り狂うから。



 

「照合完了……白き魔力は危険の象徴じゃ。ここで消せと……」

「何を言っている?」

考え込んでいたところから急に眼を閉じたまま話し始めた。



「簡単なことじゃ。危険分子は消せ。……それが迷宮神の答えじゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る