第104話 女の怒り

□新宿ダンジョン200層(ロゼリア)


結果としては、全く歯が立たなかった。

放つ魔法はすべて撃ち落とされ、攻撃はいなされ、逆に魔法を撃ち込まれ続けた。


こんなのを相手にたまにでも勝てるリッチお兄ちゃんが異常なのよ。

どうやっているのかちゃんと見ておけばよかったわ。

後悔しても遅いけれど。


 

それでも私は戦った。


許せなかったから。


私の魂を捕らえてロゼリアこの体に入れ、思うように操ったこいつが。


「まだまだだのぅ」

「ふん、まだ終わってないわ」

どれだけ傷付こうが関係ない。自動で修復されるし、もし死んでもどうせ蘇る。

思う存分やってやるわ。


「なにに怒っておるのじゃ?魂を捕らえたことか?ロゼリアそれに入れたことか?真実を隠していたことか?利用していたことか?あのリッチの前世のことなら、我も知らなかったのだから文句を言われても答えられぬのじゃが?」

「そんなのわかんないわよ?怒りの本質なんかわからない。ただムカつく。それだけよ!」

ありったけの魔力を駆使して攻撃する。

もう喰らう攻撃なんて無視よ。

とりあえず一発殴るわ。

考えるのはそれからね。できることなら消し飛ばしたいくらいの怒りを感じてるの。恨みを受けて当然なことをしてきたんだから受け入れてね。


「全く、修行でもない戦闘など無意味じゃ。魔力を使う意義も感じられん。お前は何をしているのじゃ」

「だったら大人しく殴られなさいよ」

「いやじゃ」

「こんの、くそジジイ!!?」

後付けで様々な特性を付与したり付与しなかったりした魔法をひたすら乱れ打ちする。

もうフェイントとか考えてもいない。


適当よ。

その方が予測しづらいでしょ?


この空間なら避けられても特に実害はないからひたすら撃つだけ。


「ふん。面白くはあるが、迷宮神に向かわぬ力など受けても……仮に倒されても何の意味があるのかわからんのう」

「だったら黙って殴られて一回死んできなさい」

「それはいやじゃ」

「どうせあなたは周りを見下している。自分にも無理なことを自分より劣るものに実行させて上手くいかなかったと。ただただ業を重ねているだけでしょ?」


わかってるのかしら?

殴られるのが嫌だと思う気持ちがあなたにも残っていたということなんじゃないの?

なぜ嫌なの?

うっすいプライドでも残っていたということでしょ?そしてそれが迷宮神へのチャレンジにも漏れだしてるのよ。最初からダメ元というか、気付いてもいない本心のところで無駄だと思っているにもかかわらず、生命を弄んでるんじゃないわよ。


これを問えば思い悩む……というか考え込むくらいはするかなとは思う。

でも、どうせこのくそジジイに愛着も義理も義務もなにもないからそんなことはしない。


可愛い女の子のストレス解消のために軽く腕をつねられるくらい、許容できない狭量な男に興味なんかないのよ。

もしリッチお兄ちゃんだったら思いっきりやらせてくれるわよ?

つまりあなたなんかリッチよりも下なわけよ。

超えるべき壁なんだから、三下らしく消えてほしい。


だからこの胸の中のムカつきが収まるよう、とりあえずとっとと殴らればいいのよ。


10発でダメなら100発。

100発でダメなら1,000発。

それでもダメなら……当たるまで殴るだけよ。


体力だけならこっちの方が優位なはず。

ジジイの攻撃で沈まない限りは……


 

今当たったわね。


「……」

「どうしたの?殴られて憑き物でも落ちたの?」

私の可愛いパンチが当たって頬骨くらいは粉砕したと思うけど、そんなに動きを止めるほどの衝撃はなかったんじゃない?どうせすぐに回復してるでしょ?

なのになぜ遠い目をしてフリーズするのかしら?


まさか私の拳に自分でも知らない特殊効果が?

軽く当たるだけでジジイの意識をどこか異界の果てにでも飛ばせるような……いえ、ジジイ特攻とかいらないんだけども……。



「どういうことじゃ?」

「ん?」

急に視点が定まったかと思ったら、意味の分からない疑問符の呟きを漏らす。

ついにボケたかしら?


「なぜあのリッチがいまだに新宿ダンジョン100層のボスをやっておるのじゃ?」

「そんなこと、私に言われても知らないわよ?」

「お前の仕業ではない?どういうことじゃ?」

どうやら新宿100層のボスとしてリッチが出ているのが気になるらしい。

なぜか怒ってる表情で私に問われてもわからないわよ?

エメレージュは別のダンジョンのボスになってはっちゃけてるから、新宿100層に出るボスモンスターの再設定がされたんだと思う。普通ならもともとボスとして出るはずだったモンスターから選ばれると思うけど、リッチもボスとして出ていた時期があるし、別におかしくないんじゃない?


「どうせ異世界に行ったのはリッチに入っていた彼の魂だけとかいうことなんじゃないの?」

「あの"リッチ"であったときの特性を全て無くしてただのボスモンスターになっているのなら理解できるのじゃ。そうではなく、称号は一部を除いて持ったまま、技術も"リッチ"を遥かに超えておるし、死に戻りとか言うふざけた機能も使ったままじゃ」

「それは確かにおかしいわね……」

彼は基本的におかしいけど、彼の魂は抜けて行って今は異世界にいるはず。

いや、人間の探索者が体ごと転移したことを考えると、同じアイテムで転移した彼だってモンスターとしての肉体は持って行っていると考えるのが自然だ。


なのになぜ?



「まぁいい。行って問い詰める。答えずとも、倒せばなにかわかるじゃろう」

「あなたがモンスターを倒すの?」

「やりたくはないが仕方がない。イレギュラーが入っているなら問いたださねばならん。我らを邪魔するものであるならなおさらな」

「待ちなさいよ。そもそも新宿ここは私の管轄なのよ?また殴られたいの?待ちなさい!!」

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