第103話 世界最強チーム
□新宿ダンジョン115層(姫乃)
100層以上の深層にはそれまでとは違って層ごとにボスが存在する。
私たちは100層のリッチを倒せないまでも、通してもらって挑んだ深層で着実に攻略を進めていた。
そしてたまに100層に戻ってリッチに挑むが、いまだに勝てなかった。
少なくとも114層のボスよりもあのリッチの方が強いと言う衝撃の事実……。
まぁ、今そんなことを考えている余裕はない。
相手は115層のボスの"暗黒竜"だ。
101層以降、毎層でボスが出てくるとは言っても、5層ごとのボスは強い。
今も触れただけで気が触れてしまいそうな攻撃を受け流しながら、基本に従って着実にダメージを与え続けている。
3人しかいない攻略だが、攻撃は前衛火力のフランに任せ、私は守りつつヘイト管理、夢乃が支援と回復という役割分担で、ひたすら耐えて回復しながら少しずつダメージを与えている。
こんなことは普通のチームにはできないが、暗黒竜は常時回復のスキルを持つものの、回復魔法のようなものは持っていない。
だから、常時回復以上のダメージを与え続ければいずれ勝てる。
もちろん、そのためには終盤で狂ったように連発してくる強力な魔法やブレスを全部防ぎながら、ダメージを与え続ける必要があるが……。
「姫乃、行ける?そろそろバーサクモードに入りそうよ!」
「問題ないわ!対策は初見だった前回と違ってバッチリだから、まだ余裕もあるしね。夢乃のバフもあるし」
「お姉ちゃんファイト!しっかり支援するからね!」
私たちは少し油断していたかもしれない。
前回はダメージが間に合わずに回復されてしまったから、撤退した相手。
だけど今回は攻撃パターンも調べ、アイテムも使って自分たちの魔力を使いすぎないように気を付けて戦えていた。
世界で初めてこのモンスターを倒した元世界ランク2位のフィンデル・クレスメルド氏のチームは亡くなると同時に探索記録を全世界に公開してくれていた。とても有用でありがたいものだった。彼が探索していたダンジョンだと、暗黒竜は110層で出て来たらしい。
その記録をもとに戦いのシミュレーションを行い、起こりうる事象への対策を準備してきた。
今のところそれに従って暗黒竜を削り続けている。
安定してダメージを与えられている。こっちはまだまだ余力もある。
このままなら行ける。
そう思ったのがまずかったかもしれない……。
「待て!青い光だと?」
「えっ?水系?いや違う。あれは何?」
「とにかく耐える!夢乃!支援を増やして!」
「わかった!」
戦いが佳境に入ってからの想定外の動き。参考にした情報よりも深い層で出てきたことによる特性の差なのかも?
私たちは個々の戦闘能力はあげて来たけど、まだまだ経験や連携が足りていない。それは自覚している。
一か八かの賭けになってしまうわね。
「ゴーストとかそっち系だった時のためにエレメンタルガードかけるね!あとは精神系デバフ対策重ねとく!それからマジックシールド!マジックガード!プロテクト!って、もうわかんないから全部かけとくわ!軍神!部隊強化!進軍!凱歌!鼓舞!」
私たちは経験不足。それを、細かい使用量のコントロールで余らせていた残存魔力によるバフの重ね掛けで補うのよね。夢乃はちゃんとわかってる。
暗黒竜がブレスのために動きを止めたわずかな時間の間にありったけのバフをくれた。
暗黒竜の体力も残りわずかなはずなので、ブレスに耐えたらラッシュね。
そしてブレスが放たれる。
そのブレスは予想通りゴースト系の属性を纏った反則的なものだった。間違いなく物理防御は無視して貫通してくる。
さらにその攻撃は暗黒竜から直線的には放たれず……
「きゃあっ」
「夢乃!?」
「姫乃は夢乃を守れ!私は斬る!」
「わかった!」
予想外の攻撃と攻撃ポイントにチームの陣形は完全に崩れた。
予期せず攻撃を受けた夢乃ははるか後方に飛ばされてしまった。しかも、まだ暗黒竜の体は夢乃の方に向いている。
「転移!」
追撃が来る前に、私は夢乃の隣に行く。
酷いケガだ……。
息はある。
支援魔法はチーム全体にかけていたし、夢乃自身が使った部隊系スキルは全て本人にもかかっていて助かった。
私は周囲の状況を確認するための時間も惜しかったので、そのまま夢乃を連れて3連続転移を実行する。
これで注意は外れたはず。
転移の合間に最低限の回復を施す。
転移後に暗黒竜を見ると、フランが斬りかかっていた。
あのブレスの放出後に暗黒竜が動いていない。
チャンスだ。
「お姉ちゃんありがと!部隊スキルは全部残ってるから、攻撃支援の魔法だけかけるね。ブースト!マジックブースト!」
弱弱しいながらも支援をくれる。
夢乃の魔法の効果範囲はすでにダンジョンを超えても維持できるという信じられない領域に達している。
もちろん今のバフはフランにもかかったはず。
「行くよ!セイクリッドクロス!!!」
遠距離からの聖属性の斬撃を放ち、それについて走る。
「ファイト!お姉ちゃん!私の火力だとダメージにはならないから、これだけ……アースシェイク!」
私の後方から夢乃が魔力を振り絞って魔法をかける。
地面を揺らして相手の動きを封じる魔法……暗黒竜のいる範囲全体とか、凄いわね。
「姫乃!合わせろ!」
「えぇ!」
そうしてラストは魔法剣主体の連撃だ。
暗黒竜はほぼ沈黙している。あのブレス……一か八かみたいな攻撃だったのかな?
ただ、暗黒竜は首や腕を動かし始めている。
再起動される前に倒す。
暗黒竜の爪や牙、尻尾を避けながらひたすら攻撃する。
もはや防御とか言ってられない。
暗黒竜も魔力を惜しんでいないようで、全ての攻撃に黒い魔力が纏わりついて来る。
例え盾で受けたとしても衝撃とデバフで動けなくなるだろう。
だったらもう、あとは相手の自然回復を上回る勢いでダメージを与えて倒しきるしかない。
すでにフランは両手で大剣を握って斬りまくっている。
私もそれに続く。
暗黒竜の尻尾は切り落としたし、腕や爪はボロボロだ。痛みに耐えれなくなったのか顔もあがっていて牙の攻撃も来ない。
「"
「"
お互いにひたすら斬り続けるスキルを発動する。
斬って斬って斬りまくれ!
休む暇なんてない!
削りきるんだ!
行っけぇぇえええぇぇえええええええええええ!!!!!!!
「ヒール!」
ようやく魔力が回復してきた夢乃が私たち2人に回復魔法をかけてくれる。
「やったな」
「えぇ。勝ったわね!」
「ヒャッホウ♪」
フランはしみじみと、私は努めて明るく、夢乃はちょっとテンションおかしいわね。音楽もないのに躍っている。脳内再生かしら?
私たちはなんとか暗黒竜を削り切った。
もうボロボロだ。
フランの大剣もボロボロだ。
避けていたとはいえ、掠っただけでも暗黒竜の魔力はダメージを与えて来たからで、本当に紙一重。
途中でフランか私が1回でも攻撃を受けていればその瞬間終わっていただろう。
そんな状況を乗り越えてチームで勝ったのも嬉しい。
これで名実ともに世界トップだ。
なにせ探索の到達地点としては世界最高峰だった115層をクリアしたんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます