第102話 チョロい……その3

『くはははは、やっぱやるなぁヴェルト』

「うるせぇよ。疲れたんだよ。早く加護よこせ」

『やだよ。なんでお前に加護をやらないといけないんだ。お前が強くなるじゃねーか!』 

「お願い、"獣"さん」

『くぅ、アルトノルン。やっぱりそいつが大事なのか?』

「え~と、うん?大事というか、仲間よ」

『そうか……照れなくてもいい。お似合いだから。加護だな。ほらよ。アルトノルンはもともと持ってるからいいよな』

「うん?ありがとう♡」

くそぅ。

散々疲れさせといてそれかよ。ふざけんな!って思ったら、レファのお願いでコロコロと転がるチョロい"獣"。

しかもきっと勘違いしてる……いや、してないか。

レファがおバカさんなだけで、いつも通りだ。


「むぅ、なんかバカにしてるようなこと考えてるでしょ!」

「いやいや。感謝でいっぱいだぜ?ほら、触ってみろよ。特に何の反応もしてないだろ?」

「どこ触らせてんのよ!しかもそれ感謝してないじゃない!ふざけんなくそリッチ!!!!!!」

あまりやると怒られそうだからそろそろやめておこう。

 

 

『くっ、見せつけやがって』

そう言えばこいつはアルトノルンに懸想してたからな。

ほらほら、見たまえよ。

ふはははははは。

そもそも懸想してただけで、暑苦しく殴り合おうぜとか言うもんだからアルトノルンにも避けられてたしな。


まぁ、話し変えるついでにお願いもしてみるか。

 

「あともう一人、俺が魔法をつなげてる詩織って子にも加護をあげてほしいんだ」

『誰だよ!まさかてめぇ、アルトノルンがいながら、他の女にも手を出してるんじゃないだろうな!あぁん!?』

「違う違う。娘だよ。別の世界のだけど、今回俺たちがこっちに飛ばされたのについてきてしまってな。頼むよ」

『くっ、娘か。アルトノルンのか?……くそっ、わかった。ほらつけといたぜ』

誤解されたレファがプルプルしてるけどここでばらしたら不味いことくらいはバカなこいつでも理解してくれてるみたいで何もしゃべらない。

 

それにしてもなんかチョロすぎて申し訳なくなるな。

もし万が一またこいつに会うことがあったら謝ろう。

今はなりふり構っていられないから、許してほしい。



『じゃあな、さすがに力を使いすぎたから俺は帰るぜ』

「あぁ、またな。もうこの世界に来る気はないけど、もし来たらまたその時にな」

俺たちは三日三晩戦った強敵ともとして暑苦しい握手をして別れた。




『で?私は連れて行ってくれるんだろう?』

まだ終わってなかった~。こいつを忘れてた。どうしよう。


いらないとか言えないし……って、待てよ?

そう言えばフランが世界1位になってなんか緊張してたよな。

いまだにアドバイスしたような専用の大剣は入手出来てないし。

こいつ……ちょうどいいのでは?


「連れて行ってやりたいんだがな」

『ん?』

頼むからそんなに殺気を出すな。

向こうで寝転がってるランドドラゴンがびくっとしただろ?


「まぁ聞け」

『あっ、あぁ。すまない。また置いていかれるんじゃないかと思ってな。そんなことはないんだろ?』

ぐいぐい来んなよ。抜身の剣に言い寄られるのって、ただただ斬られそうなのと変わんねぇからな?


「俺は今は魔法使いだ。前世の時みたいに勇者じゃないから剣は使わないんだ」

『むぅ……しかし、お前は私を持てる』

俺の言葉に反応して、俺の右手に収まる"剣"。

たしかに持ててるな。

どうでもいいけど、可愛い子にモテたい。


「今は前世の体になってるみたいだからな。でも、元の世界に帰ったら、俺はリッチなんだよ」

『どうしてそんなことに?』

「いや、話すと長いから俺の頭の中を読んでくれ」

『わかった』


しばしご休憩……。

今のうちに俺たちの会話を無視して眠り始めたレファを小突いておいてと……。


『なるほど。理解した。それでも連れて行ってくれと言ったらどうする?』

「痛いわよ!なにしてんのよ!」

そうだ、なに言ってんだよ!?


……。


2人して睨むな。

とりあえずレファは無視でいいとして。


「もしお前さえよければな。俺の仲間の剣士に使われてみてほしいんだが」

『仲間の?お前の記憶にあった、お前の腕を切り落とした剣士か?』

「そうだ。才能、素質は十分だと思うんだ」

『もし私が持てるのであれば、お前の仲間に使われるのは構わんが』

おぉ、期待できそうな応え。持つべきものは仲間だな。


「では行ってみてほしい。この世界からならオルレングラ地底洞窟の途中にできたダンジョンを下って行って、200層で折り返して登っていけば向こうの世界に辿り着けるから」

「えぇ?」

『わかった。行ってみよう』

「うん、頼む。もしかしたら何か困ってるかもしれないから、助けてやってくれると嬉しい。ちなみに向こうの世界で最強の剣士だ」

『ほう。了解した。何かあれば頼ってくれ』

「じゃあ、これも持って行ってくれるか?眠りすぎて意識はないみたいだけど」

『了解した。"杖"と"杯"だな』

詩織が送ってきたグラスは実は聖具である"杯"だった。

きっと魔王城にあって、調度品として使われていたんじゃないだろうかと思う。

 

"剣"と違って他の聖具は使用者を認めないと持てないなんていうお茶目な仕様にはなっていないのか?それとも意識がはっきりしていて使用者を選別するのが"剣"だけなのかはわからない。


わからないけど、魔力は使えるし、武器や支援の魔道具として優秀だからとりあえず"剣"が向こうの世界に行くなら、姫乃や夢乃たちに渡してほしい。

どう考えても今は向こうの方が戦力が低いからな。

なんなら早紀さんに使ってもらってもいいくらいだ。


「私の"本"は私が使えばいいのよね?」

「あぁ。それでいい、というかその方がいい。聖具は見合ったやつが使うのが一番だ。俺の見立てだと、"剣"はフラン、"本"はお前、"冠"が詩織、"盾"が姫乃、"杯"が夢乃なんだ。あとは"杖"は以前は聖女が使っていたが、今は思い当たらない。他の聖具は知らないから、見てみないとわからんけど……」

『盾なら私が持っているから渡しておこう』

「まじかよ!?なんでだよ!?」

『持ち手もいなくて倉庫に眠っていたから回収してきたんだ』

やっぱり他の聖具も面倒なのかな?剣しか知らないが話すとチョロいくせに持ち主選定だけやたら気難しかったな……。


まぁそもそも聖具は使用者に相応の能力がないと使えないから、単純に使えるやつがいなかったからかもしれないが。


まぁ、今はありがたい話だから、貰っておこう。


「なるほど。ありがとな。では、頼む」

『わかった。お前もいずれその世界に戻るんだろう?』

「もちろんだ。詩織を取り返したら、とりあえず帰る。エメレージュやラガリアス……こっちの世界の元王女や元剣士、元賢者のやつらが好き勝手やってそうなのが心配だ」

『なるほど。あのバカどももいるのか。わかった。ではまたな』

「あぁ」


そうして飛んでいく"剣"を見守る俺たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る