第101話 チョロい……その2

ただただ殴り合う。

相手の顔を。腹を。胸を。肩を。背中を。足を。

手あたり次第、ダメージが与えられるならなんでもいいと、魔力を込めて殴り合う。


そんな時間がずっと続く。


「いい加減、もう飽きたのよ。丸々2日間殴り合ってるとかバカじゃないの?」

呆れた顔でランドドラゴンの上で寝転んでるレファの呟きが聞こえるが、すまんが気を抜ける状況でもない。


単純な魔法勝負なら絶対負けないと言い切れるが、その隙を与えることなく責め立ててくる。

こいつの一発が当たれば、そこから魔法障壁を崩され、注意を逸らされ、畳みかけられるであろうことは容易に予想できる。


肉体が傷つくのなんてなんとでもなるけど、負けるのはムカつく。戦いの手を止めるわけにはいかないんだ。


こうして考えながらもひたすら魔法を放つ。

周囲に展開した魔力を使ってフェイントも入れる。

少しずらした場所を起点にした魔法を放つようなトリッキーなこともやってみる。


"奇怪な獣"は基本頭で考えないから、フェイントには引っかかる。それに野生の勘で戦っているからか、魔法の起点を潰すように動くから隙もできる。

そこに1発で深層のモンスターを屠れるレベルの魔法を放つ。


しかし避けられる。

逸らされる。

流れるような動作で。


お互いにダメージは自動回復するからなかなか決着しない。


本当に、ただただ単純な殴り合いに移行しつつある。

それは俺の頭が疲労してきたせいもある。


本当は詩織成分が欲しいけど、レファ成分でもいいからくれないかな?

チラ見しながらふと考えてしまうが、こんなこと口に出したら目の前の敵が2人になってしまうからやめよう。



それにここまで思いっきり暴れるのは楽しいということもある。

内なる声と呼ぶことにしたが、あの不思議な導きはこの戦いに反対していない。


ということはきっと必要な戦いなんだ。

とっとと加護をくれと叫びたい気もするけどな。


それにジュラーディスと修行していた時以上に自分が研ぎ澄まされて行くのがわかる。

もう魔力の扱いに関しては前世を超えただろう。


やつの死角にブラックホールを作り出し、あいつが回避する方向に次元を隔離して限定した空間を用意してその中で核爆発を引き起こす。

そこから逃れてきたやつにさらに全属性を融合させた極大魔法を撃ち込みつつ、確率論的に導き出されたやつの存在可能性がある領域全ての物質分解を促進する。


もう自分でも何してるのか分かんなくなってきたけど、それでも戦い続ける。


『ふはははははは、楽しいじゃねーか!なぁヴェルト!』

「あっ、人違いです。ヴェルトって、あの昔の勇者様ですか?」

『えっ?マジで?』

魔法を行使しながら楽しそうに話しかけてくるからついからかってしまった。

考えを放棄すると素が出てしまうな……。

 

「ヴェルトという人は亡くなったはずです。俺は人違いですが……」

『えっ?えっと……すまん。ついヴェルトが帰って来たのかと楽しくなって』

しかし一度発した言葉を引っ込めるわけにもいかず、続ける。こいつやっぱりバカなんじゃね~か?


まぁ、ちょうどいい回復の時間だしいっか……。

申し訳なさそうにしているあいつの姿がウケる。顔の表情なんて判別できない異形のモンスターだから、本当に申し訳なさそうにしてるのかはわからんけど、声音は明らかに戸惑ってる。


「……」

しかしこれ以上言うことはない……。

どうしよう、『嘘でした~』とか言いづらいし、そもそも気付けよ。『……っなわけね~よ』って言うとこだろ?


「あれ?終わったの?」

そこへひょっこり起き上がって声をかけてくるレファ。


『アルトノルン???』

「えっ?誰?」

『お前、アルトノルンだろ!なぁ!ってことはやっぱお前はヴェルトだろ!嘘ついてんじゃねぇ!!!!!』

あっさりバレた?いや、まだ行ける気がする。


「アルトノルンって誰だ?あれはレファって言って、別人だが?」

『えっ?いや、しかし……アルトノルン、君は元魔王だろ?』

「知らないわ。私は綾瀬レファ、17歳よ」

『そっ、そうなのか?それはすまない。君が仲の良かった人に似ていたから』

チョロい……。

"彷徨う影"といい、こいつといい五神ってこんなにチョロかったっけ?


そこに剣が降ってきた。

って、なんでだよ!?

唐突すぎるだろ!

せっかく獲得した俺の体に傷がついたらどう責任取ってくれるんだ?あぁん!?


『やはりヴェルト。時は経ったが魔力紋が同じだ。久しぶりだな』

「あっ、あぁ」

いや、久しぶりだけども。タイミング考えろよ。

明らかに歓喜を纏わせた剣とか、どう考えても今いらねぇんだよ。悪いけど。

ちょっとは周りを見ろ!


『懐かしいな。前はたぶん"仕方なく"私を置いていったのだろうが、今度は持って行ってくれるんだろ?』

「あっ、あぁ……」

こいつはかなり強力な剣だ。癇癪を起すと俺にも斬りかかってくるくらいには物騒だし、話を無視すると拗ねる。

俺今は魔法使い系だから剣なんかいらないんだがとか言った瞬間に俺の胸に突き刺さってもおかしくない。


なんで前門の虎、後門の狼みたいになってんだ?

"剣"と"獣"に挟まれても嬉しくねぇよ!

詩織とレファにしてくれ。


「あとでお仕置きな、レファ」

「なんでよ!私じゃなくてその"剣"でしょ!?」

「顔を赤くしながら期待感に満ちた表情をしているレファ……」

「違うわよ!このエロくそリッチ!!!!」

『俺を無視するなぁあぁぁああああぁあぁあああああああ!!!!!!!!』


くそ。楽しい揶揄いタイムなのにお前こそ邪魔すんなよ。

そうして戻って来た殴り合い。さっきぶりだな。


ふん。会話してる間に周囲の魔力をまた取り込めたし、指輪で回復したぜ!

とことんやってやるぜ!!!!!!!


 

「またはじまった」

視界の端の方でレファとランドドラゴンがため息をついている(ように見える)。

君たち、ずいぶん図太くなったな……。


って、危ねぇな。


存在を消滅させるようなとんでもない魔法使ってんじゃねぇよ!

俺が消えたら世界中のリッチファンが悲しむだろうが!


『お前たち!私を無視して戦うな!おい!!』

うるせぇよ、お前のせいだから止めろよ!


しかし役に立たない。

剣だから目もないくせに、『目を白黒させてうろたえている』とかいう雰囲気を漂わせてやがる。



  

こうなりゃとことんやってやるぜ!(何回目?)

 



 

俺たちはその後さらに丸1日戦い続け、お互いに魔力の残りを振り絞って放つ渾身の一撃をぶつけ合った。

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