第99話 ラブコメ回④逃避行♡
□オルレングラ地底洞窟の近く(リッチ)
「次はどこに行くの?」
朝起きると、だいぶ落ち着いてすっきりした表情を浮かべたレファが聞いてきた。
今いるのはオルレングラ地底洞窟のある大陸だ。
ここは俺たちが転移してきた場所から近かったのでまずは立ち寄ったという形だ。
しかし、この大陸には五神が1柱しかいない。
この世界には5つの大陸があるが、そのうち2つは生命が住み着かないような厳しく寒い世界だ。
地球で言う北極とか南極とかの位置に大陸がある。
その1つに"封印された思念"がいて、もう1つに"見えない竜"がいる。
幸運なことに詩織が複数の"封印された思念"の欠片を手に入れたみたいだから、過酷な雪原に行かなくていいのはありがたいな。
そして残る2柱。"奇怪な獣"と"不浄の化身"がいるのが、西の大陸だ。
ちなみに魔王城もその大陸だ。
「次は西の大陸だ。近い順には"不浄の化身"がいるエルメド大森林、魔王城、それから"奇怪な獣"がいるハイグラ山脈だな」
「どうやって行くの?大陸ってことは海に囲まれてるんじゃないの?」
そう言えば人間が出てきてないけど、だって?
人間は主にここから見て東側の大陸に住んでいるものが多い。
西の大陸にもいるけど魔族の攻撃に晒されるし、奴隷にされて売られたりするからなぁ。
ちなみに今いる大陸にも人間の国はあるけど、特に思い入れもないから立ち寄りはしない。
「お前、元魔王なんだから翼くらいだせるだろ?」
「はぁ?って、出たわね」
まるで漫画のようにポンって出た。
トリガーはレファが"出ろ"って思うことなんだろうな。
翼があろうとなかろうと魔力を駆使して飛ぶわけだが、翼がある種族は翼を使った方が飛行が安定する。
これで海に墜落するようなことは起こらないだろう。
「行くぞ」
「えっ、えぇ。なんかふわふわするけど……あわわわわわわ」
安定して飛び上がる翼のない俺と、ふわりふわりと浮かんだあと急に低下したり高く昇ったりと落ち着かないレファ。
「手を貸してやるから、落ち着け」
「くっ、ありがと」
なんで悔しそうなんだよ。
そして手をつなぐぐらいに思って出したのに、そんなにぎゅっとしがみつくなよ。
いくら慎ましいお胸様でも当たってるぞ?
「まぁ、すでに真っ赤だし、指摘しても恥ずかしがるだけだから、胸が当たってることは内緒にしておこう。どうせまな板だしな」
「ぜっ、全部喋ってるわよこのくそリッチ!!!!!!」
そして俺は頬のもみじを甘んじて受け入れ、西の大陸に向かって飛翔した。
レファも俺を睨みつけながら飛んでいる。
やればできるじゃねぇか。
そして半月……。
途中でレファが休憩したいとか言い出したが島もないのにどこで?という冷たい視線を投げかけつつ、面白いから鞭で打って飛ばし続けた。
『おにぃ~はぁはぁ』って言ってくるのが可愛かったからじゃなく、飛翔スキルに慣れさせようと思っただけだから勘違いするんじゃないぞ?
それにレファが限界を迎えたタイミングで勝手に開いたアイテムボックスから"本"が落ちて来た。こいつ、前世でゲットしてたっぽいな。"本"はふわふわ浮きながらレファを追随してきて、たびたび回復魔法をかけていた。
あとは飛んでる俺たちを見つけて襲ってきたレッサーデーモンや、ガーゴイル、ワイバーンやシーサーペントは全て海の藻屑になるか、俺たちの胃袋に落ちて行った。
たまに出会うフライホエールはちょうどいいから上に乗って休憩するのに使ったが、どいつもこいつもバレたら怒り狂って襲ってきたから泣く泣く切り刻んだ。
それにしても飛びながら焼くステーキって面白いよな。
コントロールミスってレファの顔にぶつけたらめちゃくちゃ怒られたけども。
そんなこんなで西の大陸に着いた。
高いところが怖かったのか、モンスターに魔法ぶっ放して魔力を使いすぎたのか、俺のSっ気のせいなのかはわからんが、そのまま熱い吐息をはき出しながら砂浜に転がったレファを可愛がってから、近くで捕まえたモンスターに乗って目的地を目指して移動することにした。
「これってランドドラゴンよね?」
「あぁ、そうだな」
移動の道中で遊びすぎたせいか涙目のままのレファが尋ねてくる。
「新宿スタンピードでフランが倒したのと同じよね?そもそもこんな風に使役できるものなの?」
「普通はプライドが高いし反発するだろうけどな。"彷徨う影"がくれた加護の力を見せつけてやれば、こいつみたいな地属性の魔物は従ってくれることが多いぞ?」
「なるほど」
これも加護のありがたい点だな。
単純にステータスをあげるだけじゃなくて、スキルを得たり、モンスターに命令できたりするんだ。
ちなみにステータス上昇に関しては魔力が最も上がりやすい。
「もしかして私でもできる?」
「できるというか、できているからランドドラゴンは俺だけじゃなくてお前も素直に乗せてるんだよ」
「そうだったのね。とんでもない魔法ぶっ放して瀕死にして回復させてからだったから、私も一緒に怯えられてるのかと思ったわ」
そんな他愛もない会話をしながら、俺たちがまず辿り着いたのは……。
うん、ここはパスで良いかな?良いよな……。
俺は今すぐにここから逃げ出したい衝動を抑えながらレファを見ると、彼女も何かを耐えるような、それでいて熱に当てられたような表情で頷く。
また機会があれば来るとしよう。
目の前に広がる暗くて魔力が充満している森を見ながら、俺たちと同じように固まっていたランドドラゴンの背を軽く叩くと、一目散に走ってくれた。
想いは共有していたようだ。
走り去る俺たちの背後で『ヴェ~ル~ト~♡』とかいう気色悪い声が聞こえた気がしたけどきっと気のせいだ。
あんな腐臭とおかしな気配が漂う森なんて入ってられるかよ!
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