第97話 導く声?

□新宿ダンジョン200層(ジュラーディス)


世界は終わらなかった。


"時間退行"は間違いなく発動した。

我の放った刃も仕事をしたはずだ。


なのに終わらなかった。



そして迷宮神が現れた。


怒り狂った迷宮神が。



『貴様が世界を滅ぼす者か?』

「なっ……ちがっ」

狂う神は魔力を使い果たし倒れる女に迫った。


「待つのじゃ迷宮神。それは違う……それは」

「あぁ……」

我の目の前で女は引き裂かれ、喰われた。




我の心はもとより死んでいた。

慌てはしたが、悲しみすら浮かばなかった。


この方法も失敗した。

事実はそれだけだ。

以来、"時間退行"のスキルを見つけたら消してきた。



スキルは、それを持つもののキャパシティの一部を占有して身に着くものだ。

存在ごとにキャパシティが違うからわかりづらいがな。

何が言いたいかと言うと、"時間退行"を消せば、代わりのスキルが植えられる。


我は可能性を感じるの者のスキルをのぞき見して、不要なスキルを削除し、戦うためのものを植える。

その方法で介入してきた。これまでずっと……。



これだけ長い間生きて来て、様々な世界を渡り歩いたせいか、魂というものが見えるようになった。

もともと我の種族がそういう霊的な拠り所を持っていたかもしれぬ。


それを利用して、彷徨いゆく魂の中でこれはと思うものをモンスターの肉体に紐づけて具現化させたりもした。


例えばあのエメレージュたちはそんな拾い物じゃ。

もともと存在していたボスモンスターにあれらの魂を入れてみた。

やつらは我に捕らえられたと考えていて、いつか逃げ出して元の世界に帰るつもりだったようじゃがな。


入れ込んだ魂はそのモンスターが死んでリポップしても残っていた。面白いことに魂すらモンスターの持ち物として定着したのじゃ。


生物としての禁忌や忌避感など、既に我の心の中には存在しない。

全てを消し去ってでも成し遂げようとした集団自殺すら失敗したのじゃ。


なんでもいい。

あれを消してほしい。


そのためには我はどのような存在にでもなってやろう。


過去の者達などただの失敗作だ。いつか来る成功例を生み出すためのな。我はそのときが来るまで、候補者を育てよう。


嘆き、悲しみ、怒り。

これらは全て推進力になることはわかっておる。


朽ち果ててなお動き続ける人形のような我にとって、そういったものは全てただのパラメータでしかない。


足掻くがいい。

我を恨みながら。

その力で未来を掴めばよいのじゃ。


掴めないものは、ただそいつが勝手に終わりを迎えるだけじゃ。



□チームチャット


姫乃  :えぇ?しおりんが誘拐された?

レファ :そうなのよ。リッチがバカだから

夢乃  :お父さん……。

塔ちゃん:待て待て待て待て。ちゃんと居場所は捕捉してるし、守護や防御の魔法もかけてるし、なんなら交信できるし。

フラン :危険はないということか?

塔ちゃん:あぁ。それは間違いなく。

レファ :だったらどうしてすぐに助けに行かないのよ!

姫乃  :しおりん、不安に思ってたりするんじゃないかと。

塔ちゃん:なんかこっちの世界に来てから声みたいなのがするんだ。

夢乃  :は?

レファ :ついに何かに取り憑かれた?それともあの世からのお迎えが近いとか?くそリッチのくせに?

塔ちゃん:うるせぇよ。

皇ちゃん:ナムナム……。

塔ちゃん:てめぇ!

早紀  :大丈夫よ、塔弥君。ぶん殴ったから。

皇ちゃん:ちょっとしたお茶目なのに酷でぇ……そして痛てぇ……。


なにやってんだよ。

まじめにチャットしてんだからな!?

レファとイチャイチャとかしてないんだからな!?

 

フラン :えぇと、それでその声っていうのは?

塔ちゃん:よくわかんないんだけど、ああしろこうしろ、次はこれだ、みたいな?

レファ :なんで疑問形なのよ

塔ちゃん:具体的な指示とか声じゃないんだ。でも、なにか聞こえてくると言うかわかると言うか……

早紀  :なるほど。導かれているわけね。その世界があなたの前世なのであれば、そういう存在に心当たりは?

塔ちゃん:それが特にないんだよな。

皇ちゃん:前に言ってた五神ってやつらとか?

塔ちゃん:ないない。五神とか言っても、獣とか影とか思念とか化身だしな。竜だけはそれっぽいけど、そもそもが大昔になにかやらかしてボコられて力を奪われた哀れな奴らだ。

レファ :五神なのよね?神様と言われてるのに、そんなのなの?

姫乃  :もうちょっと神秘的というか、神々しいものなのかと思ってました。

塔ちゃん:その昔にはもっと神様っぽいのがいたみたいなんだけどな。聖具を作ったやつとか。でも、何も残ってない。どんなやつかもわからない。

詩織  :すみません、遅れました。

レファ :はっ?

フラン :無事みたいだな

姫乃  :良かった。

夢乃  :うんうん。

詩織  :ご心配おかけしてすみません。こちらは大丈夫です。魔王たちの目を盗んで魔力でスマホを充電するのが遅れちゃって。

レファ :しおり~無事で良かった~~~

塔ちゃん:自分の身代わりに攫われた詩織が心配すぎて挙動不審だったレファがようやく落ち着いたな。

詩織  :あらあら。大丈夫だからね。

レファ :こんのくそリッチーーーー!!!!!!!


うるせぇよ。俺に抱えられて震えてたのをばらすぞこのやろう!

とりあえずパンチは避けて大人しくさせる。


皇ちゃん:無事そうで良かったな。で、どういう状況なんだ?

詩織  :魔王は私がレファじゃないと気付いてからは、少し慌てて部屋をあてがってくれました。監視はされてるし、自由に出て行ったりはできないけど、乱暴されたりとかそういったことはないです。

塔ちゃん:了解。じゃあ、俺とレファもそっちに向かうから待っててな。

詩織  :はい♡

レファ :なにかあったら連絡してね!

詩織  :わかったわ。ありがと、レファ。そう言えば不思議な飴を拾ったんだけど、みんなの分、残しておくね。

姫乃  :は?

フラン :拾い食いはちょっと……。

夢乃  :えっと……しおりんはどうしてそれをみんなに配ろうと思ったの?

詩織  :あっ、そうよね。上手く説明できないんだけど、なぜかそうしないとと思っちゃって。

皇ちゃん:一緒な感じか?塔ちゃんと。

塔ちゃん:そうかもしれないな。なにかに導かれているな。あと、その飴ってもしかして不気味な感じで光る灰色っぽい飴か?

詩織  :はい。

レファ :どういうこと?何か知ってるの?

塔ちゃん:それは"封印された思念"の欠片だな。あれは普段はグリメルシア大雪原にいるが思念だけあって、結構気軽に動く。きっと魔王城に訪れたときに零したんだろう。ラッキーだな。きっとこういうことがあるからすぐに奪回しろって言わなかったんだろう。

フラン :そんなのを食べて大丈夫なの?

詩織  :普通に美味しかったと思うよ?

姫乃  :しおりん。落ちてるものを拾って口に入れちゃダメだよ?

夢乃  :そうそう。そういうのはレファの役割というか

レファ :ちょっと待って!なんでそんなアホの子認定されてるのよ!?

夢乃  :wwwwwwww

レファ :ゆ~め~の~

フラン :まぁまぁ。詩織はリッチと一緒でなにかに導かれて口にしたんだろう。

詩織  :えぇ。特に腹痛とかはないし、魔力は増えたし、周囲にあるものを操れるようになったよ?

塔ちゃん:まさしく加護だな。思念の欠片は、取り込むと加護がつくからな。じゃあ、今日は寝て明日からそっちに向かうから待ってろな!

レファ :そう言いながら私を抱きかかえていくのはなぜかしら?

姫乃  :なっ。お父さん!?

詩織  :師匠せんせい。ほどほどに。

夢乃  :えっ?OKなの?

フラン :こちらは人間の探索者の世界最高到達層目指して頑張るよ。おやす~

塔ちゃん:またな~




***あとがき***

お読みいただきありがとうございます!

新作を開始しております!


↓↓探索者育成学院でボーイミーツガールですwよろしくお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16818093085173788489

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