第96話 誘拐
「レファ?詩織!?」
洞窟を抜けて次に向かう先を考えていたところで魔法が飛んできた。
俺が周囲に展開している魔力を掻い潜ってくるとは?という考えを巡らしている時間はなかった。
狙いはレファだ。
回避が間に合わないことは明白だったので対抗措置を考えようとしたが、その前にその拘束に詩織が飛び込んでしまった。
まさか詩織がレファを
どうやら前世の力が戻ってきていてかつ加護も得たこと、たぶん俺よりもレファに注目を向けていたことが理由だと思う。
いずれにせよレファを拘束していくはずの魔法に詩織が囚われてしまった。
そしてどこかに移された。
くそっ。
「覚悟はできてんだろうな、イルデグラス」
「ふん。何の覚悟だ?私はとっくに貴様と戦う覚悟をしているがな。貴様と戦う舞台は整えてやる」
「今すぐにやってやるよ」
「そうはいかない。アルトノルン様を貴様の魔の手から救わなくてはならないのだ。ではな」
「待て!」
くそっ、最初から全てデザインされた魔法か。
イルデグラスにも逃げられた。
「ちょっと、どういうこと?」
「あれは元魔王を俺の魔の手から救うとか言う妄想の元でお前を誘拐しようとした。そしてそれを
「なっ、大変じゃない!追うわよ!」
「待て」
「いたい!!!なにすんのよ!!!!?」
俺の簡易説明だけを聞いてどこへ行くつもりだ?お前はイルデグラスの魔力を捕捉してたりしないだろ?と思って、走って行こうとしたレファの髪を掴んだらめっちゃ痛かったらしい。
ジト目で睨まれた。
「まぁ、落ち着け。間違って攫ったのがわかったらまたやってくるだろ」
「なんでそんなに冷静なのよ?詩織を心配しなさいよ!」
「してるぞ?今は移動してるのもわかってるし、どこに行ったかも追ってる。どうせあいつの城だろうけどな」
詩織には探知系の魔法をかけてるに決まってるだろ?
それでなくてもこんな世界に連れて来られてるんだ。
あと、五神を回るつもりなんだ。
「くそリッチだけど、やるわね」
「なにがあるかわからないから、いろんな魔法をかけてずっと維持してる。ちゃんとな」
当然だろ?
一応お前にもかけてるぜ?
これを伝えたら嫌がりそうだから言わないけどな。
「でもいきなり攻撃されたりとか、乱暴なモンスターが詩織を襲ったりしたら……」
「そんなことやったら皆殺しだ」
「あっ……」
「悪い、つい」
殺気を出しすぎたな。怯えさせてしまったのか、レファが身震いしている。
詩織に何かあったらとか考えるとついな。まぁ、そんなことが起こらないように遠隔ではあるけど保護系の魔法を増やしておこう。
「もう、撫でなくていいわよ!」
「嫌だったか?」
「嫌だと感じないから困ってんのよ!!!」
まだ困惑してるのか。レファの顔が真っ赤だ。
可愛らしい反応だが、そろそろ慣れてもいいだろうに。
「さすが魔王だけあって転移の距離が長いな。もうあいつの城に着いたみたいだ。きっとアルトノルンだと思い込んでるんだろう。かつてのアルトノルンの部下とかが見守る中で呼び寄せた俺を倒してお前を解放して、とか妄想してるんだろう」
「記憶がないと、ただただ迷惑よね」
記憶があっても妄信されて迷惑そうだった、とか言わない方が良いよな。
両手で肩を抱いてプルプルしてるレファには。
□新宿ダンジョン200層(ジュラーディス)
時はうつろう。
もはやだれを見ても、なにを見ても心は動かぬ。
面白い魂を見つけたのでかつて考えた通り成長を待つが、上手くいくとは思えない。
過去に見つけたどんなやつもダメだった。
そもそも我自身がダメだったのだ。
取り残されてしまったダンジョンの中で、迷宮神に力を発揮させることなく敗れ去った後、この場にしがみついたのが我じゃ。
哀れに思ったのは間違いない。
何かできることはないかと感じた。
そんなものは既に遠い記憶だが、そう感じたという事実だけは記憶している。
かつてつながった世界で最強だった男。
存分に支援し、強化したがダメだった。
力づくでダンジョンを上がってきた女。
壁となるべく全力で戦い、成長させた。でも、ダメだった。
突如として現れた強大な思念。
対話し、導いたがダメだった。
彷徨っていた魂を強力なモンスターの中に入れてみた。
はじめて迷宮神にダメージを入れたが、それで終わった。
予知が使えるものを用いて見出した子供。
その運命を過酷なものに変え、尖らせたが、敗れ去った。
幸福を奪って、代わりに戦うだけの力を施した戦士。
踏みつぶされた。
とある世界を破滅させ、復讐に燃える女を誘導してぶつけてみた。
粉々にされた。
何千、何万と積み上がる失敗例。
少しでも可能性を感じたら介入する。弄る。ひっぱりあげる。
延々と繰り返した……。
しかし迷宮神はびくともしない。
そのくせ、滅びの影に怯え、震える。
際限なく世界をつなげていく。
どこまで被害を広げる?
どう考えてもただの破壊者だ。
そんなある時、面白いスキルをもったものを見つけた。
"時間退行"。
これがあれば、そもそも迷宮神が産まれることすら否定できるのではないか?
そこを否定すれば未来の破壊は起こらない。
あえて迷宮神と遭遇して殺される未来を避け、それを育てた。
期待がそこにあった。
何千年ぶりかに感じた淡い想いだった。
「このスキルを使って可能な限りこの世界の時間を戻せと。そういうことね?」
「あぁ、そうじゃ」
我は自らの魔力を渡し、あらんかぎりの支援をその娘に与えた。
もう疲れた。
この世界を最初から否定してほしいと。
何千年もの時を遡り、存在する前に摘んでほしいと。
「戻すだけだとまた生まれるんじゃない?」
「指定したポイントに戻してくれればいい。そこに先に設置した刃を落とす。それで終わりだ。可能性も消える」
それは迷宮神が産まれるのよりもさらに昔。
この世界の存在の可能性から消し去る。
天才と言われたものたちが持つ魔力のゆうに数億人分の魔力を抽出した。
迷宮神の目を掻い潜り、無限に生み出されるモンスターの魔力を削り取って集めた。
これで終わるのだ。
これで……。
「では発動するわ」
「協力に感謝する」
「そうね。やっていることは世界を巻き添えにしたただの自殺だものね」
「あぁ……」
***あとがき***
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