第95話 チョロい……

□オルレングラ地底洞窟(詩織)


「じゃあ、今日も"彷徨う影"探索、頑張って行こう!」

「はい!」

「わかった」

この洞窟にやってきて数日が経過しました。

私たちはまだ目的の"彷徨う影"さんを発見できていません。


いませんが、だんだんとその……師匠せんせいのテンションが変わってきています。

よくわかりませんが、体を馴染ませているかのような。


師匠せんせいどうしたんでしょうか?」

「ん?くそリッチはいつも通りじゃない?ただのエッチだし」

「えっと……」

どう説明していいのか分かりません。

いや、実際にはどう説明すればわかってもらえるかわかりません。


師匠せんせいは確かに以前と同じで優しくてちょっとエッチですが、なんというか……。


「冗談よ。あれでしょ?テンションが軽くなってるのと、ただ探索してるだけなのになぜか魔力が増えていってることを詩織は言ってるのよね?」

「むぅ……」

なぜか言い当てられると悔しいですね。


「なんで不満そうなのよ」

「レファも頭良くなった?」

「なんでよ!もとから優秀でしょ!!」

「えぇ……?」

「詩織……」

「あっ、ごめん。その、なんというか……」

「言わなくていいわよ。全くもう」

気安くてからかいがいがあるのがレファだ。

めちゃくちゃ美少女で黙っていれば高嶺の花だとは思うが、違うのを知っているしね。


「きっとこの世界に適合してるんじゃない?私だって、現実世界にいたときとは違った感覚になることはあるわよ?」

「ふふふ……」

まぁ、それはわかるわ。

レファ可愛いし。

 

「こらっ!意味深な微笑みやめて!」

「それは難しい相談ね」

「くぅ……」

だってレファ可愛いし。


……なにか視線を感じる。

今の今までレファと二人で会話しながら探索していたが、ふと視線と言うか、誰かに注目されているような感覚が気になった。


「詩織……」

レファも感じているようだ。

決して悪意とかそう言った感じではない。


でも明らかに今まで接触したことがないようなもの。

これ、魔力なのかな?

何かから探りを入れられているような感じ。


師匠せんせいに言われてこの数日テントのまわりを適当に歩き回っている。

どういう意味があるのかと思いつつも言われるがままに行動していたけど、これはもしかしたら……。


『お前たち……ここで何をしている?』

「えっ?」

そして話しかけられた。

声というよりは思念?

頭の中に直接問われたように思えた。

 

「どなたですか?私たちは……」

『アルトノルン……そっちは知らない』

やはりレファは有名なのかな?

師匠せんせいは元魔王で知り合いは多かったと言っていたし。


「私は昔の記憶はないからあなたが誰かわかんないんだけど、こんにちは」

『記憶がない?そういえば死んだはず……?』

「えぇ。今は転生していて、なぜかこっちに飛ばされて彷徨ってるの。加護ってやつを探してる。あなたは"彷徨う影"さん?」

『加護?……欲しい?』

「「お願いします!」」

『アルトノルンはもうある。そっちの子にあげた。使ってみて』

えっ?

なにこの軽さ……こんなのでいいんでしょうか?


心の中で加護を意識すると、芯の方がほわっと暖かくなります。

そして湧き上がる魔力。

これが加護……。


自分自身の根幹に何か力を貰ったような感覚ね。

師匠せんせい曰く、与えてくるのはとんでもない奴らだけど、その力はとても有用ってことだった。

 

『嬉しい?』

今だ姿が見えませんが、この方が"彷徨う影"なんでしょう。

 

「ありがとうございます!」

『♪♪♪』

私がお礼をのべると、"彷徨う影"さんはとても嬉しそうだった。

頭の中に直接喜びの感情が入ってきた。



「"彷徨う影"?久しぶりだな」

『貴様はヴェルト?』

そこへ師匠せんせいがやってきました。

師匠せんせいは五神とは喧嘩友達と仰っていましたが、実際に会話する間柄のようです。


「おぉ、悪いな。俺の嫁たちが」

『くっ、貴様の……?』

「どうだ羨ましいだろう」

『くっ……』

「あぁ、嫁たちに加護をくれたんだな。俺にもくれ」

『なぜ貴様に』

「頼むよ。友達だろ?」

『とっ、友達?こんな僕が?』

「もちろんだ。一緒に飯も食ったし、喧嘩もしたし、鬼ごっこもしただろ?なっ」

『あっ、あぁ。ほら、加護を付けた』

「サンキュー!持つべきものは友達だな!」

どうやら師匠せんせいも"彷徨う影"さんから加護を貰ったようだ。


いいのかな?

きっといいのよね。五神と言われて加護を与えられるくらいの存在なんだもの。

聞こえてくる会話はカツアゲというか、悪い人が気の弱い人を騙すかのようなものだったけど……。


「それにしてももともとモンスターやお前が蔓延る場所だったのにダンジョンまでつながって変なことになってるな」

『ダンジョン?あぁ、なんかつながってるな。あれを通してやってきたのか?』

「そうなんだ。あの先に厄介な奴がいてな。それを倒したいんだけど力が足りない」

『貴様でもか?』

「あぁ」

『なるほど。ではこれも持っていくか?』

"彷徨う影"が指し示す"これ"ってなんだろうと思ったが、中空に光が出現し、落ちてくる。

師匠せんせいが両手でその光を受け止めると、光が何かを形どる。


「これは……"杖"か?」

『あぁ。よくわからんが、洞窟に迷い込んでいた』

「もしかして聖女がダンジョンの先にいるのかも……これは彼女が持っていたはずなんだが。なんにしても助かるよ」

『あぁ。何か困ったことがあれば言え』

随分とチョロい……とか言ったら失礼よね。


「助かるよ。また来てもいいか?」

『もちろんだ』

「サンキューな」

『あぁ、また』

そうして"彷徨う影"は行ってしまったようだ。

最後まで姿かたちはわからなかったけど、師匠せんせいはほくほく顔だ。

先生の魔力が驚くほど増えたからそのせいかな。


あと、レファの表情が驚くほど冷たい。

「誰が嫁よ!?」


あぁ、そこが不満だったのね。

あまりの可愛さについレファを撫でてしまう。


「ちょっと、詩織!撫でないで!ねぇ!」

「まぁまぁ。俺も詩織も加護が貰えてよかったじゃないか。それにもうここに用はないから次に行こう」

「ちょっと!」

抗議するレファを師匠せんせいと一緒に可愛がりながら私たちは洞窟を抜ける。




今日もレファが可愛かった。




「では、次は……」


えっ?

師匠せんせいの話を聞いていたところに突然の衝撃が襲ってきた。

これは拘束系の魔法?、と思って咄嗟にレファを庇ったところ私は意識を失った……。

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