第94話 女子会
「なかなか素直に喜べないが、お祝いしてもらえるのは嬉しいな」
「あんまり周りを気にしてても仕方ないし、ぱ~っと飲んじゃお♪」
我が妹ながらこういうときは頼もしい。
明るさって大事だと思う。
私だけだったら顔ぶれが変わってしまったトップ10のリストをフランと一緒に眺めて遠い目をしてそうだ。
「それに実際強くなったフランは2人抜いてるわけだしね。前のランカーが残ってたって、もしかしたら1位かもしれないよ?」
「それは確かに」
こうやってはっきり言われるとそうかもしれないって思えるもんね。
たいしたものよね、夢乃は。
「ありがとう夢乃」
「うんうん」
「じゃあ、飲みましょう。お酒も買ってきてるし」
雰囲気が良くなって嬉しい。
準備していたお酒を開けて、2人に注ぐ。
「お姉ちゃん、ありがと♪」
「姫乃も飲もう」
「ありがと」
フランは私のグラスにも注いでくれる。
ピンク色のロゼワインだ。
私たちは乾杯していただく。
料理は夢乃と一緒にたくさん作った。
「ありがとう。おいしい」
「よかった~」
フランが笑顔になったのを見て、夢乃も私も笑う。
そうして私たちはわいわいと、用意した料理を食べながら飲んだ。
あぁ、最初に出したケーキはペロっと食べちゃったわ。
探索者はカロリー消費も激しいから、ダイエットとか気にしなくていいのが良いわよね。
「フラン、気分はどう?」
料理を食べ尽くし、いろんな話をし、お酒もしっかり飲んで完全に出来上がったころに夢乃が聞く。
「まぁ、プレッシャーはあるな。なにせ世界一」
「そうよね……違う国ってのもある?」
もうグラスに注ぐのも面倒になって、缶のままチューハイを煽っているフランはぼーっと空き缶を眺めながらぽつりぽつりと話し始めた。
「確かに私はドイツ人だ……ドイツで生まれたからな。でも、両親がイギリス人とフランス人の血を引いているんだ……」
「えぇ?」
「多国籍だ」
それは知らなかった。
というかどういう状況なんだろう。
「名前はフランスっぽいと思ってた」
「あぁ、そうだ……」
フランは相変わらず空き缶を見つめている。
酔いは回ってると思うけど、それ以上に喋るのをためらってるようにも、勇気を出そうとしているようにも見える。
「ごめんね。聞いておいてなんだけど、話しづらかったら無理しないで」
こういうときに、自然に声をかけられる妹が羨ましく思える。
そして頼もしい。
「あぁ、言いにくいわけじゃないんだ。むしろ2人には聞いて欲しい……かな」
「もちろん聞くわ」
「えぇ。時間はたっぷりあるし、ゆっくりね」
勇気を出して私も声を出してみた。自然だったかな?
目が合った夢乃が微笑んでくるので、問題ないだろうか。
「ありがとう」
そう言って、フランは一度口を閉じる。
「私はずっと一人だったんだ……」
そして話し始めた。
「小さい頃にいじめられていてな……」
「「えっ?」」
それは今のフランの姿からすると信じられないような記憶だった。
「記憶はあいまいなんだがな。性格はぶっきらぼうで、フランス人っぽい名前だったし、実はドイツ語もあんまりわからなくてな」
「そうだったの……」
どれくらいの年齢かはわからないけど、言葉がわからない中でのいじめは辛い。
「なにせ家ではフランス語なんだ。言葉がわからないと、なぜ仲間に入れてもらえないのか、なぜ無視されるのか、なぜ叩かれるのか、全くわからなくてな」
フランはそれで友達を作ることができなかったらしい。
それは成長してからも変わらなかった。
学校はずっと我慢して通った。両親を心配させたくなかったらしい。
10代になれば、叩かれることはなくなった。
でも相変わらず無視された。
「友達はできなかったし、なんか怖い大人に捕まったりした。記憶が曖昧になっていて定かではないんだが。ただ不思議なことがあった気がする。夢で見たことが現実に起きたり、逆に起きなかったり。でも、ある日突然そんな夢も消えた」
「それは辛かったわね」
私はそう呟くことしかできなかった。
夢乃は恐る恐るだが、フランの肩をさすっている。
どういうことがあったのか、実際のところは分からない。幼い頃の記憶で曖昧なのかな?それともショックなことがあったのかな?
でもそんな頃に、学校で配られたチラシを見て、探索者の訓練に参加したらしい。
上手くいけば違う学校に行けるから。
その訓練の場で圧倒的な力を見せつけた。
Dランクダンジョンだったらしいけど、出てくるゴブリンやオーク、ウルフをほぼフラン1人で倒しきった。その時点でかなりの数のスキルを持っていて、体が勝手に動いたらしい。
それで彼女の世界が変わった。
当然なことだが、熱烈に歓迎されて探索者になった。
環境を変えたいという強い想いが叶った。
そこからは完璧なサクセスストーリー……というわけにはいかないのがまた難しいところよね。
女だからと見下すやつらに嫌がらせをされた。
誘われて入ったチームのメンバーに襲われかけた。
助けを求めたダンジョン協会職員にも裏切られた。
そんなすべてをモンスターともども圧倒的な力で蹴散らしていったらしい。
気付けばソロ探索者として100層に到達し、世界ランカーになった。
ヨーロッパのトップクラスのメンバーとチームを組んで深層にも入った。
「ただ、そんなチームは続かなかったけどね」
自嘲気味に言うフランは寂しそうだ。
ずっと一人だった。
「それで私たちを気に入ってくれたんだね」
「あぁ……ここは気楽だ」
ようやくわかった。
なんのことはない。私自身も居心地が良いと思っていたこのチームの空気を、フランも気に入ってくれていたんだ。
わかると嬉しくなってくる。
「この国の人は私を歓迎してくれたしな」
「新宿のスタンピードで助けてくれたから。それはフランが自分で得たものよ」
「そうだとしても、嬉しかったな」
ようやくフランが空き缶から視線をあげてくれた。
嬉しくなった私はフランに抱き着いてしまった。
「ひっ、姫乃?」
「お姉ちゃん!?」
「フラン。ありがと。おめでと」
「あっ、あぁ。わかった。わかったから」
どうしてそんなに慌てているの?
それが少し疑問だったものの、私はそのまま寝てしまったらしい……。
「おはよう、フラン」
「おっ、おはよう」
翌日、少し赤くなりながらも普通に挨拶を返してくれた。
よかった。
酔って失礼なことをしなかったかな???
「みんな起きたね。2人ともしばらくお酒は禁止だから」
「えぇ?」
「えっ?私も???」
「ふふふ」
またダンジョン探索を頑張ろう。
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!
新作を開始しております!
↓↓探索者育成学院でボーイミーツガールですwよろしくお願いします!
『魔力をまき散らす超絶美少女(ただしボッチ)にペア結成を迫られた件~言い寄ってくるSランク探索者から逃げて学院に来たんだけど、まぁいっか。超可愛い子と一緒に頑張ってSランク探索者を目指すなんて青春だね!』
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