第89話 前世のエクストラステージ

「で?行くってどこから行くの?そもそもここがどこかわかったの?」


あまりに可愛い詩織に溺れすぎたらしい。

ちょこちょことその姿を見せつけて遊んでいたらレファが激おこモードになってしまった。


「五神か?どいつもこいつもめんどくさい場所にいるからなぁ」

 

例えば元魔王や俺の喧嘩友達だった"奇怪な獣"はこの世界で最も高い山であるハイグラ山を根城にしている。

近くに街なんてないし、光の差さない重苦しい森に囲まれているから行きづらい。

山自体も急こう配な斜面になっていて登りづらい。

そのくせ地球の尺度でいくと1万メートルを超えている。


"不浄の化身"はエルメド大森林っていう、南の大陸を丸ごと覆っている森の中を彷徨い続けている。

正直、どこにいるかなんて、わかっていないのと同じレベルだ。


"封印された思念"はグリメルシア大雪原っていう、北の大陸の北部のめちゃくちゃ寒い地域にいる。そんな場所にいるあれに会いに行きたくなんかない。

でもこいつに関しては結構な頻度で大雪原から出て来て世界中を漂い、欠片を落としていくことがある。その欠片を使えば加護が貰えるから、こいつだけは会わなくてもいいかもしれない。


"見えない竜"は、ただでさえ視認できないうえに、視界の悪いマシャトグラジェ霊峰の中にいる。戦力としては最も高いと言われている。こいつの加護はほしい。ほしいけど……。


最後の"彷徨う影"はオルレングラ地底洞窟の中を名前の通り彷徨っている。地底洞窟なんか影になる場所ばっかりだろうし、探せるかぼけぇって言いたくなるくらいに広い。まぁ、今いる場所に最も近いから、まずは行ってみるのもありだ。


「まずは近くの地底洞窟で探そうと思う。"彷徨う影"がいるはずだ。それから大陸を渡って"不浄の化身"、"奇怪な獣"と進んで、"見えない竜"を目指すかな。"封印された思念"は北の大雪原にいるから行きたくない」

「そんなきっぱりと。全部集めなさいよ!」

レファがその困難さを理解せずに言ってくる。

まぁ、五神の加護を集めようって言って、まさか2つか3つで満足だなんて今の時点で言えない。


でもあの面倒な奴らだしなぁ。


師匠せんせいが全部と言わないってことは、きっと困難なのよ。だから、1個ずつ行きましょう」

「そういうことだ」

「なるほど」


一応納得してくれたのか、レファのぷんすかは治まった。

2人とも出発の準備をしてくるらしい。


俺も懐かしいこの世界を歩いてみるとするか。

準備を整え、そう思いながら外に出た俺の目に映る穏やかな世界。


爽やかな風が頬をくすぐる。



まさかここに帰ってくる日が来るとは思わなかった。



「お待たせ!」

「行きましょう。師匠せんせい♡」

目の前にはかつて愛した者たち……って、あっ。ばらしてしまった。

まぁいっか。


前世のエクストラステージのような今だが、せっかくだし楽しんでやろう。


そう思いながら2人に旅を促す。

自然に両腕をそれぞれの腰に回しながらそのちょっと下を触ったら、片方ははにかみ、片方はめちゃくちゃ赤くなった。

なにこれ楽しい、と思っていたら殴られた……。





□魔王城(イルデグラス)


くそっ、憎きヴェルトめ。


死んだと聞いてせいせいしていたのに、まさか転生していて、さらにこの世界を訪れるとは、どういうことだ?


しかも本人は前より弱いとか言っていたが決してそんなことはなく、むしろその強さはさらに上に行っているように感じられた。

自分の魔力の一部を使って生み出した分身だったが、あそこまであっさりと敗れるとは思わなかった。

おかげで情報収集しかできなかった。


労しや、アルトノルン様。

気高く孤高だった前魔王。

私に魔王の紋章を受け継いでくれた魔族ひと

私が唯一お慕いする方。


それなのにあの男……。

アルトノルン様が許すのであれば、私も許すしかない。

男女のことなど私にはわからぬ。

だから以前は気にしなかった。気にしないようにしていた。


私は心の中であの男を仮想敵に認定し、ひたすら自らの力を高めて来た。


アルトノルン様が亡くなったときにはしばらく信じられなかった。

あの強かった方が。


そしてあの男と争う気力も失った。

取り合う相手がいなくなったのだから、仕方ないだろ?


そして2人の記憶は私の中で薄れて行った。

薄れて行ったが、仮想敵として、自らが至るべき強さの指標としては残った。


強大だったアルトノルン様。

それをさらに凌駕した憎きヴェルト。


私はひたすらに自らの力を高めたのに、まだその上を行くのか?

もちろんあれは私の分身にすぎないものだ。


本気を出して戦えばどうなるかはわからない。

しかし、分身を通してあの男の力を見て、勝てるとは言えなかった。

情けなくもな……。



「魔王様!」


私が思い悩んでいると、新たに私が四天王に任命したモンスターの一人が入ってくる。

執事のような様相の長身の悪魔だ。


「なにかわかったのか?」

私はそう声をかける。


先日、世界中で大地が揺れた。

そして世界は変わってしまった。


決して崩壊するとか、消えると言うことではない。

しかし得も言われぬ奇妙な気配。


それについて探らせていた。



「はい。オルレングラ地底洞窟の中に、今まではなかった道ができています」

「なに?」

どういうことだ?目の前の悪魔が語る言葉が理解できない。


あの暗くて狭くて迷路になっているあの洞窟の中にだと?

もしかしてあの男が言っていた『ダンジョンってやつを通してつながってしまってる』というやつか。

私からするとオルレングラ地底洞窟自体が迷宮だがな……。


「何名か中に入れましたが帰ってきません」

「私が行こう」

「はっ?」

部下がきょとんとしている。

それはそうか。自分が警戒を促そうとしている場所に、あろうことか上司である魔王が行くと言うのだから。


あの男が強くなったのがダンジョンのせいだとするなら、私だってもっと強くなってやるぞ。


首を洗って待っておくがいい、ヴェルト。

そしてアルトノルン様。必ずや助け出してみせます。



***あとがき***

お読みいただきありがとうございます!

リッチ様の自由奔放さに振り回されている今日この頃ですが、なんと新作を開始しました!


塔ちゃん:この浮気者~~!!!

作者  :そのお言葉はそのままお返しします。

塔ちゃん:なっ……

作者  :詩織、レファ、雪乃、、、

塔ちゃん:みんな、どうしようもない作者だけど新作はよろしくな!

作者  :どうしようもない?

塔ちゃん:新作をよろしくな!

作者  :うむ。

塔ちゃん:で、タイトルとかは?

作者  :これです↓↓よろしくお願いします!


『魔力をまき散らす超絶美少女(ただしボッチ)にペア結成を迫られた件~言い寄ってくるSランク探索者から逃げて学院に来たんだけど、まぁいっか。超可愛い子と一緒に頑張ってSランク探索者を目指すなんて青春だね!』

https://kakuyomu.jp/works/16818093085173788489

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