第88話 リッチの覚悟

「ちょっ、なにしてんのよ!!!!」


なんかデジャブ……。


そう思いながら優しく詩織を降ろし、立ち上がると顔を真っ赤にしたレファがさらに怒り始める。


「服着なさいよくそリッチ!!!!!!!」


いかんいかん。

裸だった。



着替えてから、アイテムボックスから出した食材を調理する。


当然なのかもしれないが、2人とも料理はできないらしく、俺がご飯担当になった。

これまでダンジョンドロップは全て貯め込んできたから食材は豊富だ。


今日も朝からワイルドバッファローのステーキだ。


「重たいわよって突っ込みたいのに、なぜか涎が止まらない……」

俺が用意した朝食の前でレファがぐぬぬぬぬっていう効果音でも出してそうな表情でお肉とにらめっこしている。


「美味しそうよね……師匠せんせい頂きます」

「あぁ、まだまだあるから、好きなだけ喰ってくれ」

詩織はなぜか俺のことを"せんせい"と呼んだままだった。

個人的には前世でのように"ダーリン♡"とか"ヴェルト様♡"って呼んでほしかったりもするが、記憶はないのだから仕方がない。


ぱくぱくぱくぱく……。

そして、レファは無言で喰い続ける。

こいつはこいつで元魔王の容姿なので、前世のように"ご主人様♡"とか……うん、色々とマズい気がする。やっぱやめよう。

主に俺の嗜好がバレる方向でまずい……。




「二人とも落ち着いたようだし、そろそろ活動していこうと思うんだ」

「はい、師匠せんせい

「もぐもぐもぐもぐ……いたっ。なにすんのよ!?」

こいつまだ喰ってんのかよ。

思わず頭を叩いてしまった。

 

「で?活動ってどうするの?この世界のダンジョンを探すところからよね?」

「あぁそうだ」

レファが喰い終わるのを待ってやったのに、なんでこいつはこんなに偉そうなんだ?元魔王だからか?


見た目はただのメスガキだったのは変わっていない。

メスガキというか、ロリババアか……。


「なによ?」

いかんな。考えを読まれるのはまずい。


「この世界は、たぶん俺が死んでからあんまり時間は経ってないと思う。だからまず知り合いに会いに行こうと思う」


知り合い……かつての喧嘩仲間とか、加護とかくれるような連中だな。

その中にはとんでもないやつもいるしな。

本当の意味で超越者である神といったような存在ではないように思うが、この世界にいる強大なものたち。

奇怪な獣。不浄の化身。封印された思念。見えない竜。彷徨う影。


彼らは一部では五神なんて呼ばれてたが、なんでこんなヘンテコな奴らしかいないのかは知らない。

物語の中とかだともっとカッコいい感じで竜だったり天使だったり神獣だったりすると思うんだがな。

 

前世でもよく喧嘩をした。

彼らには加護を与える力がある。


加護は世界を越えたら効果はないのかもとも思ったが、迷宮神がつなげたのだから効果はありそうな気がする。

というかある。


チャットで皇ちゃんたちから聞いた話だと、ロンドンに現れたエメレージュが世界のトップ探索者チームを皆殺しにしたらしい。


これまでのあいつにそこまでの力はなかった。

この世界に来て変わったと言うなら、それは加護だと思う。


トリガーは一回こっちにやってくることなんだろうな。

それで奴らは適当に気付くんだ。あぁ?生きてたのか?まぁ、じゃあ……みたいな感じで。

なんて適当な奴らだ。俺の想像でしかないけど、それ以外考えられない。


この世界で首を切られて処刑されたあいつが加護なんて持っているのかは?とは思う。でも、『私には加護がある』とか言ってたし、ラガリアスとファルノクスを無理やり操ってた力も加護っぽい。というか、たぶん"封印された思念"の加護を得ていたんだろう。


ならば詩織とレファが加護を得られたら、強化につながる。

せっかく来たんだから、貰っていきたい。


いや……レファはすでに持ってそうだな。うん、持ってるな。さすが元魔王。

"見えない竜"と"彷徨う影"の加護が入ってる。


羨ましい。俺も欲しい。なんで喧嘩して仲良くなったのに俺には誰も加護をくれなかったんだろうか……。


俺はそういったことを2人に説明した。


「そういうことならぜひお願いしたいです」

「行って大丈夫なの?元魔王だから嫌われてるとかは……?」

詩織は前向きだが、レファは後ろ向きだった。

詩織はきっと俺を信頼してるだけで、それ以上は考えてなさそうだが。


「大丈夫だろ。むしろ"奇怪な獣"なんかはお前の遊び相手だったしな」

「えぇ???」

俺よりもこいつの方が雑食だったと思う……。なのになんで加護貰ってなかったんだ?


「あとは、その過程で聖具と呼ばれる武器や道具を集めたい」

「聖具?」


聖具って言うのはこの世界に古代からある剣や杖だ。

とても強大な力を秘めていて、少なくともダンジョン産の道具で聖具を超えるものは見たことがない。


恐らくこういう強い力を持ったものが多い世界だからこそ、迷宮神はつなげたんだろうしな。


「リッチになった俺には昔使っていた剣よりも他の聖具が欲しいけど、あいつ拗ねるかな?」

「えっ?拗ねる???」

「どういうことよ!?」

驚いて聞き返してくる2人。そうだよな。道具に意識があるとか言ったらきっと驚くから先に言っとこうかと。


聖具にはそれぞれ意識というか、人格がある。


聖剣は穏やかな人格だったが、少しだけ嫉妬深くて、他の剣を使うと拗ねていた。

それにしても剣を包んでいた不思議な淡い光が懐かしい。

俺は幼い頃から聖剣を持っていたからな。

あの国を追放されたときに手放したけど、夢の通りなら誰にも使われずに眠っているはずだ。

置いていったから怒ってるかもしれない。


聖具には他にも聖女が持っていた"杖"とか……他にも"盾"とか"冠"とかがあったな。

もっとあるかもしれない。


俺は既に決意を固めたんだ。


あの迷宮神を倒すことを。

仲間と共にな。


きっと詩織やレファ、姫乃、夢乃、フランは手伝ってくれるだろう。

ロゼリアも。


彼女たちに使ってもらう聖具を持って帰れればいいなという話だ。


2人も納得してくれたから、それじゃあ行ってみよう。





***あとがき***

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作者  :これです↓↓よろしくお願いします!


『魔力をまき散らす超絶美少女(ただしボッチ)にペア結成を迫られた件~言い寄ってくるSランク探索者から逃げて学院に来たんだけど、まぁいっか。超可愛い子と一緒に頑張ってSランク探索者を目指すなんて青春だね!』

https://kakuyomu.jp/works/16818093085173788489

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