第87話 破滅の足音

□ロンドンダンジョン(エメレージュ)


「ふふふ。甘いわね、探索者たち。強化された私にはその程度の力など通じない」

「くっ……」


異世界ではヴェルトに敗れた。

あれは仕方ない。


そもそもあの男は勇者なのだから、か弱い王女だった私が敵うわけないじゃないの。


ダンジョンのボスとなり、戦闘経験を積み、戦えるようになってはいたけど、それはあいつも同じ。ただ、ラガリアスもファルノクスもあっさり敗れたのは少し驚いたけど。

でも、もう気にするのはやめるわ。


あいつは勝手にあの世界で野垂れ死ねばいいわ。

貧弱な探索者を守っているようだし、向こうの世界の化け物に喰われたら笑ってあげる。


そんなことよりも、私たちはまずは探索者を殺さないといけないわね。

ジュラーディスからはもう手を抜く必要はないと言われたわ。


この世界は終わり。

狂った迷宮神は話に聞いた通り、また次の世界に行くのでしょう。

それまでに私は私を強くするために探索者を殺して経験値を稼がないといけない。

ジュラーディスは80層のボスモンスターを徘徊させたりしてるらしいけど、なんの意味があるのかしら?

まぁ、私には関係ないけど。


「闇の波動」

「ぐあぁぁあああ」

力を抑えることをやめた私の魔法の前に、探索者チームが蹴散らされていく。


あぁ、絶望の表情で死んでいく魂のなんと美しいことか。

私の糧となれるのだから、喜んで逝ってね。


そのまま何発も何発も、彼らが消え去っても魔法を撃ち込んでやったわ。


あれで世界トップの探索者チームらしい。

本当に弱いわね、この世界の探索者は。


見ているかしら、ヴェルト。

あなたの言う希望をぶっ殺してやったわよ?

悔しい?

悔しいわよね?


あ~っはっはっは。

でも、国が違うから気にしていないかもしれないわね。


次はあいつのいた国のダンジョンにポップしたいわね。

それであいつが育てていた探索者を屠るの。


あぁ、楽しみね。


泣きわめきながらあいつに救いを求めてくれたりなんかしたら……。


さぁ、ラガリアス。ファルノクス。

あなたたちもやるのよ?

しっかりとね。


いつかここから解放される。

その時までに力を蓄えておかないと。

モンスターではなく、私達自身がね。


あの世界にも既につながったのだから、全てが終われば帰れるはずなんだからね。



□狭間の世界(ジュラーディス)


「ウォオォオオォォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!」

「くっ、静まるのじゃ!静まるのじゃ!!!!」


我は暴れ狂う迷宮神に向けて必死で魔法を撃つ。


もう長くはないのかもしれぬ。


本当に間に合うのか?





思い返せば長きにわたってこれの相手をしてきたものじゃ。

どれくらいになるだろうか?



千や二千ではきかぬ。

それくらい途方もない時間、ずっと恐怖し、狂うこの哀れな神を見て来た。


始まりは悲劇だった。


我の世界に突如として現れたダンジョン。


平和だった世界で、特にダンジョンによって滅んだわけではない。


ただただつながった。


そしてそれに魅入られた。



多くの者がダンジョンに入り、アイテムを入手した。


そしてそれを奪い合った。


その中で強きものが現れ、死んでいった。


そして迷宮神に見限られた。


ダンジョンは枯れ、資源と魔力を失った世界は荒廃した。


そこに住む者たちの手によって。


一度覚えた甘い世界。


急に消えた甘い果実。


それを巡って争い、勝手に荒廃し、滅んで行ったのじゃ。



我はそんな世界に見切りをつけ、身につけた魔力によってダンジョンの入り口をこじ開けた。


そしてダンジョンに取り込まれた。



迷宮神が用意したモンスター以外では初めてのことじゃろう。


そして我はダンジョンの中の世界を支配した。



その中で何度も何度も迷宮神と戦ったが、彼の神のお眼鏡には適わなかった。


しかし苦しみは理解した。


開放してやりたいと思った。



迷宮神はひたすらに探し求めていた。


自らを救う者。自らを殺す者を。



ある世界につながり、試し、ダメだったらまた別の世界を探す。



どうやっているのかはわからん。


神の力など、矮小なる我には理解できぬ。


それでも彼の神を倒すものを探さなければならないことだけを刻まれた我はそれを探す。


そしてあるとき、探すだけには留まらなくなった。


繋がった世界、そこに手を加える術を覚えた。



魔力を駆使して、介入する術をな。




ある世界ではあえて先に世界を破壊し、より多くの者が強い憎しみを持ってダンジョンに挑ませるよう仕向けた。


ある世界では神の子を奪いダンジョンに隠した。


ある世界では力あるものをダンジョンに封じ込めた。


ある世界では処刑されたものたちの魂を捕らえてダンジョンに封じた。


ある世界では有力な探索者の過去を弄った。



全ては迷宮神の望みを叶えるため。


気が遠くなるくらいに共に時間を過ごした彼の神のため。


我を恨むがいい。


我に怒るがいい。


我を倒せずに迷宮神を倒せるわけがない。



ふと気付くと、なぜかダンジョンの中に大きな力を持った者が居た。


こいつはいつからここにいた?


そもそもなぜ前世持ちの者が我の手を経ずにここにいる?



これこそが追い求めたものではないのか?


これこそが我らの目的を果たすものではないのか?



だったらまた手を貸してやろう。


貴様の全てを奪えば、その力は高まるだろうか?


大事なものが多いもののようだな?

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