第85話 ラブコメ回②女の敵?

「ちょっ、なにしてんのよ!!!!」


翌朝、詩織を優しく起こし、若さのあまりひと暴走したあと、穏やかなキスを交わしていると、目覚めて来たレファが騒ぎ出した。


「あっ、レファ……おはよう」

「ちゃんと目覚めたみたいだな」

まぁ騒がしいし、別に文句を言われる筋合いもないからスルーして挨拶を返しておく。


「無視!?っていうか、なんでそんなに自然にカップルやってんのよ!?」

「そりゃあ、夫婦だからな。この世界では」

「♡」

甘えてくる詩織が可愛い。


「あっ、あんた!?昨日は元魔王ともつき合ってたみたいなこと言ってたくせに!!!」

師匠せんせい?」

あっ……。


「時系列的には、この世界の詩織が死んだあと何だよな……」

「えっ?」

「あっ、そうなんだ……じゃなーーーい!!!!何よこの女の敵!ハーレム野郎!!!」

「まぁ落ち着け」

俺はとりあえず詩織とは反対側にレファを抱えて座らせる。



「「!?!?」」

ん?なんでそんなに赤くなってるんだ?詩織も?


「(ちょっと……リッチってこんなに積極的だっけ???)」

「(こっちの世界のことは知らないし、記憶もないけど……自然に抱えられてるわね)」

「さすがにこの距離でこそこそ話されても聞こえるぞ?」

「「あっ」」

なぜ聞こえないと思った???


「まぁ、時間はあるし説明聞きたいか?」

「はい」

「もちろんよ、女の敵め!」


俺は2人に俺の前世を話す。もちろん2人については出会ったところからしか知らない。


俺自身が勇者として魔王と戦ったこと。

浮気ばっかで俺を裏切っていたパーティーよりも魔王に対して親近感があったこと。

魔王は魔王で人との争いを望んでいたわけではなく、むしろ不干渉としたがっていたこと。

仕方なく魔王を倒した後、国を追放され、世界を旅する中で詩織と出会って結婚して子供をなしたこと。

詩織が亡くなった後に魔王が復活し、喧嘩相手というか遊び相手になり、良い仲になったこと。

詩織に続いて魔王も看取り、そして俺も死んだこと。


そんなことを朝食を食べながら話した。


「あんた何歳まで生きたの?」

「そんなに長くはないぞ?80歳くらいじゃないか?」

人外なほど生きたわけではない。

詩織は若くして亡くなったし、魔王も復活の秘術を使ったのは残りの命で魔王紋の正式な継承を行うためだったから。


「そっか。それで私が持っていた魔王紋ってやつをあのイルデグラスって人に受け継いだと」

「そうだ」

「なのに、なんかあの人もの凄く怒ってなかった?」

「あいつは魔王に惚れてたからな。魔王が俺を選んだのが気に入らないんだろう。俺はほら……人間だしな。魔王が短命なのも俺が一度倒したからだし」

「そっか……」

言い訳させてほしいが、俺だって好き好んで魔王をただ倒したわけじゃないぞ?

お互い納得の上での生存競争になってしまったんだから仕方ない。


こうしてまた別の生を享受しながら会えたことは素直に嬉しいことかもしれない。


「ただ、前々世に結婚するつもりだった雪乃のことは忘れていないし、姫乃と夢乃も気がかりだし、この世界に残した子供がどうなったのかとかも気になるのは……正直なところだな」

「なるほど……やっぱり女の敵ね」

「なんでだよ」

わき腹に拳を入れるな。地味に痛いから。


「詩織はいいの?こんなやつ……このままなんか全員集合しちゃったら、こいつのハーレムじゃない」

「えぇと……」

そうなんだよなぁ……。

俺の思いはあくまでも俺の思いだしな。


「独り占めしたい気もするけど。でも、師匠せんせいが真摯なのもわかるし……。まぁ、気にしないかな」

「なんでよ!気にした方がいいわよ!このままいったらフランとかロゼリアとかも含めてただのハーレムよ!?」

「ロゼリアか……。そういえばそうだな。すまん」

「ほら謝った!今謝ったよこいつ!!!」

「えぇと、それは知ってるし……」

「ダメだこりゃ」

詩織が良い娘すぎて、罪悪感を感じるまである……。



「私はもともと師匠せんせい好きだったの。優しいし、導いてくれるし、私の話を聞いてくれるし、寂しい時に励ましてくれるし」

「うん」

なんで俺を挟んで2人で話してるんだ?


「ロゼリアさんが師匠せんせいとその……大人な関係なのは知ってたし。師匠せんせいが前々世で好きだった人がいて、娘さんがいて、それが姫乃さんと夢乃さんなのももちろん知ってる。2人とも良い子だし。師匠せんせいは凄いから惹かれる人がいるのも理解できる」

「おっ、おぉ……」

レファ、お前が話振ったんだからひくなよ。

とりあえず逃がさないように肩を抱いておく。


「なんだろう。師匠せんせいには前世の記憶はないって言ったし、実際に覚えてる人や会話、景色があるわけじゃないんだけど、なんというか師匠せんせいに惹かれる感覚っていうのかな?それはあるのと同時に、他に大切な人がいても気はならないというか……なんでだろうね?」

「この世界は一夫多妻制だったしな」

「あんた、浮気を責められて国を追放されたって言ってなかった?」

「それは相手が王女だったからだな。しかも結婚前だった」

「身分とか体裁だけってことね」

なんだろう。このずっと追及されている感じ。


「私は師匠せんせいが好きなのは間違いないの。でも、例えば今こうやってレファも抱かれてるわけだけど、やっぱり特に気にならないわ。むしろ、私も知ってる子が入ってくる方が良いと思えちゃう」

「くっ……」

なんで悔しそうなんだよ。

暴れ出しそうだったから肩を抱く自分の腕を固定したのに、不必要だった。


まぁ、その後も二人で会話してるから、聞き流しておいた。

こんな風にゆったりとした時間を過ごせるのはこっちにいる間だけだろうしな……。

 

「レファも覚えてないの?」

「うん……全く」

「本当に?」

「えっと……たぶん、詩織とおんなじなのよ」

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