第84話 ラブコメ回①詩織

師匠せんせい♡」

「あっ、あぁ……」


俺の左腕を抱え込んで離さない詩織が俺の肩に頭を預けてくる。

可愛いから問題ないけど……どうしてこうなった?



イルデグラスを追い払った後、俺は気を失ったままの詩織をお姫様抱っこして周囲を彷徨った。

相変わらず頭に生えた角を不思議そうに触っているレファも一緒だ。



「どこに行くの?」

「とりあえず休めそうなところにな」

レファが聞いてくるがあてなんかない。

そもそもここどこだよ。

俺は確かにこの世界で勇者をやってたし、聖剣を返上した後も旅をしてたけど世界中回ったわけじゃないんだ。

 

「場所がわかるの?」

「いや、俺が死んでからどれくらい経っているのかわからんからな……」

「あてはないのね」

「うむ」

「どうしてそんなに偉そうなのよ!」

うるさいな。

今さがしてるんだから静かにしてほしい。


全く、魔王だった頃はもっと大人しくて理性的で……夜だけ情熱的だったのに、なんなんだ。


「仕方ないだろ。地図読めねぇし」

「ほら、そこはなんか魔力を読むとかなんとか……」

「やってるけどこの辺りは人がいないな。そもそも魔族領っぽい。なんであのバカ王女はこんなところに転移したんだか……」

理解できないことだらけだ。

メルフィアはそもそも勇者の冒険にもついて来ていない。

あの国から出たことなんてないだろう。


なのになぜ?

と思うが、とりあえずどこでもいいからジュラーディスが転移させたと考えた方が合ってそうだな。


 

「見ろ。あそこに建物がある」


丘を越えたところで、ようやく一軒、古い城のような建物を見つけた。

誰も住んでなさそうだから、しれっと"クリーン"を唱えて清掃する。

ついでに浄化もかけておく。念のためな。


「ふぅ……ん……」

ん?詩織か?

なにやら穏やかな寝顔から可愛らしい呟きが漏れる。


とりあえず城の中で使えそうな家具を探し、入り口近くの部屋に並べて一晩休める態勢を整えた。

それからアイテムボックスに入れていたドロップ品の食材をとりあえず焼いていると、


「えっ?誰?」


詩織が目を覚ました。


「そういえば俺もレファも姿が変わっているな。混乱するなよ。俺だ」

師匠せんせい?」

やっぱりこいつにはわかるみたいだな。

安心した。

誰?俺だよ俺……みたいなやり取りをするのは面倒だ。


「なんでわかるの?」

「骨格が同じですから♡」

「「えっ??」」

いかん、思わずレファと被ってしまった。


骨格?

そんなところで判断したのか?


「私も一緒かな?」

レファも首を傾げながら詩織に聞いている。


「わからないわ」

「私にも興味を持って!!!」

ウケる。


「先生。そんなお顔だったんですね」

「あぁ。イメージと違うか?」

「いえ。その……」

めちゃくちゃ言い淀んでる。これはあれだな……まぁ仕方ない。


「まぁ慣れてくれ。向こうの世界に戻ったら元に戻るだろう」

「えぇ?戻っちゃうの?」

なぜか驚いているレファ。どうした?


「私、なぜか魔力が多くなってる気がするんだけど、それも戻っちゃうのかな?」

「私は、その、今のお顔でも骨でもどっちでも好きです♡」

いや、全然違うことを一緒に言うなよ。

って、えっ?好き???


「ちょっと待って詩織。毒されてる。毒されてるよ骨に!」

師匠せんせい師匠せんせいです。見た目が変わったからといって、何か変わるわけではありません」

なんて良い子なんだ詩織は。

淀みなく言い切る姿はとても美しい。

そしてその声も可愛い。


「いや、なに完全に落ちてるのよ!」

師匠せんせい……会話できるのが嬉しい♡」

「ダメだこりゃ」

「なんでだよ。可愛いじゃないか」

「こっちもか!!!」


何がダメなんだ?

俺は詩織を優しく抱き寄せる。

一瞬びくっとしたものの、体を預けてくれる詩織はやっぱりいい子だな。

そのまま焼いた肉や野菜を皿にとってやる。


レファはチラチラとこちらを見ながらも、少し拗ねた表情で距離も取って食べている。




その夜……。


「少し話をしても良いか?」

「はい」

少しうとうとしていたようだが、声をかけると俺の膝の上から起き上がって話を聞いてくれる態勢を取る詩織。


「詩織は前世の記憶はないのか?」

「えっと、ないですね……私の前世になにかあるんですか?」

ふむ……覚えてはいないらしい。


やはり人間になってるやつは記憶を持っていないのか?

俺は鏡を差し出す。


「……!?」

やっぱり驚くよな?


レファは自分も俺も姿が変わってるせいで特に違和感は持っていなかったようだが、詩織の姿も少し変わっていた。

といっても、こいつの顔やスタイルはそのままなんだが、髪の色が綺麗な水色になってた。


「えっと……」

「それでな……」

「はい」

戸惑っているようだが、俺の話はちゃんと聞いてくれるみたいだ。

彼女の頭を撫でながら話を続ける。


「その姿……どう考えても俺の前世の奥さんなんだよ」

「えっ?」

そりゃあ驚くよな。

骨かつモンスターになってるやつからお前の前世は俺の奥さんだとか言われたら。

なに言ってんの?ってなるだろう。


「それで記憶を聞かれたんですね」

「あぁ。すまんな驚かせて。改めて魔力を視ても、やっぱりそうなんだ。だけど仕方ないよな。もうお互いにこの世界では死んでるわけだし……」


ちょっと寂しいのは寂しい。

仲は良かったはずだからな。

もともと俺が産まれた国からは少し離れた国の貴族の出身の娘だった。


深淵の令嬢などでは全くなく、むしろ軍に出入したり、冒険者ギルドに所属して活動してるような娘でな。

国を出て旅をしていた俺は偶然彼女が夜盗に襲われていたところを助けたんだ。

まぁ、助ける必要もないくらい圧倒的にこの娘の方が強かったんだが、囲まれているところではあった。


そこから興味を持たれて一緒に冒険して、仲良くなって、子供も作って、看取った。

あの顔が……かなり若い頃に戻ってるけど目の前にある。


どういう輪廻というか、運命なんだろうな???


現代世界の方でも惹かれてたのは、こういうことだったのか、と思う。


でも、その記憶は彼女にはない。



気持ち悪いって言われたらそれで終わりだが……。




 


と思ってた時期が俺にもあった。








「記憶なくてすみません」

「いや、詩織のせいじゃない……って、えぇ?」

詩織はそのまま抱き着いてきた。


「記憶がない私は嫌いですか?」

「そんなことはない。というか、正直、現代世界の頃から見た目はどストライクだし、心根の良い子だなと思ってたし……」

そのままぎゅっと抱きしめてくる。

意表を突かれて抱き返すのが遅れてしまった。


「嬉しいです。私は……」

「……」

そのままキスを受け……








うん。熱い夜を過ごしましたとだけ言っておこう。

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