第81話 加護……

「貴様は……死んだはずだ……」


俺たちはジュラーディスとエメレージュのせいでここに連れて来られただけなんだが、どれだけ新しいやつがやってくるんだよ……。

そんなに目立ってたか?

まさかこいつまでやってくるとは。


「久しぶりだな……イルデグラス」

そう、こいつは現魔王……のはずだ。

特に魔王紋を隠してもいないからわかる。

胸元に刻まれた刻印だ。


昔はあれが元魔王にあったんだよな。

夜に見たときに驚いた。


なんで夜なんだって?


仲の良い男と女が夜に見るなんて、アレしかないだろうが!!!


うっ……いや、違うぞ?

浮気ではない。


なにせ俺のこの世界での奥さんは亡くなった後だったからな。

セーフ……。


なんかめちゃくちゃ恐ろしい気配を感じたけど、セーフだから!!!



「なにを考え込んでいる。そもそもどうやって戻ってきた。魔族の秘術は貴様には使えぬはずだ」

「あぁ、彼女が使ってたものとは別だ。ではどうやったんだと言われると、俺にもよくわからんから説明のしようがないんだが」

「そうか。ならまぁいい。とりあえず殴る!」

「あっ、やっぱり?」

「当たり前だ!」

「俺、昔より弱いんだけど、そこんとこよろしく」

「ふざけるな!私は強化した!殺す!!!」


ジュラーディスが言っていたことを思い出す。

この世界にもダンジョンができているはずだ。


うぉっ、あぶねぇな。

とんでもない魔法を使ってきやがる。

回避でも転移でも避けられないとか……。

俺は一回別次元に飛んでターゲットを外してから戻ってくる。


「なんだと????」

 

でも、この世界にはそもそもモンスターが住み着いてるし、こいつらみたいな魔族もいる。

わざわざダンジョンに潜らなくてもドロップアイテムも集められる。

誰も入ってこないというのはそう言うことだろう。


しかしそれではまずい。


今の攻撃もマズい。

光の速さのキックを股間に叩きこもうとするんじゃない。

違う意味で死ぬだろ?

俺は世界の理を弄って、やつとの場所を入れ替えて回避する。

どうだ?俺の背中で反対側に向かってキックを放って当然だが空振った気分は。

唖然としているこいつの背中に向かってエルボーを叩きこんでおく。


「ぐおぉ……」


どうやったらダンジョン攻略をしてくれるだろうか?


なかなか難しい。

そもそもジュラーディスの言う我らより強そうなやつって誰だ?

こいつか?

まぁ、確かにあそこにいた時の俺よりは強そうだが……?


俺自身にはこっちの世界の方がなじむ。

当然だ。

俺はこの世界で強くなったんだから。


この世界であればより効率的に魔法が使えるし、加護も発動する。

そうだ、加護だ。


あっちの世界に足りないもの、その2は加護だな。

まぁ、称号は同じようなものがあるとしても、こっちの世界にしかいない神様とかの加護はあっちでは無理だよな……。


かといって仏様の加護とか出ても驚く。

想像してほしいが、神龍の加護とかもらったやつがいたらやばい。

えっ、地球のどこかに神龍いるの?ってなるだろ?


でも、神様はいるだろうし、ダンジョンの中にいる高位モンスターの加護とかもあり得るのかな……。


氏名:リッチ

加護:ラガリアスの加護……


いらんな。


むしろ呪われそうだ。


うぉ。イルデグラス……自己申告する通り、強くなったな。

物質を分子レベルで崩壊させて来る破壊魔法とか、避けたら避けたで射線の先がやばいじゃないか。

そんなに真っ赤な顔をされると、ちょっと引くわ。


とりあえず確率を制御する特殊空間を作って破壊魔法を受ける。

分子の崩壊の確率を弄って、全ての破壊を失敗させることで無効化する。


さっき譲ってもらった魔力がなかったらやばかったな。

4割くらい持っていかれたじゃねーか。


「貴様、どこが弱体化しているのだ!私の攻撃をことごとくいなすなど……」


 

「あなたは???」

「えっ?」

「えっ?」

あっ、やべ。

特殊空間に魔力を使いすぎて、レファたちを隠してたのが解除されちまってる。


「まさか……アルトノルン様!?」

やっぱりそう見えるよなぁ……。

アルトノルンっていうのは前の魔王の名前な。


「ん?誰?」

「俺はリッチだぞ?なぜか今は人間だ」

「はぁ?どういうこと?それじゃあもう1人はだれ?」

「なっ……まさかお忘れですか?私です。あなたの四天王だったイルデグラスです!魔王紋を譲っていただいたイルデグラスです……」

「ごめんなさい、知らないです」

「ぷぅ~くっく」

「貴様!アルトノルン様に何をしたのだ!?」

撃沈したのを俺のせいにしないで欲しい。

俺だってわかんないんだから。


記憶を残してるやつと残してないやつの差は……モンスターになったかどうかなのかなぁ?


「戦っているの?なぜ?」

「くっ……」

「大丈夫だ。戦闘訓練みたいなものだ」

「なっ、貴様!私は本気だ!」

「えっ?」

せっかく俺がレファを安心させようとしてるのに、焦って自滅するバカ。

レファが険しい表情になってるじゃねーか。


「貴様。アルトノルン様を毒牙にかけただけに飽き足らず、記憶を奪うなどと!!!」

どうもそう解釈して心を落ち着けたらしい。

待て待て。

確かに面白いから色々弄って、イジメて、その……追い込んだりもしたが、『あなたに私を捧げます』とか言った後、責任を取れとか意味不明なことを叫びながら迫ってきたのはあいつの方だぞ?俺は被害者……いや、悪い気分じゃなかったけど、決して毒牙になんかかけてないぞ!?


「貴様ぁ!!!!!!」

「ちょっとリッチ。あんた私になにしたのよ」

「えっ?」

「全部声に出てるわよ!!!!!!!」

「あれ???」

しまった。通じない時間が長かったから口を閉じていなかった。

 

殴りかかってくるイルデグラスをとりあえず魔力で抑えつける。

やっぱり強くなってる。

抑えるので精一杯だ。


(レファ、口裏を合わせろ)

「えっ?」

(バカ、喋るな。説明はあとでするから、とりあえずこいつを追い払うぞ)

(わかったわ。なにをすればいいの?)

(とりあえずダンジョンの話をする。こいつらもそこに誘導したいんだ)

(よくわかんないけど、わかったわ)


「俺たちは別の世界に転生したんだ」

「なんだと?死んだ後にか?」

「そうだ」

とりあえず抑えつけられて少し冷静になったのか、話は聞いてくれそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る