第82話 真実の姿
「それで、なぜこの世界に戻ってきた?どうやってだ?」
「そこは実際、俺たちも飛ばされただけだから詳しいことは知らん。さっきまで実行した張本人がいたから1人はぶっ殺したんだが、もう1人は逃げた」
「なっ……相変わらず過激だな……」
いや、どういうことだよ。素直に驚きましたみたいな表情してんじゃねぇよ。
魔王に言われる筋合いはないわ。
こんな聖人みたいな俺に向かって。
「巻き込まれたやつの1人はさっきお前の攻撃で死んだな」
「なに?あれは……ふん。運が悪かったな」
まぁ、この世界はもともと剣と魔法の世界だ。
魔王が勢い余ってモンスターを殺してもこんなもんだろう。
「まぁいい。それで俺たちは元の世界に戻るつもりだ」
「戻れるのか?」
「あぁ、どうやらダンジョンってやつを通してつながってしまってるらしい。だからダンジョン探索をしていけば戻れる」
「そうか」
おっ?納得したか?
案外素直に俺の言葉を聞くな。
「じゃあな。元気でな」
「待て。貴様……」
「悪いが今お前と争ってる時間はない。俺たちの世界もやばくてな……って、待てよ?つながっちまってるということは、滅ぶときは一緒に滅ぶのか?」
「なに?どういうことだ!」
「理由はいまだによくわからんが、世界をくっつけた張本人である迷宮神ってやつがやばい。そいつを倒さないと滅ぶと言っている。本人も別の神様も」
「……」
「いや、俺の妄想じゃないから。急にそんな醒めた目をするんじゃない」
なんなんだこいつは。
もともといけ好かないやつだったが、ここまでじゃなかったはず……いや、前からこんなだったな。
「ふん。まぁいい。偵察の役目は果たした」
「なに?」
こいつ、まさか……本体じゃないのか。
どうりで殊勝に聞いてると思ったら……。
「ふん。今日のところは引いてやろう。しかし貴様は決して許さんぞ。必ずやお前の手からアルトノルン様を救い出してやるからな!覚えていろ!」
そう言ってやつは消えた。
「ねぇ。私なにかやることあった?」
ないな……。黙っていてくれるのが一番だって本音を言ったら怒るだろうからやめておこう。
無言で頭を撫でる。
「なによ、気持ち悪いわね。しかも子供扱いはやめて!」
赤くなるレファ。しかし俺の手から逃れようとする気配はない。
この反応は……?
「赤い光に飲まれたと思ったら知らないところにいて角が生えてるってどういうことなのよ」
俺は理由を説明してやった。
全部ジュラーディスが言ってたことだが。
あと手鏡を渡して自分の姿を確認させてやった。
「なにこの美人さん……」
なにこの自画自賛……。
「これがその、アルトノルンって人と同じ姿なの?なんで?」
「たぶん生まれ変わりとかそう言うんだと思うけど、わからん。モンスターになったやつは記憶があって、人間になったやつには記憶がない。今のところな」
「ふーん」
眉間にしわを寄せて何かを考えているようだが、それも一瞬だった。
「なんにも頭の中にはないと思うわ」
「レファだもんな」
「どういうことよ!」
悪いけど頭がいい印象はない。むしろカランカランって音がしそうなくらい空っぽ……。
実際に両手のこぶしを握り締めてムキ―とか言ってる姿は一切知的ではない。
「で、詩織は?姿には変化はないようなんだけど。この世界には関係ないってこと?」
いや……本当にそうか?
今まではリッチだったから俺の目がおかしかったのかもしれん。
美醜の感じ方とかそういうことではないぞ?
前も今も詩織は可愛い。
正直、ドストライクだ。
でもさ……。
今の俺にはこいつが……。
□新宿ダンジョン100層のボス部屋(姫乃)
「いったぁ~どうなったの???」
赤い光と白い光が交わり合ったと思ったら、意識を失ってしまい、気付いた時には詩織たちがいなかった。
ここに残っていたのは呻いている夢乃。そして、再度ボス部屋に入ってきたフラン。
それに……お父さん?
いや、違うのかな?
なぜか部屋の中にはリッチがいる。
お父さんと同じ格好をしているとは思う。
装飾品も一緒だ。
でも、唯一違うのはスマホとカメラを持ってない。
だから意思疎通ができない。
意思疎通しようともしてこないけど。
どういうこと?
決して不快に思わないという点も不思議だ。
不思議だけど、私たちは100層を突破したという判定になっているようで、ボス部屋の奥が開いている。
お父さんのようで、お父さんじゃなさそうなリッチとはもう少し一緒にいたい気もするけど、とりあえず私と夢乃、あとフランはダンジョンをあとにした。
リッチはずっとこっちを見つめたままだった。
「しおりんもレファも生きてるから大丈夫よ。まだ部隊強化スキルも解除されてないから」
夢乃がこう言うということは間違いなく死んでいない。
きっとどこかに飛ばされたんだ。
それがダンジョンのどこなのかはわからないけど。
もしかしたら赤い光が放たれた後、お父さんの気配がしたから一緒に行ったのかもしれない。
私たちのことは守ってくれたのかもしれない。
そう考えると心は落ち着いていく。
大丈夫。
探そう。
きっとまた会えるから。
後で聞いたらあのリッチさんはやっぱり100層ボスになってるらしい。
しかも挑んで負けてしまった探索者が1層に死に戻りしたらしい。
つまり、お父さんの力を使っているということ。
ますますわからない。
でもきっと悪いことじゃないよね。
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