第79話 ジュラーディスの企み

「まぁいいわ。ここで会ったのが運の尽きよ。ぶっ殺してやるわ!」

「えっ?まじで戦うの?」

こいつはラガリアスとファルノクスの発言を聞いていなかったのだろうか?運の尽き……そうか、俺のじゃなくてお前らのってことか?


「もちろんよ。魔王は記憶がないみたいだし、弱っちそうだしね。逆に私には加護が戻っているわ!ほら、戦いなさい2人とも!」

「なっ、体が勝手に……」

「なにをするんだ。無理だ……」

エメレージュが腕を振ると、ラガリアスとファルノクスは何かに操られるように動き出す。

知らない間に何か仕込んでたってことか?いや加護の力か。

仲間なのに嫌がる奴らを無理やり動かして戦わせるとか、こえぇ女だな相変わらず。


「ふむ。向かってくるなら仕方ない」

「ちょっ、ヴェルト。待って。待ってくれ。俺たちに戦う意思はない。おい!」

2人は焦った表情だが、魔力を貯め始めているのはわかる。

すげぇな。あそこまで意識があって拒絶してる状態でも操れるのか。


ただある意味拷問だよな。

心の底から敵わないって思ってる相手に、冷静な意識があるまま体を勝手に動かされて戦わされて……そして消されるなんて。


「せっかくだしな。”世界よ……光に満ち、活力あふれる姿を見せる世界よ。我は請う。その一欠片を我に与えんことを。そしてその力で……我は敵を滅ぼさん"」

「まじでやばいって。あんなのどうしろってんだよ!!?」

俺はわざわざ詠唱まで使って魔法を作り上げる。魔力は満ちている。



「エメレージュ……いや、メルフィア様……やめてくれ!」

この前は中断しちまったからな。

いやぁ、再現する機会があってよかっただろ?

じゃあ、さようなら、ラガリアス。俺はお前がやったことを忘れていない。会うたびにボコるって決めたしな。

ファルノクスはとばっちりってことで……。


あの時は放たなかった絶大なる魔法。


「なっ、なっ、なっ、なっ……」


そのあまりの強大さに気付いたのか、エメレージュが今さらながら焦りだしたようだ。


「逃げろ。少しでも離れるんだ!」

「あの大出力に対してどこに行こうって言うんだ。俺は土に隠れる」

「「おいっ!」」


自らの魔力を呼び水に世界からその力の一部を受け取って放つ超大威力の魔法だ。

もちろん、ラガリアスたちと一緒に魔王を討伐した時にはまだ習得はしていない。


つまりこいつらにとって初見の魔法だ。



 

「光耀浄滅(グローリアスパージ)」



突如として光が弾ける。

それは一面を埋め尽くし、全てを消し去る凶器なる光だ。



まぁ、もしここがつながってる世界なんだとしたら、あいつらはまたダンジョンのどこかでリポップするんだろう。

だから一切の躊躇なく魔法を放つ。


当然、レファたちのところは魔法で守ってるぞ。



これくらいのをぶち込んでおけば、100回死ぬくらいまでは恐怖が続くと思う。

そんなトラウマを植え付ける効果も魔改造で仕込んだ魔法だ。


これでむやみやたらに探索者を殺せなくなるだろう……と思うんだが、あいつらだしな……。


しばらくの間、光が激流のように流れ続ける。

それが消えた後、3人は跡形もなく消え去っていた。

あとついでにくっついて来ていた見覚えのないモンスターも吹っ飛ばしたけど良かったよな?



「どういうことだ……この状況は……?なぜ魔王様が?」


ん?まだ他にもいたのか?

王女たちにくっついてると言えばあとは聖女だが、彼女は3バカがこの世界で処刑されたときには彼女たちの元を離れていたはずだ。


それに目の前にいるのは筋骨隆々な悪魔の姿だが、こいつの魔力は記憶にある。

確かクオノリアとか言った気がするな。となると、さっき3バカと一緒に消し飛ばしたのはパラジットとゴルシュか。たしかそんな名前だったよな?


ジュラーディスと戦い続けているときにそれぞれ会った記憶がある。

だけどこいつの今の姿はなんだ?……なんか記憶にある気もするけどわからん。


レファを見て、あわあわしてるから魔王軍側かな?

角と翼があるし……。



……あっ。そう言えば四天王とかいうやつらの一人じゃなかったか?


「お前は……?」

「貴様はヴェルト……なぜここに?」

「わからん。赤い光に飲み込まれたと思ったらここにいた」

「貴様も?ダンジョンにいたのか?転生か?」

あれ?

あわあわしたままだから、気付かれてない?


「俺はリッチだぞ?」

「なにぃ!!!???くっ、貴様。まさかモンスターとなって我らの中に入り込んでこようなど」

「別に俺が望んだわけじゃないけどな……」

「そうなのか?」

よくわからんなこいつ。

跳ね起きて構えを取ったけど、一瞬で魔力は霧散した。


この分だと、こいつとつるんでたパラジットとゴルシュとかいうやつらも四天王か。

ん?四天王のあと1人どこ行ったって?

イルデグラスのやつは生き残ってて次の魔王になったからな。

たぶんまだこの世界で生きてるんじゃないか?


四天王のうち死んだ3人が向こうでモンスターになってたんだろう。

あと3バカ。

そういう意味ではお似合いなのかもしれん。


となると、ロゼリアとかジュラーディスは誰だ?って話になるが……。


「我はこの世界とは無関係じゃ。我は迷宮神が創造した世界の住人じゃと言ったであろうに」


いつもの通り俺の考えを読む爺さんが空に浮いていた。


「ふむ。強制転送のアイテムをエメレージュに持たせておけば、つながった先の世界に行ける予感があったのでやってみたが、ずばりそうじゃったのぅ」

ここに飛ばされたのは、この爺さんのせいかよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る