第73話 モンスター
ふぅ、無事に夢乃を救いだせてよかったな。
なぜかビデオ通話できなかったからチャットになっちまったけど、元気そうだった。
「ふん、人間の家族とはのぉ。面倒なつながりを持っておるようじゃのぅ」
目の前の人外には理解できないようだ。
寂しい爺さんだな。
「失敬な。我にも親族はおった。ただ、我が生きすぎただけじゃ」
特に感情のこもらない声で答えるハイエルフの爺さんの歳か……1万歳とかかな?
闇が深すぎて瞳がおかしい。
「まぁそうじゃの。大方合っておるのぅ」
合ってんのかよ。
髭を弄りながらあっさり答えるような内容じゃねぇーよ。
迷宮神は突然地球に登場したけど、やっぱりその前からどっかで活動してたのかな?
「そは然りじゃ。当然じゃの。この世界には可能性を感じたからやって来たにすぎんのじゃ。見出されたことが幸か不幸かはわからんだのぅ」
爺さんからあんまりジロジロと凝視されても全く嬉しくないんだ。
それなのに俺の方をじっと見つめながらしみじみと語る言葉は他人事だ。
こんなことに巻き込まれて、不幸に決まってんだろ?
一部の探索者は楽しそうだが、何かを達成できなければ世界が滅ぶなんてな。
「それは浅い意見じゃよ。なにせ、解決できねば貴様らのいる世界は滅ぶ。関与する、しないに関わらずな。ならば自らの手で未来を変えられる可能性を喜ぶべきじゃろうて」
なんだと?
というか、1万年前から生きていて、今ここにいるこの爺さんはどこからやって来たんだ?
「我か?我は迷宮神が創造した世界の住人じゃ。敬うがいい。迷宮神によって後から支配された貴様らの世界とは違う」
突然浮き上がる爺さん。
こいつが両腕を掲げると、中空に映像が映し出される。
なんだこれ?
映し出されたのは何もない世界。
地面はあるし、空もある。
でも、色がない。
寒そうな景色。
「すでに死んだ世界じゃ」
その映像を見つめながら爺さんが呟く。
そこから逃走してきたのか?
「それは違う。我々はまだこの世界とつながっている。逃げてなどおらぬ」
お前たちは何をしている?
「滅びの回避じゃ。迷宮神自身にはどうしようもないようだ。詳しいことは知らん。語られぬのでな。強きものを育てる。それに託すしかない。その言葉しか聞いておらぬ」
世界の崩壊を前にして、神がはっきり語れないというのは致命傷なんじゃないか?
もしかしてあの転生の説明をしてくれた神様は何か知っているのか?
「転生の説明をする神とな。これは興味深いのぅ。初めて聞く話じゃ」
再び爺さんの視線が俺に戻ってくる。
そろそろ寝転んでグダグダしてもいいかなとか思ってたのに、さすがにまずいよな……。
転生者自体がいないのか?
「そんなことはない。貴様が戦ったラガリアス達は転生者じゃ。そこにおるロゼリアもだのぅ」
なに?
っと思って、周囲を見渡すがロゼリアがいない。
あれ?あいつどこ行った?
「ふん。もうおらぬか。自由じゃのぅ」
どう見てもモンスターの最高位みたいなお爺さんの前ですら勝手な行動をしてしまうなんて酷い。無理やり愛人の自宅に連れ込まれて色々と(放送自粛)をした後に愛人のお義父さんに見つかって置いてかれたみたいな状況なんだが……。
「あら?お客様かしら?」
俺が爺さんからいろいろ聞いていると、女性のモンスター……こいつも始祖ヴァンパイアだな……がやってきた。
恰好は普通だ……。
エロゼリアのせいで、始祖ヴァンパイアは全員あんな感じなのかと思ってたんだが。
「あら?不躾で失礼なリッチね。ぶっ殺すわよ?」
うん。こいつも頭おかしいわ。
魔力量的にはラガリアスよりはちょい上くらいか?
腰に手を当てて偉そうなポーズで座ってる俺を見下ろしてるけど、胸はねぇな。
「くっくっく。それはラガリアスを瞬殺するリッチじゃぞ?貴様になどやられはせんじゃろうて」
「ふ~ん。なるほどね。それでラガリアスが暴れてたのね。なら初めましてこんにちは。私はエメレージュよ。せいぜい私たちの役に立ってね」
胸もないくせに胸を張って挨拶してくるヴァンパイア。
うーん、なんかこの感じ見覚えが……。
「そのリッチは言葉は解すが、話せはせぬ」
「そうなのね。じゃあね、リッチさん。私は行くわ」
あっさりと俺から興味を失ったようで、女は手をひらひらさせながら出て……
「待て。これを持って行くのじゃ!」
「な~に~?じじいの入れ歯とかだったら許さないわよ?」
「我は入れ歯など使っておらん!」
出て行こうとする女にジュラーディスが何かを投げつけた。
女はそれを掴み、出て行った。
何しに来たんだ?
「あれに、貴様のいた新宿ダンジョン100層のボスをやらせるためじゃのぅ。権限は既に移しておいたし、ここから転送できる」
ぬぁんだとぉ?????
こいつら、まじで勝手にころころ権限変えすぎじゃね?
自分たちで作ったダンジョンでもないのに。
「ダンジョンを作ったのは迷宮神じゃ。しかし彼の神は満足に意思疎通できぬ。ゆえに我らがいて、意を汲み、動いてきたのじゃよ。遥か昔からのぅ。その中で様々な世界とつながり、仲間を増やしてきたのじゃ。それが管理者であり、モンスターじゃ」
管理者……それがさっき言ってた連中か。
えーと、ラガリアスに今のエメレージュ。あとファなんとかと……あとなんだっけ?
そもそも管理できてなくないか?という疑問で一杯なんだが?
「あくまでも管理権限に触れられるレベルの魔力量や知能があるという意味じゃ」
なるほど。それなら納得だ。
こいつらポンポン弄りすぎてるが、そういう権限を持っているということならまぁ理解できる。
「漂う命を拾い上げたこともある。成長を見守ったもの、改変を加えたもの、介入したものもな。しかし、これまでうまくいったことはないのは見ての通りじゃ。しかし、貴様は興味深い。なぜこのような異物が?転生の神様と言ったか……。ふむ、実に興味深い。この世界に迷宮神以外の神もおって、我らを介助する……なぜだ?なぜ今さら?むしろ今なのか?……」
会話からスムーズに思考の海へ移行していくジュラーディス。
まぁ、会話するのも面倒だからどうでもいいけど。
こいつらは転生の説明の神様を知らなかった。
なぜだ?
そう言えばもらったものはまだほとんど使ってないな。使ってるのは"魔力回復(大)の指輪"と"状態異常防御の指輪"。他にも首や腕に何かじゃらじゃらついてるけど、鑑定しても不明だったからそのままだ……。
なんか見たことがあるような無いようなお守りに、シンプルな棒がついた首飾り。
それに……。
「では説明は終わりじゃ。では戦うとしよう。存分にな」
はっ???
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