第67話 救出!

「白鳥さん、聞いてください!『白鳥夢乃さんは元世界ランク2位の探索者、湊早紀が居場所を特定し、ダンジョン協会の関与する病院に移ってもらった。もう心配することはない』、とのことです」

『えっ……』

詩織が持つスマホから聞こえる声が途切れる。

きっと驚いてるんだろう。


『ほんとう……に?』

まさかこんなに短期間で発見して保護してくれるとは。

早紀さん……悪夢とか言ってすみませんでした。

今度会ったら俺が土下座します。


:すげぇな、ダンジョン協会。

:姫乃さんが妹を奪われて従わされててたの知ってたのか?

:発見して保護とか、早紀さんがイケメンすぎる……

:終わったな、八咫烏。姫乃さんだけでもってたようなもんだろ?あとは問題児しかいねぇ。


『ありがとうございます……本当に……』

聞こえてくる声が弱々しいものに変わる。

良かったな。

これで一安心だ。

夢乃の病気ってのが気になるが。

 

『でも、あの子の病気は……?他では治せないと聞いていて……』

姫乃も同じく妹のことを気にしている。


皇ちゃん:詳細はあとで報告する。とりあえず、こちらの医師の診断では現時点で心配はないとのことだ、ということだけこの場では伝えておいて欲しい。

:おぉ~

詩織:わかりました。


詩織が電話で姫乃を励ましながら、皇ちゃんが言ったことを伝えてスマホを切る。

あとはグループチャットに姫乃を入れて話せばいいかな。



その前に……



「くっ、貴様ら。余計なことを……」

こいつの処分だな。

この場でぶっ飛ばしてもいいんだが。



皇ちゃん:塔ちゃん。黒田を捕縛してほしい。警察と連携しているが、誘拐、詐欺、脅迫の容疑でダンジョンから出たら即逮捕だ。政府にも報告済みで、裏でつながってた議員たちも黙らせた。

塔ちゃん:了解。といっても既に捕まえてるから、このまま赤坂ダンジョンの入り口まで持ってくわ~

:黒田、ゴミの運搬みたいになってて草www

:さすがリッチ様♡

:映像見返す限り、あいつラガリアスの魔力で地面に倒れてたから、リッチ様の使ってた魔法とか見れてないんだろうな。

:それであんなことがあった後なのに平然とリッチ様の前に出たのか。

:きっとスタンピードのときに腕がなかった時のリッチ様のイメージだったんじゃね?

:なるほど。


コメント欄はまだわいわいしていたけど、俺は黒田と、あとはその辺に転がってた八咫烏の連中を全員捕まえて空中に浮かせた状態で赤坂ダンジョンの入り口まで戻った。

黒田にやったことはバレてないよな……。


特に意識してなかったけど、ちゃんと調節した後もずっと電撃が走っては回復するのを繰り返し……拷問みたいなのになったのは仕方ないよな。

俺の怒りの切れ端位は知っとけ。


そこには警察がたくさん待機していて、八咫烏の連中をパトカーに乗せて行った。

責任者と思われる人から敬礼されたから、敬礼し返しておいた。


決して責任者の女性刑事さんがステキなお姉さんだったからではない。

 


その様子を詩織はキラキラした目で見ていたが、レファからはなにやってんの?と言われた。フランは不思議そうにしていた。

なんだよ。このポーズを真面目にやるのって、なんかロマンあるだろ?



俺はそこから全速力で新宿ダンジョンに戻った。

平日の空に俺が浮いていても、きっと見たやつの見間違いですむだろう。すんでくれ。


「お父さん……」

そして100層のボス部屋に入ると、まだそこにいた姫乃に抱き着かれたからよしよしと頭を撫でてやる。


後は病気のことだな。



姫乃が落ち着いた後、グループチャットに姫乃も加えて皇ちゃんを呼び出したら、すぐに出てくれた。

暇なんかな?

いや、娘を救ってくれた恩人だからとてもありがたいことだな。感謝だ。



塔ちゃん:皇ちゃん、早紀さん、感謝する。娘を助けてくれてありがとう。

姫乃  :ありがとうございます。その、本当に夢乃は?

皇ちゃん:塔ちゃん。水くさいこと言うなよ。むしろスタンピードのこととか、いつも助けてもらってるのはこっちだ。

早紀  :そうよ。むしろ頼ってくれて嬉しいわ。

塔ちゃん:ありがとう。

皇ちゃん:姫乃さんも大変だったな。


皇ちゃんも早紀さんも暖かかった。

本当にいい人たちだな。

 

皇ちゃん:気になるのは夢乃さんの状態だと思うから、説明するぞ?

塔ちゃん:お願いします。

姫乃  :お願いします。


つい敬語になってしまうのは勘弁してほしい。


皇ちゃん:昨日未明に軽井沢のとある病院の患者リストに氏名不詳の患者がいることがわかってな。その病院は四鳳院家から理事が出ている病院だから怪しいと思って潜入させたら、それが夢乃さんだったんだ。

塔ちゃん:なるほど。まさか全国の病院を調べてくれたのか?

皇ちゃん:いや、八咫烏が自由がきくところと言えば四鳳院家が関与してるところだろうと思って、そこに絞ってた。


なるほどな。

さすが四鳳院家出身。


皇ちゃん:たぶん姫乃さん一人じゃ探せないと踏んでたんだろうな。行ってみたら普通に入院してた。病院内では普通に氏名も書かれていて、扱いも一般患者だったんだよ。あえて隠してなかったんだろう。

塔ちゃん:なるほど。

皇ちゃん:だから、申し訳ないが姫乃さんの名前で病院に掛け合った。それで、Sランクの探索者をやってる関係で協会の関連病院なら治療費を負担できるってことにして病院を移ってもらうことにした。病院側は普通に対応してくれて、むしろ喜んで紹介状も用意してくれたから、今週末には新宿にあるダンジョン協会が運営する病院に移れるよ。今とりあえず入ってもらってる軽井沢の病院はつなぎだ。一刻も早く移した方が良いと思ってな。


至れり尽くせりだな。

八咫烏が現場の病院に詳しいことを伝えずに一般の患者と同じ対応になってたのもラッキーだな。


塔ちゃん:なにからなにまで助かる。

皇ちゃん:あぁ。で、病気のことだが、これは対処できる。その病院の検査結果と、こちら側の医師によるリモートでの診察の結果ではあるが、もともとの病気は既に治っていて、薬物投与によって病気に見せかけていた可能性が高いそうだ。本人に確認したところ、月に1度、病院外の医師が診察して注射していたらしいから、恐らくそれだ。本人には治療の一環と伝えられていたそうだが、病院側には保護者との面会と申請してあったらしく、病院は知らなかった。この件は悪いが八咫烏を訴える際に使わせてもらいたい。

塔ちゃん:もちろんだ。


聞いただけで怒りが込み上げてくる。

隣の姫乃も同じようで、拳を握りしめている。


皇ちゃん:ただ、その注射が死に至るようなものではなく、あくまでも調子を崩す程度のものだったのが幸いしたのか、経過観察は必要だが、今後には問題ないようだ。後遺症の心配もない。たぶん姫乃さんをずっと従えるためだったんだろうと思うから八咫烏を擁護する必要は一切ないがな。

塔ちゃん:ありがとう。そこまで調べてくれて。

姫乃  :ありがとうございます。本当に、どうお礼を言っていいか。私、全然対処できなくて。八咫烏なんかに頼ることになってしまって。多くの探索者さんたちに迷惑をかけてしまって、すみません。私もちゃんと罪を償います。私も八咫烏でしたから。


姫乃がチャットに謝罪を書いているのが切ないな。

しかも、何か罪があるのだろうか?



 

俺がちゃんと生きてればな……。






***

ここまでお読みいただきありがとうございます。

無事、カドカワBOOKSファンタジー長編コンテストの応募期間を走り抜けまして、あとは来週9/3 11:59までの読者選考期間を残すのみとなりました。

みなさん、どうか当作品の中間選考突破に向けてお力添え(作品フォロー、星評価(☆☆☆→★★★))をお願いいたします。

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