第66話 ラガリアス消失?

俺が魔法を放つ直前に響いた声に気を取られているうちに、ラガリアスは消えてしまった。

かわりにいつの間にか現れたロゼリア……。


なぜ?

正直意外だった。

立ち位置的に重要そうなモンスターだったから、ボコるのは良くてもさすがに消し飛ばすのはまずいということか?


この辺りはまだ俺は知らない領域だな。

これまでは人間の探索者育成ばかり追ってきたから、モンスター側のことはあまり知らなかった。


でも、そもそもロゼリアやラガリアスみたいな明らかに意思があって、しかも異なるダンジョンを行き来できるモンスターがいるということは、モンスター側もなんらかの組織や立場があったりするんだろうか?


「その通りよ。今ここで詳しく話すことはできないけど、現時点でラガリアスを消すとちょっと面倒なのよ」


なるほど。

あんなやつが実はたくさんいて、ここに俺を消しに来るとかそんな事態になったら確かにマズいしな。

日本が危険視されて各ダンジョンにそいつらが配置されるとかもマズい。


「方向的にはそんな感じよ。私やラガリアスみたいな立場のモンスターはそんなに多くないけど、一定数いるの。それの総攻撃とかは嫌でしょ?」


あえて話したのは配信に聞かせるためだな。

どこまで言っていいのかわからず話すのは難しいから助かる。

そういうことなら会うたびに憂さ晴らしで半殺しくらいでいいか。恐怖を植え付けてやるからな……覚えてろよ。



「くっ……ラガリアス殿はどうなったのだ?」

ラガリアスが消え、俺も魔力放出を止めたせいか、八咫烏の連中が出て来た。

まだいたのか……。


「あれ程の魔力を使ったのだ。疲弊したことだろう。今ここで貴様を倒してやる。新宿ダンジョンの方もそろそろ終わるだろうしな」

ん~と、正気か?

新宿ダンジョンのボス部屋の方は何かあったらわかるようにしてるけど何もないし、さすがにお前にやられるほど弱くないぞ?

 

:えっ?マジで言ってんのこいつ?

:いや、さっきの見てなかったのかな?

:正直、こいつがリッチ様と、ロゼリア様に勝てる未来が浮かばない。

:全ての平行世界を覗いてみたとしても、きっと全部瞬殺だろ?


「まさかさっきのリッチのアレを見て勝てると思える神経が理解できないな……」

いつの間にか戻ってきたフランの発言に全面同意したい。


「くっ、貴様は……」

しかも俺よりもフランを警戒している。なんだこいつ?

まぁフランは世界ランク9位らしいから有名なんだろうけどな。


「おい!白鳥!いつまでやってんだ!終わったんだろうな?」

するとこいつはスマホを取り出して電話し始めた。

知らなかったけど、スマホって別のダンジョンの中にいるやつとも通話できるんだな。


『無理ですね。とんでもないモンスターがいて、ヴァラックの人たちはあっさりと全滅しましたし、私も攻めあぐねています』

通話先の姫乃の声が丸聞こえだが、なるほど。新宿ダンジョンの攻略に行かせたのか。感知してみると確かに来ている。アンノウン改が一定のダメージを負ったら知らせるようにしてただけだったから気付かなかった。


でも、俺のいない間に行って何の意味があるのか知らないが、配置しておいたアンノウン改は強いぜ?


「ふざけるな!とっとと蹴散らせ!さもないとお前の妹の未来はないぞ!」

『くっ……』

姫乃の話した内容が気に入らなかったんだろうな。

この八咫烏のおっさんは怒り心頭で脅し始める。

知らぬこととはいえ、こいつをぶっ殺す理由ができたことにこいつが気付くことはないだろう。

 

:話の流れからして新宿ダンジョンでなにかやってんのかな?

:だろうけど、脅しの文句、酷くね?

:相手は白鳥姫乃だよね?『お前の妹の未来はないぞ』って……

:世界ランク98位。日本人ナンバー2の姫乃さんだよな?

:なんであんな娘が八咫烏にいるのか不思議だったけど、そっか脅迫してたんだな。

:八咫烏は全員クソだけど、姫乃さんだけは違ったよな。

:姫乃さんが一緒だと八咫烏の連中、そんなにあくどいことしないんだよ。

:私、さっき新宿ダンジョンの受付のあたりにいたんだけど、ヴァラックが受付に酷い対応してるの、姫乃さんが謝ってたよ?

:まじかよ。どうせヴァラックはこの黒田とかが呼んだだけだろ?なんで姫乃さんが。

:きっといい子なんだろうな。だから脅迫されて……

皇ちゃん:全部記録した。塔ちゃん、あいつのスマホ借りてくれ。


ん?スマホ?

まぁ借りるのなんて楽勝だが、どうするんだ?


塔ちゃん;これだろ?どうするんだ?俺は喋れんぞ?

:はやっw

:黒田が気付かずにまだスマホ持ったポーズで喋ってんのウケるwwwwwww

皇ちゃん:さすがだ。詩織ちゃん頼めるかな?白鳥さんに今から言うことを伝えてほしい。

詩織:はい!


「白鳥さんですか?」

『えっ?えっと、どなたですか?私は白鳥ですが』

「なっ?」

詩織にスマホを渡して喋らせる。

当然、姫乃は困惑する。

そして黒田って言うのか。あいつも困惑してる。


そりゃそうか。いままで喋ってたもんな。なにも持ってない右手を耳に当てて。


とりあえず魔力で拘束しておく。

 

「くっ、なんだこれは!ほどけ!ぐあぁ……」

黒田は暴れるが、当然こんなやつにほどけるほど貧弱な拘束をすることはない。

エルダードラゴンでもラガリアスでもほどけなかったんだしな。

あっ、ちょっと待った。電撃の威力調整を忘れて……あっ、死んだ?

待て待て待て待て。それはまずい。ちょっと……あぶねぇ。間に合った。



「突然すみません。私は探索者の水崎詩織です。今、師匠せんせい……リッチ様と一緒に赤坂ダンジョンの81層にいます」

『あぁ、ここに入るまで配信を見ていました。それで、どういった用件ですか?』

姫乃は俺の配信を見ていたようだ。

それなら話は早い。


「はい。今からダンジョン協会の湊会長からの伝言をお伝えしたいのですが、聞いてもらうことは可能ですか?」

『会長の?わかりました。お願いします。こちらはアンノウン改というモンスターと対峙していますが、こちらから攻撃しなければ、このモンスターはそこまで強い攻撃はしてこないので』

ちょっと待て。ヴァラックは敗れたって聞いたけど、姫乃一人なのか?


俺は新宿ダンジョンのコントロールパネルを取り出してちゃんと確認する。

うん、4人がアンノウン改に取り込まれてる。部屋にいる人間は姫乃一人か。

だったらもういいな。


パネルを操作してアンノウン改を消した。

4人は当然ながら死に戻りだ。


『あっ、アンノウン改が消えました』

師匠せんせいがパネルを弄ってるので止めたのかなと思います」

『なるほど。ありがとうございます』


:理解が追い付いてないけど、八咫烏が新宿ダンジョン攻略やってて、リッチ様が配置してたボスモンスターと戦ってた、でOK?

:リッチ様不在の新宿を攻略して何するつもりだったのか知らんけど、きっとろくでもないことだろうな。

:アンノウン改ってのがウケる。

皇ちゃん:コメント欄のみんな。ちょっと大事な話をするから聞いててもらっていいか?

:了解です!

:ラジャーです会長!

皇ちゃん:ありがとう。それじゃあ詩織ちゃんメッセージを伝えてくれ。『白鳥夢乃さんは元世界ランク2位の探索者、湊早紀が居場所を特定し、ダンジョン協会の関与する病院に移ってもらった。もう心配することはない』とな。




***

ここまでお読みいただきありがとうございます。

無事、カドカワBOOKSファンタジー長編コンテストの応募期間を走り抜けまして、あとは来週9/3 11:59までの読者選考期間を残すのみとなりました。

みなさん、どうか当作品の中間選考突破に向けてお力添え(作品フォロー、星評価(☆☆☆→★★★))をお願いいたします。

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