第60話 お父さん!
「お父さん……」
はいっ???
白鳥が泣きながら抱き着いてきた。
はっ?どういうこと?
そのまま泣いてるし……うん……なでておこう。
なんでだよ。骨に撫でられたら怖くないか?
でも、俺の手は勝手にこの娘をなでている。
なにかの勘違いとかだと思うけど、あいつの子供なら、俺、ちゃんと可愛がれるよ。
あいつは俺の半身だったんだ。それくらいに近くて、大事だったんだ。
そのまま俺は白鳥が落ち着くのを待った。
「ごめん、驚いた」
1時間くらい泣いてただろうか。
ようやく涙を拭いて顔をあげた。
リッチ:あぁ。大丈夫か?えーと、その
「ありがとう、お父さん」
完全なお父さん認定されている……
コレハドウイウコトダ?
「混乱してるよね。ごめんなさい。ちゃんと話すから、ちょっと待って……急すぎて頭が動いてない。ちゃんと落ち着いて話すから」
必死に息を整えている。様子を見る限り本当に俺のことを父親だと思ってるっぽい。
いや、そんなはずは……。
でも待つしかないか。話してくれるっていうんだしな。
俺はそのまま頭を撫でながら待った。
「お母さん……身籠ったことを最後にお父さんに伝えられなかったって言ってた」
はい?????????
ちょっと待って。
身籠ってた?
そりゃあ同棲してたけども……。
結婚する気だったからその……。
「帰国したらデートする約束してたって……。そこで言おうと思ってたって……」
白鳥は目に涙をいっぱい浮かべながら話してくれる。
まじか……。
それはちょっと……切ない……。
俺の子?
あいつを……あいつとまだ一緒に生きていたかったんだけどな。
この世界に転生してからあまり考えないようにしていた想いが溢れてくる。
突然の死亡で頭がうまく回ってないうちに転生してしまって、それでもしばらくの間は気にしてたんだ。
そのあと、勇者として生きるのに精一杯になってしまった。
まぁ、その時点で死んでるからもうどうしようもないんだけどな。
日本で生きてる時期には、あいつとは仲良かったし、いろいろしてあげれたと思う。
俺の自己満足かもしれないけど。
リッチ:お前……名前を教えてほしい。いや……姫乃だっけか?
「姫乃です。お母さんと何か話してたの?」
狼狽する俺と対照的に姫乃は落ち着いてきていた。
リッチ:昔な。もし子供ができたらどんな名前を付けるかって話をしたんだ。
「お父さん……」
リッチ:その時に、姫華がいいって俺が言ったんだが、雪乃は華って言う字が派手な感じがしてあんまり好きじゃなかったらしい。それで乃をつけるかとか、夢もいいなとか話した。懐かしいな。
「そうだったんだね。夢乃もいるよ?」
はっ????
ドウイウコト?
「私たち、双子だったの」
なるほど……。
リッチ:そうだったのか。すまなかった。全く知らなくて……。ダンジョンから出ることもできなかった……いや、言い訳だな。探す手段はあったのに放置した。すまん。
俺は頭を下げた。
あいつに家族がいたことは知ってた。
もっと本気で探せば見つけていたと思う。
でも、誰かほかのやつと家族になったんだと思い込んでて、躊躇してしまっていた。
「ううん。そもそも子供がいるなんて知らなかったら、お母さんがもう亡くなったことしか知らなかったとしたら……探せないよ。それに自分がモンスターになってたんだから余計に仕方ないと思う」
素直ないい子だな。
警戒は完全に溶けたらしく、本当に娘のように接してくれる。俺はただただ姫乃をなでた。
リッチ:俺、知らなかったけど父親になってたんだな。
「変な感じ?」
リッチ:いや。飛行機事故で死んだ俺は異世界に行ってたんだけど、そこでも結婚してな……その、子どももいたんだ。
「不思議な感じね」
リッチ:あぁ。なんかすまん。俺のことじゃなくて、今はお前たちのことを聞く時間なのにな……。妹は元気か?
俺がそう書くと姫乃の顔が急に曇った。
ん?なんかあったのか?
もしかしているけど、既に亡くなったとか?
「お父さん……助けてほしいの……」
しかし、姫乃の反応はこれも予想外なものだった。
リッチ:どうした?なにがあったんだ?
「お父さん……」
再び姫乃は俺に縋りついてくる。涙を貯めている。
リッチ:助けるぞ。もちろんだ。知ったからには必ずな。知ってるだろ?俺、ダンジョンの外にも出れるんだ。
「うん……」
姫乃はゆっくりと頷き、涙をぬぐった。
リッチ:だから、ゆっくりでいいから話してくれ
「うん……。お母さんは死んだの」
リッチ:あぁ、それは聞いた。転生の時の神様から。彼女は良い子だった。俺にはその……なんて言うか勿体ないくらいの。
「お母さんもそう言ってたよ。私にはもったいないくらい頭が良くて、優しい人。正義感もあって。普段はやる気なさそうだったけどって」
リッチ:そっか。でももし生きてたらまだ40歳とかだろ?病気とか?
「うん。ガンでね。3年前に」
リッチ:そうだったのか。
「それから私と妹は2人になっちゃって」
それはそうだ。
俺も雪乃も身寄りがない。そもそも出会いは幼い頃、児童養護施設でだ。
「妹……夢乃は病気で」
力なく姫乃が呟く。消え入りそうな声だ。無力感というやつなんだろうか。
リッチ:まじか……。病気の治療か……
「ううん。もし治せるなら嬉しいけど、そうじゃなくて。夢乃は八咫烏に捕らえられてどこにいるかわからないの」
は?
リッチ:なんだと?
「メッセージのやり取りをしたり、電話もできるからもう死んでるとかはないんだけど。でも、夢乃の治療をする代わりに私に仲間になれって。私にも悪い任務をこなせって」
リッチ:強要されてるのか。
「うん……。ごめんなさい、お父さん」
リッチ:謝ることはない。よく頑張った。
「ううん。お父さんが書いた魔力活用のレポート。お母さんから貰ったの。私はその力も悪いことに使っちゃった。ごめんなさい」
リッチ:大丈夫。なにも問題ない。あんなのはただの技術でしかない。今はお前が生きててくれて良かった。教えてくれてありがとな。
「お父さん……」
リッチ:八咫烏とかいうやつらはぶっ飛ばす必要があるな。
「でも、夢乃が……」
リッチ:よし、救い出そう。
「どうやって?」
リッチ:今回の件で、明らかに八咫烏はラガリアスとつながって悪さしてるな。
「うん」
リッチ:お前、もう少し八咫烏にいれるか?今いなくなったらそれこそ妹が危ない。
「うん。問題ないよ」
リッチ:これを持っていけ。お前を守ってくれる。
「お父さん」
俺は持っていたお守りを渡す。
なんで身につけているのか記憶にないけど、ずっと装備してるんだ。
なんか懐かしさがあるんだけどな……思い出せない。
でも、今これを渡すべきなんだと思ったんだ。
リッチ:なにかあったらメッセージをくれ。あと、俺の方でも妹を探る。仲間にも頼む。
それからさらに少し、姫乃が落ち着くまで一緒にいてやった。
そして姫乃は帰って行った。
八咫烏……絶対に許さんからな。
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