第59話 語らい

「なぜ私だけを残した?」

彼女は攻撃をやめてSNSを見せる俺に向かって当然の疑問を口にする。

雪乃よりは少しだけ声が低いが、よく似ている。

背も少し高いか?


外見も声も似てて同じ苗字だなんて、まじで親族だったりするんだろうか。

でもあいつに兄弟姉妹がいたなんて聞いたことがないけども?



リッチ:俺は日本語が喋れないからメッセージ入力でやり取りさせてもらいたいんだが、いいか?

白鳥:喋れないのか。私もテキストの方がいいのか?

リッチ:いや、君は喋ってくれたらいい。聞き取るのは問題ないんだ。俺の声帯が多分ダメで、発声しても人が聞き取れる言葉にならないんだよ。


「そうか」

この子は声にあまり抑揚がないな……。


リッチ:そうだ。俺のことは知らないか?


「残念ながらあまりよく知らない。新宿ダンジョンの40層にとても強いリッチが出るのは知ってて、そのリッチが配信やSNSをやってるって聞いたことがある。あとは、組織の偉い人が怒ってたことくらいしか知らない」

ほぼ表情が動かないな。そんなところは雪乃とは違う。


そしてやっぱりまだまだ俺の認知度は低いんだなと実感する。エッチな悪戯をしてることだけが切り抜きで出回るよりはましだがな。


リッチ:そうか。お前は俺と会話したらその、組織の方で問題があるか?


「特にない。今は配信はされてないんだろう?なら、問題ない。みんな落ちた後に一人で足掻いて戦っていたとでも言えばいい」

なるほどな。こいつ一人だけ強かったからそれも通じそうだな。


リッチ:そうか。なら、これにかけてくれ。


俺は魔力でアイテムボックスからソファーを出した。

これは便利な魔道具で、魔力量に応じて大きくなる。

暇な時間に作った家具とかは全部これに入れてあるし、ダンジョンを散歩してる間に手に入れたドロップ品なんかも全部この中に入っている。



「で、なぜこんなことを?何か話したいのか?」

大人しく俺が出したソファーに腰掛けてくれたが、そりゃあ怪しむよな。

絵面的にはお迎えに来た死神だしな。


リッチ:全く無関係だったら申し訳ないんだが、白鳥雪乃ってのが親族にいないか?関係なかったらすまん。でも、名前が似てるし、その……姿かたち。あと声もだ。とても良く似てる。たぶん、雪乃は死んだって聞いたけど、もし生きてたらちょうど40歳だから君の母親世代だと思う。


「母が白鳥雪乃という名前だが……なぜ?」

えっ……?母?

ようやく感情を動かしたらしく、驚きに染まった顔をしている白鳥から衝撃的な言葉が出てきた。

家族がいたとは神様から聞いたが、まさか娘がいたとは……。


「なぜあなたが母を?」

あぁ、そうだったな。俺のことを知らなかったら困惑するだろうな。


リッチ:俺は元人間だ。配信やウェブサイトでは何度も書いているし、この前は総理大臣にもバラしてるくらいには有名な話なんだがな。2回転生したらダンジョンのフロアボスになってたんだ。ちなみにダンジョン協会会長の湊皇一……皇ちゃんとは人間だった頃から知り合いだ。


「えっ?人間がモンスターになったの?そんなことがあるのか……?」

驚きのせいか、口調が柔らかくなってるな……この子は恐らく何かを抱えてる。それで固い口調、固い表情を作っているんだな。


リッチ:あぁ、ある。俺には前々世に日本で生きていた記憶も、前世で異世界で生きていた記憶も、両方しっかり残っている。


「それで……日本で生きていた時にお母さんの知り合いだったの?お母さんから、私は自分によく似てる、瓜二つねって言われてた」

伏せがちだった視線を俺の方に向けてくれたな。さらに少し口調が柔らかくなった。こんな俺の話を信じてくれるってよく考えたら凄いな。


リッチ:あぁ。お前がフロアに入ってきた姿を見て驚いた。白鳥って呼ばれてたからさらにな。


「あなたは?」


リッチ:ん?



「あなたは母とどういう関係だったんですか?」

そして敬語になった。母親の知り合いと分かったからか。この子は雪乃が死んでから苦労したのかもしれないな。よく考えたら八咫烏なんて怪しい組織に入ってしまってるんだもんな。大変だっただろうに。



リッチ:幼馴染だ。


「はっ?えっ?……」

ん?そんなに驚くところか?


白鳥は右手で口を覆った。その目からは涙が流れ出す。

いや、泣くなよ。なんだよ。


そして泣きながらも、目を見開いて俺のことをじっと見ている。


リッチ:どうした?なぜ泣く?俺は割と君のお母さんとは仲が良かった。娘さんにこんなことを言うのもあれだが、付き合ってた。死んじまったから、その後はわからないんだが……。なんで泣くんだ?あいつに幼馴染は俺しかいなかったと思うから、何か聞いてるのか?なぁ。


俺は慌ててSNSにコメントを打ち込むが、もはや白鳥はスマホを見れていない。

スマホは左手に握りしめたままだが、彼女は左手を下にたらしたままだ。


突然のことにどうしていいかわからなくなった俺は腰を浮かせ、この子を落ち着かせようと身を乗り出したが、そこで……





「お父さん……」




Oh! My daughter……






はっ???

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