第56話 小物オブ小物
□ダンジョン協会本部(湊皇一)
「くっくっく、久しぶりだな」
「特に会いたくはなかったがな」
ダンジョン協会本部で、協会の会長である俺は1mmもテンションが上がらない相手の訪問を受けている。
その男が部屋に入ってくるかなり前からげんなりした表情をしていた。
なお、関わりたくないのか、案内してきた協会職員は男をソファーに座らせると、2人の前に水が入ったペットボトルを放り投げるように置いて早々に去って行った。
いや、目の前の肉塊はどうでもいいけど、俺の扱いも酷くね?
「ふん。この私がわざわざ足を運んだというのに失礼な部下だな」
そんな職員の様子と目の前に置かれたペットボトルを眺めながら望まれざる客が悪態をつく。
まるで肉塊のような体躯に肉塊のような顔、肉塊のような色の服を着た、肉塊のような人物……実際はそんなことはないが、俺の頭の中では勝手に変換されて肉塊として認識されていた。
「ん?いらんのか?じゃぁ下げよう」
「なっ……」
俺はそんな男からペットボトルをひょいっと奪う。
「くっ。ふざけた態度は今のうちだ、皇一」
「仲良くお茶する関係じゃないだろ?さっさと用件を言え」
そんな男の怒りを全く意に介さず、俺は事務的に聞く。
「ふん。各地のダンジョンの1層に湧いたアンノウンに手こずっていると思ってきてやったのに。なんだその態度は」
「気にするな。お前は関係ない。じゃあ用件は終わりだな。帰れ」
やれやれといった様子で嘆く肉塊に対して冷たく言い放って俺は応接室を出て行こうとする。
「待て!聞かんと後悔するぞ?」
その様子に焦ったのか、肉塊も立ち上がってはぁはぁしている……じゃなかった、呼び止める。
俺は無言で先を促す。
「大人しく聞けばいいのだ。なに、我が赤坂ダンジョンにはボスが出なかったのでな。もとより入場料は変動価格を採用しているが、どうも普段の協会職員の態度の悪さを逆恨みしたものたちが若干嫌がらせのような値段をつけたようだから、それを解いてやろうと思ってな」
1回20万円は若干なのか?と誰もが思うだろうが、そんなことは全く気にしない肉塊はニヤニヤしながら語りかけてくる。
キモい。
「なるほど。20円にしてくれるわけだな。なら交渉成立だ。もう終わったから帰れ」
「なっ……なにが交渉だ!ちゃんと最後まで聞け!」
面白いからおちょくってみると顔を真っ赤にして怒ってる。
もうお分かりだろうが、肉塊は四鳳院竜司。
俺の弟で、俺の元婚約者を奪ってくれた男で、強力なダンジョンボスに恐れをなしてその女性をあっさり裏切ったうえに早紀に取り入ろうとした小物だ。
かつては世界ランキングの上位に名を連ねたときにはこれでもかと調子に乗っていたが、それは俺の全体バフによる効果のおかげだったし、今では全く面影はないただの肉塊だ。
「他に何があるんだ?」
「対価だ!対価に決まってるだろう!?」
「あぁ?20円払うって言ってるだろ?それ貯めてニンジンやポテトでも買って、横に添えてればいいだろ?」
ほら、ステーキのできあがりだ。まずそうだから俺はいらんけど。
「貴様ぁ!!!!!!」
「誰がてめぇになんか頼るかよ。ほら、さっさと帰れ!」
八咫烏に協力要請するなんて全く考えていないので、あっさりと肉塊を追い出した。
肉塊は怒り心頭で帰って行った。
ここはキッチンじゃないんだ。
さっさと帰れ。
□車の中で(黒田)
「あいつめ。ふざけるなよ!?目にもの見せてくれるわ!」
「落ち着いてください。どうせダンジョン協会には何もできません」
車の中でも怒り続けている竜司を宥める。
どうやら軽くあしらわれたようだ。
まぁ、仕方ない。
今の状態をダンジョン協会が打破するには日本各地のダンジョンに放たれた1層ボスのアンノウンを片っ端から倒すしかない。
それも復活が追い付かないくらいの速度で。
今はアンノウンが倒されても八咫烏がラガリアスに提供しているエネルギー結晶を使って再生させている。
これだけたくさん配置してしまうと、やはり偶発的に倒されることがあって、その度にエネルギー結晶を使ってラガリアスがアンノウンを再生している。
「エネルギー結晶は竜司さんのおかげで1,000個ほど確保できていました。アンノウンの再生には1個で足りるようなので、まだまだこの災厄は続くでしょう」
配置から1週間程度で、倒されたのは5体のみ。
単純計算で200週間も保つ計算になる。
プルルルルルルルル!!!
ふいにスマホが鳴る。
画面を見ると、赤坂ダンジョンでエネルギー結晶の管理をさせている部下からだ。
「黒田だ。どうした……なにぃ?」
「なんだ?どうしたんだ?」
どういうことだ?
赤坂ダンジョンに設置した倉庫から300個近いエネルギー結晶が失われただと?
あのモンスター……ラガリアスが勝手に使ったのか???
そしてさらに電話の相手からの報告が続く……
「なんだと?」
「どうした?説明しろ!?黒田!?」
「これをご覧ください」
私は主である四鳳院竜司にスマホを見せる。
「なっ……」
そこには『【速報!】アンノウンを撃破したら称号ゲットできるよ!?称号の解説付き』とかいうタイトルの配信が映っていた。
そして……
詩織:みんな見て見て!ここ!凄いよ!!
レファ:称号ゲットしているわね。なになに……"未知との遭遇"と"勇気"ですって。どっちもステータスアップ効果ありなのね。
フラン:なんだこれは。称号?
詩織:フランさん凄い。称号10個もあるね。
どういうことだ?探索者カードを見ているようだが、称号とはなんだ?
「なんなのだこれは!?」
「……わかりません」
ずっと一緒に行動していたのにわかるわけがないだろう。バカか。
<それではここでダンジョン協会からの発表のニュースが飛び込んできましたのでお伝えしたいと思います>
「なに?」
車中で垂れ流していたテレビからそんな声が聞こえて来た。
<本日午前10時。新宿スタンピード討伐の英雄である間野塔弥氏の協力の元、探索者カードの機能解放に成功したとのことです。"称号"という機能で、最寄りのダンジョン協会で探索者カードの更新を行うと保有している"称号"が見れるようになるとのことです。”称号"を得た探索者は恩恵が受けられるとのことで、広く称号の獲得推奨と獲得方法の調査を行っていくとのことです。なお、この機能は日本国内のダンジョンでのみ解放可能となっており、世界各国の探索者の探索者カード更新も今後受け入れていくとの……>
「なんだそれは!?どういうことだ!?」
「……わかりません」
わかるわけないだろう。引退したとはいえお前の方が経験が長い探索者だろう?この肉塊が!
<間野塔弥氏のコメントも入っておりますので読み上げます。『各地の1層ボスを倒すと"未知との遭遇"と"勇気"っていう2つの称号が得られるらしい。新宿と那覇公園ダンジョンで確認済みだが、他でも試してほしい。アンノウンの倒し方はアーカイブにあげたからよろしくな!』とのことです>
「なっ……」
当然のように、蜘蛛の子を散らすようにアンノウンが出現していない赤坂ダンジョンから探索者が消えたらしい……。
「ふざけるなよ皇一ぃぃいいぃぃいいいいいい!!!!!!!!!!」
車の中に肉塊の雄たけびが木霊し、煩いことこの上なかった。
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