第53話 夢猫(ドリームキャット)の結論

少しだけ時間を遡る……。


 


□詩織


ちょっと困ったことになってしまった……。


私は今、大学の食堂にいる。

1人ではなく、夢猫ドリームキャットのメンバーである騎士の菊池海斗くん、武闘家の生田大輝くん、魔法戦士の堀内裕美香と私の4人でだ。


私たちは国内若手の中では高位であるBランクの探索者チームだ。

かつて師匠せんせいに敗れてから一緒に努力して這い上がってきたチーム。

メンバーの入れ替わりはあったにせよ今のメンバーは仲が良く、普段からよく一緒に行動していて、週末は一緒にダンジョンに潜っている。


そんな私たちは、まどろっこしいのは好きじゃないから単刀直入に言うと、解散の危機に陥っていた。


原因は新宿ダンジョンで起きたスタンピードだ。


這い出してきたモンスターたちの討伐に協力した私たちは、巨大なオークタイタンと対戦し、なんとか周辺被害を抑えて勝利していた。

その姿はテレビにも映り、日本全国に駆け巡った。

私たちは勇敢で将来性のある探索者だと紹介された。


探索者学校に通うわけではなく、一般の大学生が組んだチーム。

わりと見た目の良いメンバーで構成されていたこともあって人気も得た。


しかしそれが良くなかった。


私たちは探索者学校の生徒ではない。

それでも私自身は卒業後も探索者として活動することを決めていた。


しかし、メンバーのみんなは探索者とは違うところに将来の夢や目標があったり、もしくは家族の期待をかけられていた。



「申し訳ない。詩織ちゃん」

私に頭を下げている海斗くんの実家は中小企業を経営しているらしい。

彼はそこのひとりっ子で後継者。昔から大事に育てられていたらしい。

彼にはスタンピードの後、心配した両親が上京して止めに来た。危ないことはやめてほしいと。


「同じく。まさかあんなに過保護だとは思わなかったんだけどね。ごめん」

裕美香も謝ってくる。

彼女の実家は薬局で、彼女は薬学部だった。

海斗同様に実家の薬局を継いでほしいが、東京であんな危ないことをするんなら地元に戻れと言われたらしい。

地元にも薬学部があり、転学しろと。

強気な性格の彼女はだいぶ両親とやりあったらしいけど、そこに祖父母も加わってしまい、根負けしたみたい。


「エルダードラゴンを見たときね、詩織みたいになんとかしなきゃって思えなかったって言うのもあるのよ。このまま強くなったとしてアレに勝てるような気がしなかったのよね……」

そんな風に感じていたこともあって、探索者としての道を諦めることにしたらしい。


「2人が抜けるとなると、厳しいな。詩織ちゃんはもっと上に行けると思う。ここで夢猫ドリームキャットは解散しないか?」

2人の脱退の申し出を受けて大輝くんも眉を潜めながらこう言ってきた。


彼は堅実で地道な努力ができる探索者だ。彼だけは探索者の道を諦める気はないらしい。でも、私と一緒に行くのは断られてしまった。


私たちの卒業まではあと半年。

もともと卒業する際には地元も違うし、目標も違うこのメンバーで続けられるとは思っていなかったけど、半年も早くこの事態に陥ってしまった。

どうしよう。あと半年はソロで頑張ろうかな……。



彼らは言葉にはしないけど、私が師匠せんせいに入れ込んでひたすら鍛錬している姿を見て、ちょっとひいていたとは思う。


目標が違うからそこは仕方がない。

私は父を知らないし、母もすでに亡くなっている。

親戚もいなくて施設で育った私には、継ぐべき実家はない。


施設の院長から聞いた話では支援してくれている人がいて、その人のおかげで大学まで行かせてもらっている。将来、探索者を引退したら施設の運営を手伝おうとは思っているけど、それはまだまだ先の話だ。


心にあるのはもともと探索者という職業への憧れ。

こんなよりどころのない自分なら、何も気にせず物語のヒーローのように邁進できるかもしれないと幼い頃に思ったのがきっかけよ。


そこに加わった師匠せんせいから聞いた地球が滅亡寸前という話。


「わかったわ。今までありがとう、みんな。私はこのまま探索者を続けるわ」

私はそう宣言した。

くよくよする姿を見せるわけにはいかないしね。


そんなことをしたら勇気を出して申し出てくれたみんなが後悔しちゃうから。

これまでの夢猫ドリームキャットの思い出と彼らとの絆は大切にしたい。


「でも、いつまでも友達だからね」

「あぁ、ありがとう。卒業まではまだあるし、卒論頑張らないとな」

「あっ……」

「裕美香は国試もあるんだろ?みんなそれぞれ頑張ってこー」

良かった。

ちゃんとみんな笑顔だ。


私たちの頑張った過去は無駄じゃない。

新宿を守ることも手伝えたしね。


昔お母さんから聞いたお父さんとの思い出。

新宿でデートとかしてたんだって。


そんな場所が守れたんだから無駄じゃない。


それに、これからは人類を守る戦いなんだ。


チームは解散しちゃったけど、決して1人じゃない。



塔ちゃん:そっか。辛かったな……。

しおりん:ううん。大丈夫です。笑顔で別れましたし。

塔ちゃん:そっか。

しおりん:うん。

塔ちゃん:暇だから付き合ってやるよ。酒でも取ってこい。

しおりん:デリカシーがないですよ……

塔ちゃん:お前は可愛いけどデリカシーなんて柄じゃないし、嫌いじゃないだろ?

しおりん:どうせなら一緒に飲みたいです。

塔ちゃん:100層まで来れたらな。

しおりん:いじわるです。

塔ちゃん:今一緒にいたらいろいろまずいだろ。

しおりん:……

塔ちゃん:まぁ、画面ずっと開いてるから、一緒に夜更かししようぜ

しおりん:はい……寝ちゃダメですよ。

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