第51話 やりたい放題の八咫烏

□首里城公園ダンジョンにて


「なに?首里城公園のダンジョンでも1層に変なモンスターが出ただと?」

「はい。探索に入った複数の探索者チームから報告があり、協会で確認したところ新宿と同様のモンスターがおりましたので、限定公開に変更されています」


海堂秋月かいどうしゅうげつ……世界ランク36位、日本ランク1位の彼は、協会職員からの説明を聞いて顔を輝かせる。


「たしか魔法を無効化する光に包まれていて、物理攻撃もほとんど効かないうえに、意味不明な遠距離攻撃をしてくる変なモンスターよね?」

「それだ!リッチ様が警告してくれたやつだ!」

海堂のパートナーの女性……金城紬きんじょうつむぎが淡々と確認するような発言をしたのに対して、海堂は興奮冷めやらぬ表情で答える。


彼は単純に未知のモンスターと戦えるのが嬉しいのだろう。


「今日の探索は一旦保留して対策を……」

「考えるなんてことは後に回して、とりあえず行こうぜ!どんな奴か自分で確かめてからだ」

やる気満々の海堂が慎重に考える紬の発言を遮りながら方向修正してしまう。

 

「……はぁ」

「ため息なんて吐いてどうした?幸運が逃げるぞ?」

そんな海堂を睨みながら紬がこれ見よがしにため息をつくが、海堂はそんなことは一切気にしない。

 

「余計なお世話よ、バカ秋月!」

「おし、元気だな。行くぜ」

「行ってらっしゃいませ」

はたから見ると仲良くじゃれているようにしか見えない2人がダンジョンに入っていく。


その様子を、彼らに情報提供した協会職員は営業スマイルで見送った。日本トップクラスの探索者なら、アンノウンの情報をさらに持ち帰ってくれると期待しながら。


そして職員がこの情報をダンジョン協会の職員掲示板に書き込むと、すぐさま書き込みが拡散した。

なぜなら、今の状況はダンジョン協会にとってあまりよくないものになっていたからだ。



□新宿100層ボス部屋にて

 

ラガリアスの野郎が各地のダンジョンの低層にモンスターを放ったとか言ってたけど、どうせ盛ってると思ってた。


ラガリアスは勝手にダンジョンを弄っているらしいが、魔力を使ってのことだからせいぜい数十のダンジョンに干渉するレベルかなと思っていた。

悪いが、どう考えても実際に戦ったら負けるような相手には見えなかったからな……。

 

しかし、調査や探索者からの報告をまとめた結果、国内の全てのダンジョンでアンノウンが出てるらしい。

唯一、八咫烏が管理してる赤坂ダンジョンだけ出ていないのは、ラガリアスの対象選択からも外れたからなのか、それとも……。

あいつの位置を捕捉するうん〇シールが剝がされたのもそのダンジョンだ……だとすると怪しいな。


そもそも八咫烏が管理してるダンジョンなんてものがあることを知らなかったんだが、ダンジョン協会が発足した時点で当時の日本のお偉方が四鳳院家っていうやつらに入場管理を任せたダンジョンがあったらしい。


その四鳳院家の当主が作ったのが八咫烏って言う探索者チームなんだと。

当主自体は探索者としては引退してるけど、いまだに代表者をやっていて、いろいろと暗躍……つまり好き勝手やってるらしい。


その当主はなんと皇ちゃんの弟。

ってことは、大ケガした婚約者を見捨てて早紀さんに言い寄り、華麗なスルー喰らった世界で最も恥ずかしい探索者だったと思うんだが、まぁ金は持ってるし狡賢くやってるんだろうな。



そして八咫烏は日本全国のダンジョンで1層ボスが報告される中、逆にこのダンジョンは安心して探索し、研鑽とドロップアイテム収集ができると言って宣伝広告始めやがった。

なんの目的があって?と思ったが、どうやら奴らの収益獲得のためらしい。


もともと1回2,000円だった入場料を、八咫烏およびその傘下の探索者チームは無料にしつつ、自衛隊や警察は2,000円で据え置き、一般探索者は10万円、ダンジョン協会職員は20万円とか言い出しやがったんだ。

しかもドロップアイテムはすべて申告制で、価値の3割を徴収するとか言う条件付き。

 

がめつい……。

上がってる動画でも……


『ふざけんなよ!?なんだよ10万円って!昨日まで2,000円だっただろ!?』

『申し訳ないですが当ダンジョンの入場料は環境や情勢に応じて検討させていただいております。国の許可証にも管理費用を考慮して決定してよいと書かれておりますので、どうかご理解願います。なお、もし今この八咫烏マークを保有している探索者チームに加入するということでしたら無料でお入り頂くことも可能です』

『はぁ?お前らの傘下に入ったら毎月収入の3割徴収されるんだろ?しかも黒い噂ばっかりのお前らのところになんか誰が入るかよ!?』

『そうですか。それは残念です。では、もし当ダンジョンの探索をお望みでしたら100万円をお支払い願います』

『はぁ?なんで10倍なんだよ!』

『こちらといたしましても、我々を敵視するような方は危険ですので、相応の対応をさせて頂くことになっております』


ご丁寧に国から管理を委託された書類を掲げながら慇懃無礼な対応がなされている動画を多くの探索者が恨みコメントとともに配信であげていた。

しかも国に認められてしまっているため誰も文句も言えず、やりたい放題だ。


あからさまなメンバー優遇とダンジョン協会敵視が見ていて鬱陶しい。


今の動画でもやりあってる管理人と探索者たちの横を八咫烏マークをつけた探索者たちが素通りしていく。



こりゃあダメだな。

こんなあくどい探索者チームの所業ばかりが配信やテレビとかで流れ続けたら、せっかく一般人と探索者の間のわだかまりが多少なりともスタンピード対策で薄れたのに、また戻ってしまう。

早いとこ対処しないと。


そんなとき、皇ちゃんからメッセージを貰った。



***

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