第50話 黒い取引

□??ダンジョン


「くそっ、ふざけやがって、あのリッチめ」

どこかわからない場所に飛ばされたラガリアスは、自分がいる場所の調査を行いながら悪態をついていた。


「まぁいい。とりあえず目星をつけていたダンジョンの1層にボスモンスターを配置してやろう。いけ!」

ラガリアスは右手をダンジョンの大地に向けて叫んだ。


「くっくっく。せいぜい足掻くがいい」

どうやらこれだけで配置完了らしく、満足げな顔をしている。準備していたのだろう。

そして歩き出した。



「ずいぶんと好き勝手するのね」

そこへ現れたのは……。


「ロゼリアか。ふん。どこへ行ったかと思えば。こんなところで何をしているのだ」

「なにも?ただ散歩していただけよ?」

とぼけるロゼリア。今日はちゃんと余所行きの漆黒のローブを纏っていた。

ただ、真面目に回答する気はないらしい。



「ふん。迷宮神様の意志に従って人間を殺すためだ。ダンジョンのドロップが得られなくなった人間たちは仕方なくでも配置したボスを攻略しようとするだろう」

「あの程度のモンスターが探索者を殺すと?」

「そうだ。事実、探索者では新宿1層に置いたモンスターに手も足も出なかっただろう?」

「そうね……」

ロゼリアは特に人間に肩入れをしているわけではない。

ただ、彼女のお気に入りリッチが世界の行く末を危惧し、探索者を育てていることを知っているだけだ。そしてラガリアス達のこともよく知っている。なにせ同類だ。


「いつまでもこんな世界にいる気はない。とっとと滅ぼして私は帰る」

そう言って、ラガリアスは歩き出す。


「この世界の人間を殺したからって帰れるわけではないでしょうに」

この男は昔から人の話を聞かないから、どうせ何を言っても変わらないと諦めているように、ロゼリアはただ呟いた。


「迷宮神様に願えばいいのだ。目的を達した後にな」

「そう。好きにすればいいわ」

こうしていつも通り彼らの話は平行線に終わった。






「あなたは……ラガリアス殿」

ロゼリアと別れたラガリアスがダンジョンを歩いていると、不意に探索者が現れて話しかけてきた。


「なんだ貴様は?」

「私は黒田。八咫烏という探索者チームの……」

「探索者が何の用だ?」

短気なラガリアスは黒田が最後まで喋るのを待たずに怒り出し、持っていた剣を見せつけるように掲げる。


どうやら敵である自分を舐めているとでも思っているようだ。

そもそも本気を出せばダンジョンからダンジョンに移ることもできる彼が歩いていたのはただの暇つぶしだった。


「ラガリアス殿は日本各地のダンジョンにモンスターを配置されるとのこと。それには何らかのエネルギーを使われているのではないかと……」

黒田はそんなラガリアスの様子をあえて無視して話し続ける。

 

「何を知っている?」

その黒田の話はラガリアスの興味を惹いたようで、ラガリアスは剣を降ろした。


「もしかすると、これが使えるのではないかと」

そう言いながら黒田は青い宝石を取り出し、ラガリアスに見せた。


「なぜ貴様がこれを?」

ラガリアスは訝しむ。なぜならそれはエネルギー結晶。ラガリアス達が、ダンジョンを動かすときに使うエネルギー源だったからだ。


「実は我々が管理しているダンジョンにおいて、これが入手できる場合がありまして、ため込んでおりました。我々には使い道がないものでしたので」

「なるほど。どうりで私が無作為に飛んだにもかかわらずここに着いたわけだ」

どう考えてもリッチによって飛ばされたはずだが、プライドの高いラガリアスは自分で飛んできたと言い張る。


「それが貴様らに使えないのは当然だ。人間にはダンジョンを動かすことはできない。しかし、管理しているだと?」

「はい。と言っても、探索者の入場だけですが」

「そういうことか」


後ろめたいところもある権力者はたいてい自らの管轄下にある戦力を欲する。


八咫烏がそんな権力者たちの望みを叶える手段として、まだダンジョン協会が本格的に活動する前にとあるダンジョンの管理を名家である四鳳院家が望んだ。


それを過去の大臣が許可し、それ以降唯一ダンジョン協会の管轄外のダンジョンを有するという扱いを受けていた。



そのダンジョンは100層まである赤坂ダンジョンである。

八咫烏はここで探索者を育てて勢力を築きあげてきたのだった。


一応ダンジョン協会の真似事をして外部からの探索者も入場料を払えば入ることはできたが、誰も好き好んで使わなかった。



この赤坂ダンジョンの80層で出現するメタルタートルというボスがエネルギー結晶を稀に落とす。

この使い道がないアイテムは売り先もなく八咫烏の倉庫に貯まっていた。


いつか使える時が来ると妄想した竜司がため込んでいたのだが、ドンピシャだった。

竜司はなんとなくきれいだから取っていただけだが、30年の間に大量に保有するに至っていたのだった。


「その結晶を渡せ」

ラガリアスは上から目線で命令する。


「はい。ただ、1つお願いが」

黒田はそんなラガリアスの態度には特に気を留めず、要望を出す。


「言ってみろ」

「はい。我々八咫烏が管理するこのダンジョンの1層にはボスを配置しないで頂きたいのです」

「ふむ……いいだろう。このダンジョンは好きにするがいい」

そしてあっさりと交渉は成立した。


どう考えてもラガリアスは深く考えていない。どうせ人間を皆殺しにするつもりなので、早いか遅いかの違いにしか考えておらず、八咫烏を尊重するようなことは欠片も考えていないだろうが……。


「失礼。背中を……」

「なんだ?」

「これがついていましたので」

黒田はラガリアスが何を考えていようと気にしてはいないようで、背中に貼られているシールを取ってやった。


「なんだこれは……」

「配信を確認しましたが、どうやらリッチが……」

「あんの、くそリッチめ!!!!?」

そして案の定、ラガリアスはうん〇シールを見て怒りだし、その様子を見て黒田はほくそ笑む。


「エネルギー結晶は今10個持っておりますので、まずはこれを。必要であれば運びますので場所を指定していただきたい」

「あとで連絡する。というか、言われて見れば感じるな。このダンジョンに保管しているだろう。ふはははははは!!!せっかく結晶を得たのだから、ここ以外のダンジョン全てにボスを配置してやろう!」


これ以降、多少のタイミングの差はあれど、日本各地のダンジョンの1層にアンノウンが出現したのだった。



***

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