第47話 アンノウン vs 八咫烏

□新宿ダンジョン1層(蛇沢玲奈)

 

「ほら、さっさと行け」

「なんで俺がまたここに来なきゃなんねぇんだよ!?」

今回のチームリーダーを任された須藤の指示に、失態を犯した一番の張本人である影山が文句を言っている。


そんな影山を生暖かい目で見ている私。

その後ろに何にも興味ありませんといった能面のような表情を張り付けている白鳥が続いて歩いている。



八咫烏やたがらすには多くの探索者が所属しており、さらに下部組織なども作っている大所帯のチームだが、この4人にリーダーである黒田を加えた5人が八咫烏やたがらすの主力であり、主力メンバーだ。


私は四鳳院竜司の指示で、仲間を連れて再び新宿ダンジョン1層を訪れていた。

前回の探索の後に知ったことだが、現在新宿ダンジョンは限定公開に変わっていて、Bランク以上か、Cランクで特別に許可を得た探索者しか入れなくなっているらしい。

まぁ、私たちは全員Bランク以上だから特に問題はない。

 

このダンジョンに入ったのはもちろんあのアンノウンと戦うためよ。

倒せる気はしないんだけどね……。

それでも戦わないとあのセクハラ親父たちが煩いのよ。

 


 シュイーーーーーーーン


 

「来たわ」

1層に入ってしばらく待っていると、前回と同じようにアンノウンが現れる。


「なんだあれ、気持ち悪いな」

早くも後ろに下がった須藤が呟く。

あんた、武人なんていう前衛格闘家みたいな名前しておいて、なに女で後衛魔法使いの私より後ろに下がってんのよ。


「鑑定……アンノウン。玲奈さんの仰っていたとおり、何の情報も得られませんね」

「そうか。白鳥の鑑定でもダメか」

私が報告したことを念のために確認したんだと思うけど、あえて言葉を返している須藤が鬱陶しい。

私と白鳥の鑑定スキルにそこまで大きな差はないわよ!?


「ダークブリッツ!ウインドストライク!セイクリッドスラッシュ!」

と思っていたら、鑑定をしていたはずの白鳥がぼそぼそと呟きながら攻撃を繰り出した。

 

 ジュワーン……


「ダメですね。光に守られているので闇属性の魔法で消すとか、風属性の魔法で散らすとか、聖属性の斬撃で払うとかならどうかと思いましたが、全部ダメでした」

しかし全てアンノウンに当たることはなかった。

アンノウンを包み込む光が全てを消し去ったからだが、もし跳ね返すような特性を持っていたらどうする気なのよ!?

澄ました顔でいきなり攻撃してんじゃないわよ!

 

 

「おい、なんか光ってないか?」

白鳥の攻撃があっさり消される様子を眺めていた私たちを前にして、アンノウンを取り囲む光が強まる。

いや、あいつを取り囲む光の膜みたいなものはそのままで、あれはアンノウン自体が光っているわね。

もしかして攻撃が来るの?


「危ない!マジックシールド!!!」

「マジックシールド!」

攻撃を予想した私が魔法障壁をかけ、それに続いて白鳥も魔法障壁の呪文を唱える。

重ね掛けだ。


これで一定レベルの攻撃を喰らってもだいじょ……


 スゥ……


マジックシールドを唱えて周囲の警戒をしていた私たちに向けてアンノウンは凄まじい魔力を込めた青い光を放ってきた。

 

「うおっ……」

「なっ……」


お陰でマジックシールドには消し飛んだ。

一応は防いだはずだけど……


「ぐぅ……」


誰か喰らったみたいね。


あぁ、須藤か。

この小物を全力で守る気にはなれなかったので、マジックシールドを薄めにしていたのが裏目に出たかしら。


アンノウンの攻撃を受けた須藤はそのまま倒れ込んだ。


っていうか、白鳥がかけたマジックシールドも須藤とアンノウンの間だけ薄くなかった???

あの娘、やるわね。

はじめて親近感を覚えたわ。



しかしまずいことになった。

須藤のやつ。Aランク探索者のくせに一発で落ちてんじゃないわよ。

これでこちらは3人。


だが、アンノウンはそれ以上動く気配を見せない。

カウンタータイプなの?

ありがたいのはありがたいけど、打つ手がないわね。



そこから私たちはひたすら攻撃を繰り出した。

今度はきちんと須藤のまわりにしっかりとした防御魔法を張り巡らし、私たちは攻撃に専念した形だ。

全身に火傷を負って動けない須藤が、私たちがかけてあげたマジックシールドにアンノウンの攻撃が当たるたびにあうあう言ってて気持ち悪かった。


そんなに怖がらなくても白鳥がまじめにかけたマジックシールドは明らかに強力だから大丈夫よ。

それにミスってもちょっと死ぬだけで、なんなら日本が平和になるかもしれないわ。


なんて思っていたら、アンノウンが攻撃パターンを変えてきた。

全身を青く光らせたと思ったら、一瞬にしてその光が周囲を包み込み、私たちは何もできない状況に陥った。

さっきの青い光と同じ特性の攻撃だと思うけど、広範囲の無差別攻撃???


そして気付いた時には体中が火傷だらけで吹っ飛ばされていたのよ。


これ、強すぎるでしょ。

うちのエースの白鳥でさえも強力な魔法に膝をついてしまっている。


これは一度撤退すべきね。

幸いアンノウンはこちらから接近したり攻撃したりしなければ襲ってこないみたい。


「撤退するぞ」

須藤を担いだ影山が一目散に駆け出し、管理室へ入っていく。

あんた何もしてなかったのに逃げ足だけは速いわね。


「ちょっ、待ってよ!」

なんて情けないやつなんだと思いつつ、私は影山を追う。


後ろに白鳥も来ている。



一応私たちは無事に退避した。




「お前らそれでも探索者か!!!!」

帰還した八咫烏の拠点になぜか来ていた四鳳院竜司セクハラ親父が唾を飛ばしながら喚き散らしているが無視だ無視。

有能な兄を誤解から追放し、強いモンスターを前にして婚約者を捨てて強者に取り入ろうとした写真を拡散されて世界最低の探索者と言われたおっさんが何を言うんだか……。


***

お読みいただきありがとうございます。

四鳳院竜司セクハラ親父と湊皇一ダンジョン協会会長のお話はこちらです。もしよければ当作品同様に応援(♡、コメント、星評価、フォローなど)いただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16818093090972028538

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