第44話 リッチの夢③恋人

また夢か。

まぁこの間に自分の体が再構成されていると考えれば別に嫌なことじゃないな。

それにこれだけ見るということは何か意味があるんだろう。


今度はどんな内容だ?

元婚約者の王妃たちが処刑されるとことか見せられたらさすがにちょっと鬱展開すぎるが……と思ったら全然違う、むしろ楽しく、ちょっと切ない夢だった。



*---

「塔弥」

「どうしたんだ、雪乃?」


目を開けた俺を覗き込んでいるのは雪乃……白鳥雪乃。俺の前々世の彼女だ。


ここは俺の部屋だな。

大学生の俺は同じ大学に通う雪乃と一緒に住んでる。

いわゆる同棲だ。

羨ましいだろ?


この子は小っちゃくて大人しくて、でも実は芯がしっかりしていて、ちょっとロリ体系の可愛い女の子だ。

本人は背が低いのと、特に胸が育たないことを気にしてるから、間違ってもロリとか言うなよ?

普段は大人しい子だけど怒ると半泣きで睨みつけながら殴る蹴るされるからな?


そんな彼女が俺を覗き込んでいる。

残念ながら小っちゃいから谷間は見えない。


「いてぇ!!!」

ちらっと視線を動かして戻しただけなのに拳を振り下ろされた。


「なにすんだよ!?」

「塔弥が悪いことを考えてたからお仕置きよ」

横暴だ!

腰に手を当てて怒ってるけど、怒りたいのは俺の方だ!


「なんでわかるんだよ!」

「チラッと胸を見てから視線を私の顔に戻してため息なんかつかれたらわかるわよ」

そんなこと俺してたっけ?

うむ……無意識か。


「すまん……」

「もう。いいわよ。ちょっと昼寝って言いつつしっかり寝てたわよ?目が覚めたかしら?」

彼女は怒りを納めてくれたようだ。

いや、ちょっと拗ねてるな。可愛い。


なにを隠そう、俺は雪乃にぞっこんだ。


幼稚園からの幼馴染。

小中高大、全部一緒。

当然だ。俺たちはいつも進路は相談して一緒の進学先を選んできたんだから。


普通なら成長に従って距離ができたりするんだろうが、幼い頃から仲が良かったもののべったりではなかった。

その距離感が良かったんだろう。


多感な時期を超えた後の方がむしろ仲が良くなった。

居心地が良いんだ。


そんなに一緒にいて疲れないか?ってよく言われるけど、全くない。

なんかもう自分の一部みたいな。


このまま大学を卒業して、ちょっとしてから結婚するつもりだ。

就職先くらいは違うところになるだろうけどな。


というか、湊会長たちに気に入られたおかげで俺の就職先はダンジョン協会になりそうだ。

悪くない話だ。

収入もいいし、安定しているし、魔力が見えるという自分が興味を持ってる能力を活かした仕事につける上に、俺自身はダンジョンに入らないから危険もない。


明日から俺はアメリカに飛ぶ。

夏休み真っただ中だけど大学の卒業研究の一環で発表した論文が評価されて学会に招かれたからだ。

教授の紹介で出会った早紀さんと皇一さんと一緒にやった魔力活用に関する調査をまとめたんだけど、それを試しにアメリカの研究機関に送ったら評価されたんだ。


皇一さんはこの内容が世界的に暗黙の了解になっている内容なのかどうかを確かめる意図があったらしいが、評価されたということは少なくとも未公開の事実だったんだろう。


大学に伝えたら諸手を振って歓迎されて、それを卒業研究ということにするよう指示された。きっと大学にもメリットがあるんだろうな。

神谷教授からは感謝された。お世話になった人だから、実績になれたことが素直に嬉しかった。


「明日出発なんだから、準備はいい?足りないものは今日中に揃えないとだからね」

怒りを引っ込めた雪乃は俺のバックを指さしながら確認を促してくる。

もう大抵のものは入れている。


「そうだ。これ……」

「なに?」

俺はUSBを1つ渡す。


「研究発表のバックアップ。もしなにかトラブルとかあったら連絡するからメールとかで送ってほしい。もちろん自分でも持ってるんだけどさ」

「わかったわ。念には念をね」

俺は感謝の意を込めて雪乃の頭を撫で……


「いてぇ!?」

「それ辞めてって言ってるでしょ!?」

「すまん……」

背が低い雪乃は頭を撫でられるのがあまり好きではない。とくに、ポンポンなんてしようものならそのまま腹パン……いや、今も腹パンだった。


「これ、お守りね。持って行って」

ん?

*---



そうして準備を終わらせて、晩御飯は雪乃が手料理を振る舞ってくれた。

で、一緒に寝て、次の日に飛行機に乗ったんだ。

そこで俺の人生は終わった。


乗り物酔いする俺は寝てたんだけど、乗ってた飛行機が落ちたんだ。

それを知ったのは"転生するのでスキルを与えます"とか言う、ちょっと頭の弱そうな女神様から聞かされたときで、俺は既に死んでいた。



よく考えたら俺は飛行機が落ちるまで起きなかったんだな。


普通、飛行機が落ちる時って、最後に愛する人に連絡を、みたいなのあるんじゃなかったっけ?

テレビで見た記憶があるんだが……。


まぁ、過ぎ去ったことは仕方ない。


寝たまま死んだお陰で俺は特に苦しくはなかったしな。

でも、雪乃に何も言えずに死んだのは申し訳ない。というか、めちゃくちゃ心苦しいし、心残りだ。


せっかく日本に転生したからもう一度話したかったけど、あいつも亡くなったんだってな。


思えば俺とあいつは半身みたいなもんだった。

そばにいることが自然であって、1人で生きて行くのは辛かったんじゃないだろうか?


ちょっと探してみようか。

ネットに"白鳥雪乃"って入れてみたけど、エゴサーチひっかかんねぇな。

誰だ?白鳥姫乃って。似たような名前の子がいるんだな。親戚だろうか?


まぁいっか。

探索者をやってる娘みたいだから、もし機会があったら聞いてみよう。


ネットではそれ以外に雪乃のことは調べられなかった。


もしかして誰かほかの人と結婚したんだろうか。

それなら苗字は変わってるよな。


胸の奥の方がずきりと痛む……。


でも雪乃って名前じゃあ、検索してもいっぱいいるよな。


先に皇ちゃんに聞いてみようか。



……というか、派手に死ぬたびに夢を見てるけど、なんなんだろうなこれ。


えっ?なんで派手に死んだんだって?

100層のボスとして活動するには、100層のボス部屋でポップした方がいいんだよ。より制限がない形で生まれるからな。

40層のボスとして、だと勇者だった頃より弱いんだ。100層ボスだったらどの程度なのかはなってみないとわからんが。


それもあってロゼリアは俺の首を切り飛ばした。

あいつの嗜好はよくわからんから、スタンピードの後にやってから癖になったとかじゃないよな???



で、リポップしたんだが、残念ながら100層のボス部屋だな。


ラガリアスってやつが設定ミスってて40層でリポップするのをちょっと期待したんだがな。そもそもなんであいつは他人が管理してるダンジョンに干渉できるんだろうな。


前にロゼリアがダンジョンのエネルギーとか言ってたけど、ある程度のモンスターで知能があってエネルギーさえ供給できれば動かせるとか怖いこと言わないよな?


まぁ、仕方ない。

情報収集してやれることを探そう。

見てろよ?

ラガリアスのやつは俺を邪魔者扱いしてここに封じ込めたつもりなんだろうが、ここならここで俺は探索者を育ててやるからな!





で、ロゼリアはどこ行ったんだろうな?

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