第43話 新宿ダンジョン第1層に出現した悲劇

八咫烏やたがらす

日本で最大の人数を誇り、ダンジョン協会以外では唯一日本国内に自分たちが管理するダンジョンを持つという巨大な探索者チームの名前だ。

この名前を聞くと大抵の探索者は目を伏せ、目立たないようにそっと通り抜けようとする。


これは八咫烏やたがらすのメンバーが強いから……とかではなく単純に面倒だからだ。

視線が合うとイキってくる。

肩でもぶつけようものなら当然のごとく手を出してくる。

手を出されて戦いになってしまって、もし負けようものならしつこく付きまとってくる。

もし勝ってもいちゃもんをつけてくる。

面倒なことこの上ない迷惑な奴ら。

それが八咫烏やたがらすだ。


さらにこの迷惑行為を自らの力を見せつけるためだけにやっているからたちが悪い。

ダンジョンの中は自己責任という言葉を最大限に悪用しているのだ。

それでいて大きな問題にされないのは、八咫烏やたがらすの上位陣は強力な探索者であり、最大勢力であることを活かして国や企業の仕事を請け負ったりもしていた。

自衛隊や警察には任せづらい、少し後ろ暗い理由からくる秘密の要人警護や示威行為などの仕事を。


それでも先日の阿蘇ダンジョンで発覚した傘下の探索者チーム・からすの事件は少し尾を引いていた。

未成年とその保護者をダンジョンに連れ込んで、強制的な探索および暴行を働いていたというのは醜聞でしかなかった。


さらには権田大臣が独断で稼働させた新宿ダンジョン内の工場の警備を請け負ったはずだったのにスタンピード発生時に活動しなかったことについても企業から損害賠償請求を受ける事態に発展していた。


そんな八咫烏やたがらすに所属する探索者である影山 透と蛇沢へびさわ玲奈れなはのんびりと新宿ダンジョンに入る階段を降りていた。


少しでも賠償金を減らすために壊滅した工場を探索して使用できそうな設備や器具を回収してくるように指示されたのだ。


そんな指示を受けて面倒くさそうにダンジョンに入ってきた彼らの周りに探索者はいない。

普段であれば多くの探索者が深層まである新宿ダンジョンを前にして意気込みながら歩いているが、今日は彼らのほかに誰もいない。


「なんだよ、誰もいね~のかよ。ここを通っていくやつらをおちょくる楽しみを返せ」

「ばっかじゃないの?よくそんな面倒で面白くもない遊びするわよね」

「なんだよ。楽しーだろ?『いくぜ!』みたいな顔してたやつをつついて転がすの。『やめてー』なんて泣くんだぜ?」


影山は性質の悪さを隠そうともせず、醜悪な態度で怠そうに歩いていく。

もしここにリッチ様がいたら完璧な悪戯対象として好き放題ボコられた後に辱めを受けただろう。


「まぁいいわ。行くわよ」

「玲奈~、なんでこんな階層で警戒する必要があるんだ?サッと40層行ってリッチを倒してから先へ進もうぜ」

「バカね。指示を聞いていないの?あそこに見える壊滅した工場から使えそうなものを拾って来いって言う指示よ。あなたが探して私がアイテムボックスに入れて持ち帰るのよ。でも変ね……最近は1層から5層までの間でもモンスターが増えているって聞いてるけど、1匹もいないわね」

「うぉ、面倒くさ!?」


完全にダンジョンを舐めきっている影山と違って、蛇沢は辺りを警戒しながら歩いていた。

そもそも影山はチームのリーダーから新宿1層を散歩して来いと言われて入っただけで、なにをするのかわかっていない。


「面倒でもやるのよ。そもそもあのスタンピードのときに工場の警備を請け負ってたのはあなたでしょ?自業自得よ」

「なんだよ。請け負ったって言われても、それから1時間で来れるかよ。タイミングが悪かったんだよ」

「指示が出ていたのに女襲ってて確認が遅れたバカのせいよね。マジでないわ。嫌悪感しか湧かないわ」

「てめぇこのやろう!」

「なに?やるの?」



シュイーーーーーーーン



「ん?」


2人が言い争いをする中で不思議な音が響き渡る。


なにか機械が発するような抑揚のない少しだけ高い音。



ジュルリ……シュワ―――――



「おい、あれ!」

2人が響き渡る音に辺りを警戒していると、虹色に輝く不思議な光を放つ液体のようなものが沸き上がり、工場にまとわりつく。

 

「なっ……工場が!?」

そして工場はその光の中で溶けていく。


「なんだよこれ……」

呆然とする影山。彼も一応はAランク探索者であり、自身の強さに多少の自信を持っていたが、目の前で工場が不思議な光に飲み込まれて消えていく光景は衝撃的で、身動きを取ることはできなかった。


「鑑定……モンスターね……アンノウンとか、バカにしてるの?なぜ今さら新宿ダンジョンに新種のモンスターなんて沸くのよ!?」

一方の蛇沢は精一杯、冷静さを保ちながら鑑定を行い、その結果に呆然としてしまう。


ダンジョンに現れるモンスターは全てモンスター図鑑に記録される。

それは迷宮をこの世界に出現させた太平洋に浮かんでいる龍が作った魔道具であり、世界各国のダンジョン協会で保管されている。

そしてそこに載ったモンスターであれば鑑定のスキルで情報を閲覧することができる。


しかし、今回現れたモンスターはアンノウン。

つまりモンスター図鑑に登録されていないモンスターだということで、これまで散々探索されたダンジョンでは通常起きないことだった。


だから蛇沢の受けた衝撃は大きい。

それでも目の前にはそのモンスターがいる。


戦うか逃げるかしか選択肢はなかった。


「どうする?戦う?」

「当たり前だ!俺たち2人で戦闘もせずに逃げ帰りましたなんて報告できるわけねぇだろ!なにか情報はねぇのかよ!?」

「ないわ。種族も特性もなにもかもがアンノウンよ。意図的に隠されていることを疑うくらい何の情報も得られないわ」


シュワーーーーーーーーーーー


「もう完全に工場は取り込まれて消えたわ。今の光景を録画したから、それくらいは報告できる」

「ダメだダメだ!せめて一戦するぞ!おらぁ、パワースラッシュ!!!」

「チッ、勝手なことを。サンダーストライク!」


影山と蛇沢はそれぞれ得意の遠距離攻撃を放つ。

 

フォン……


しかし、その攻撃はアンノウンに到達する前に消えてしまう。


「あの光が濃くなっている部分がシールドみたいになってるわ。あれでは攻撃は届かないわね」

「冷静に分析してんじゃねーよ!どうすんだよ?」

「どうするもこうするも、既に工場は消えていて私たちの指示は達成不可能よ。撤退ね」

「てめぇ!」

「もともとはあなたの失態よ。私は知らないわ。普通に報告する。じゃあね」

「あっ、おい、待てよ!おい!玲奈!!!」


颯爽と踵を返してダンジョンを出て行く蛇沢の姿を目で追った影山は改めてアンノウンに向き直る。

アンノウンは特にこちらを襲ってくる様子はなくただ光を放ちながら佇んでいる。

そして彼は1人でどうにかできる気がしなかったようで、あっさりと諦めて帰って行った。


なお、蛇沢も影山も受付には特に報告はしなかった。

受付も応対が面倒なのと、もともとの指示が工場の設備回収だったので終わったのだろうと判断して声はかけなかった。



***

ここまでお読みいただきありがとうございます!

八咫烏……面倒くさそうな人たちですね……アンノウンも。次話でまたまた夢を見てからリポップするリッチ様がどのように探索者を育ててアンノウンに対抗するのか!?

こうご期待!!!


リッチ:突然のナレーション?普段そんなテンションだっけ?

作者:リッチ様ファイト!

リッチ:いや、普段と違いすぎて違和感しかないが……

作者:みなさま、どうぞ引き続きよろしくお願いします。また、この作品はカドカワBOOKSファンタジー長編コンテストに応募しております。応援よろしくお願いします。また、別作品を溺愛コンテストに応募しております。当該コンテストのランキングの16位なうです。(表現古っw)そちらへの応援もどうぞよろしくお願いします。って、言って!

リッチ:俺が!?!?なんでだよ。普通に宣伝か~って聞き流してたわ!

作者:流すなよ。ぶっ飛ばすぞ?アッシュが

リッチ:知らねぇよ!そっちのキャラ出してくんな!みんな!こっちの作品の応援を頼むぜ!探索者さんに頑張ってもらわないと世界がやばいんだからな!



作者: |qд・,,)コッショリ

王宮の犬~王太子の愛人の話を蹴って働く魔族(=魔力に秀でた人間族)の長である私には報復なのか無茶な指令ばかり……超強い協力者もいるし、いつかきっと安住の地をみつけてやるわ!~

https://kakuyomu.jp/works/16818093080378662430

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