第42話 リッチ……昇格!?

□新宿ダンジョン100層にて


:ひゃっほう!!!!

:リッチ様~久しぶり~♡

:スタンピード以降、通常配信がなくて寂しかったわ

:誰だ……今回の生贄は誰だ……


「ちょっと……私の部屋で勝手に配信を始めるの、やめてくれないかしら」


:どこにいるんだ?

:もしかして美女のお部屋……?

:美女とリッチ様の逢瀬の配信と聞いて

 

俺は誰かがやってきた気配を感じていつもの癖で配信を始めてしまった。


今いるのは新宿ダンジョン100層のボス部屋……つまり、ロゼリアの部屋だ。

って、やばいな。今、ロゼリア裸じゃね~か。

魔力で隠しとこ……


塔ちゃん:すまん、癖で

詩織:師匠せんせいのエッチ!!!

:すまん……鼻血が……

:ロゼリア様がセクシーすぎて草


「恋人と寝てるところを配信されるなんて予想していなかったわ。ふぁ~あ」

わざとらしく欠伸をしながらロゼリアが呟く。


詩織:!?!?

:リッチ様!詩織ちゃんが息してないよ!

:詩織さん、僕の隣なら空いてるから安心してペロペロ

塔ちゃん:恋人ってなんだよ


「酷い!私とのことは遊びだったのね!」

ロゼリアは寝転んでる俺の背中に乗っかって俺のスマホを覗き込んできて、わざとらしく怒った表情をしている。


:サイテー!リッチ様、サイテ―!

塔ちゃん:やめろロゼリア。カオスを作り出すな!

ロゼリア:あはははははは


そうか、止めればいいんだな。

よし止めよう。

ん?


なんでだよ……なんで停止ボタン押してるのに配信止まらないんだ?


そもそもなんで俺は配信を始めたんだ?自分がボスに登録されてる部屋以外で侵入者の気配を探るなんて普通やらない……むしろ入ってきたやつが自己主張してるみたいな……。


そんな中で入ってきたのは予想外のやつだった。


俺たちと同じような黒い魔力を纏う男。

長身の黒髪の男で、黒いローブを纏っている。


やめてくれないかな?

俺と雰囲気が被るだろ?

 

「ふん……人間たちとわいわい遊んでいるなど、貴様らにモンスターとしてのプライドはないのか!?」

そして入って来た時点で怒っていた。

なるほど。

めったに怒ることがない温厚な俺とは対極的な男のようだ。


で……誰だ?


「あなたは……。久しぶりね、ラガリアス?」

ほう、そんな名前なのか。

でも俺は見逃さないからな。

なんでちょっとだけ語尾上がってんだよ。たぶん適当にしか覚えてないんだろうけど。


「〇△◆*彡□〇▲※〇■」

まぁいい。恐らく高位のモンスターなんだろうから、俺も右手を顔の前に掲げて挨拶をしてやった。


「久しぶりね、ではないだろう、ロゼリアよ。お前は何をやっている?」

なんだよ、俺は無視かよ。


「そして貴様にそのように気安い挨拶をされる筋合いはないぞ、リッチめ」

と思っていたら、俺を睨みつけながら失礼なことを言いだした。

もしかしてロゼリアの男か?

ならまぁ……すまん。

NTRではなく、むしろ俺が襲われ……ごほんごほん。



「なにを怒っているのかしら?」

ロゼリアが俺の背中に乗ったまま挑発的な口調で問いかけた。

お前はどうしたいんだ?


「くっ、貴様らにモンスターのプライドはないのかと言ったのだ!迷宮神様の意志に従って、ちゃんと人間を倒せ!」

「■〇……」

意思があるモンスターは少ないから、てっきり何かおかしなやつなのかと思ったがごく普通のモンスターだったようだな。

怒っているせいかトゲトゲしい雰囲気の魔力を飛ばしているし、その魔力量は相当多そうだけども。


「それなのに、このように人間たちとわきあいあいと遊んでいるなど。恥ずかしくないのか!」

「ないわよ?」

ロゼリアは俺の背中から立ち上がって、両手を腰に当てて胸を貼って答える。

お前、全裸なのに勘弁してくれよ。

魔力で隠すの大変なんだけど。

そして、なんで配信止まらないんだよ。

 

:鼻血案件wwww

詩織:ちょっと、なにを!えぇ、リッチ様の配信大丈夫ですよね!?

レファ:せめて何か羽織れ、このくそビッチ!!!

:リッチとビッチでエッチね♡

塔ちゃん:ストップ押しても配信が止まらないんだよ。


「今回はサービス回ね。ほら、おいで!」

ロゼリアは煽情的なポーズを取りながら急にダンスのように動き回りだしやがった。

やめろ、魔力を避けて配信に裸を晒そうとするな!?


「くっくっく。配信を止めさせはしないぞ?魔力的に干渉させてもらった」

慌てる俺に向かってラガリアスとか言う野郎が両腕を組んで偉そうに見下しながらこんなことを言いだした。

いや、高位の意志があるモンスターなら可能なのかもしれないけど……なんでだよ!


「せっかく人間どもが見ているのだろう?良い機会だ。迷宮神様の意志を受け、これから貴様らを滅ぼすであろうこの私の姿を目に焼き付けるがいい」

まるでナルシストのように大仰な手ぶりでローブをひらひらさせながら配信画面を独占している。

 

:チェンジで!

:いや、まじでロゼリア様をお願いします

:今を逃したらこんなチャンスなさそうなんでお願いです

:もういっそリッチ様との情事とかでもいいから

詩織:そっそっそっそっそんな、イヤです……ダメです……

レファ:と言いながら画面から目を離せない詩織でした

:レファちゃんwwwwwwwwwww

:そもそも骨がどうやって情事をやるんだよ?wwwww


「今回の変化で、モンスターがダンジョンの外に出られるようになったのはもう周知の事実だろう!今後はずっとその恐怖に怯えるがいい。一方で、抗う術を与えてやろう……」


俺の浮遊カメラをわしづかみして気持ちよさそうに喋るラガリアスをよそ目に、俺はロゼリアにローブを着せてこそこそと念話で話し合う。


で、あれはなんなんだ?


「あれはラガリアス。私と同じ始祖ヴァンパイアの1人で、ロサンゼルスってとこにあるダンジョンの100層ボスをやっているはずよ」

ロゼリアは普通に喋る。

ロサンゼルスか。

って、なんでだよ!あいつに気付かれ……ないな。気持ちよさそうに人間に演説してる。なんで言葉が通じてるんだ?


……口の動きと認識できる言葉が違うから魔法で翻訳させてるのか……無駄に高度なことをと思うけど俺もほしい。


それにしても迷宮神の意志なんてわかるのか?

普段から会話してるとか?


「ないわ。迷宮神はダンジョンを弄るだけよ。それに対して勝手に何か意味を見出してあんなことを言ってるんだろうけど、結局は妄想よ」

妄想かよ。



「人間どもよ。愚かなお前たちに、この私からも試練を与えてやろう。まずはリッチ!」


ん?俺?


俺は人差し指で自分を指す。


「貴様はこの新宿ダンジョンのスタンピードを、モンスターであるにもかかわらず止めた罪により……」

「待ちなさい、ラガリアス。あれは私が許可したのよ?」

男の話を遮ってロゼリアが主張する。


「お前への罰は後だ。まずはそこのリッチ。お前には、ここ新宿ダンジョン100層のボスを固定でやってもらうことにする」

なんだと?


:スタンピード止めたの、やっぱり駄目だったのか~

:ロゼリア様は許可したって言ってるけどな……?

 

「それからロゼリア、お前は……」

「あなたに指図されるつもりはないわ。しばらくはここで遊んでるわ。ねっ、リッチ♡」

やめろ裸で抱き着いて来るな。お前、俺が着せたローブをどこにやったんだよ!そしてキスするな。舌を入れるな。胸触っとこ……おぉ~。


:くっ、魔力が邪魔だ。よく見えない!

:もう誰も気にしてないだろうけど、同接者100万人超えたな

:きっとリッチ君が悪いことしてるのに訴えられないぞ!

:俺に魔力を操る術があれば!


「まぁいい。あとは人間どもに試練だ。この新宿ダンジョンの1層に強敵を置いておいてやろう。ぜひ倒してみるがいい。ではな。はぁ~っはっはっは」

そう言い残してラガリアスは高笑いしながら帰って行った。

背中にウン〇のシール貼って悪戯をしたのは内緒だけど、ばっちり配信してやったぜ、このアホ吸血鬼め!


それにしても1層に強敵とは……。

しかも俺が100層のボスモンスターだと?


塔ちゃん:ふざけんなよ、探索者育成できねぇじゃね~か!!!!

皇ちゃん:一旦、新宿ダンジョンを限定公開に変えるぞ?なにがいるのか分からないのは危険すぎる。

塔ちゃん:ぬぉおおぉぉおおおおお!!!!!?


俺は探索者を育てないといけないんだぞ!?



「ふふふ……早く戻ってきてね♡」


はっ……?


突然視界が斜めになり、転がっていく……。



なんだ?視界がぼやけていく……。


あそこにあるのは俺の体……黒い魔力になっていく俺の体。




その横で腕を伸ばしてるロゼリア……俺はこいつに首を落とされたのか……。




□???


あぁ、時が過ぎていく……滅びは近いのに


急がなくては……すでに世界はつなげた


必要なものは探せるだろうか……新たな出会いもあるだろう

 

早く……早く進んでほしい


そして力を手にしなさい


我を倒すのだ……そうすればきっと……

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