第41話 昔話①リッチの2回目の転生

□リッチが転生してはじめてポップした場所


ここは……?

なんだ?あの神様は地球かつ日本って言ってたと思うんだけど、こんな石畳の暗い部屋がある世界……時代なのか?


もともと俺がいたのは2000年くらいの日本だぞ?

転生先は2023年だって言ってたな。

 

でも、20年で時代を逆行したような場所が作られたりするか?

むしろドラゴン〇エストの魔王城の一室……魔王がいるような豪華な部屋じゃなくて、ちょっとだけ強い敵がいるような部屋だ。

 

滅びを待つ状態だとか言ってたけど、文明退化したとか、パラレルワールドとかか?


そんなことを考えてると、誰かがやってきた。



「リッチかよ……外れだ……厳し~」

「制限時間まで耐えるしかないわね。マジックシールド」

「そうだな。可能なら牽制くらいはするが、まずは防御だ」

「おう!」


なんだこいつら。

入ってきたのは4人の人間の男女で俺に相対しながら盾や杖、剣を構えている。


そして、リッチ……?


「▲〇□※◆▽●」


ん……?なんだこの言葉……地の底から響いてくるような低音で、重厚な音は。


「なにか言ってるわ?」

「なんて言ってるかわかんないけど、攻撃でも来るのか?」

「そんなそぶりはないぞ?」

「そもそも戦う感じじゃね~のはなんでだ?」


うん……俺の声は聞き取れないらしい。


俺は自分の手を見るが、そこにあるのはジャラジャラとした鎖や指輪がついた骨……。


これはあれか?俺はモンスターになってるんじゃないか?





まじかよ……。


「攻撃してこないならチャンスだ!」

「あぁ、リッチ討伐は良い実績になるぜ!」

「みんな行くわよ!」

「おぉ!!!」


まだ戸惑っている俺に対して、人間たちは攻撃を繰り出してくる。


……ハエが止まりそうなほど低レベルな攻撃を。


なんだこれ?

えーと、ここは俺が1回目の転生をする前に住んでいた日本だと思う。

俺にはあいつらが喋ってる言葉がきっちりと理解できるし、音も完全に日本語だ。


おそらくそこにあったダンジョン……確か1990年くらいに世界各地にダンジョンが出現したんだったと思うんだけど、そのどこかのダンジョンの中で俺はモンスターになっているということなんだろう。


どういうことだよ!?


そして俺を討伐しようとしている人間の探索者チームという構図だな。

それで時間を気にしていたのか。

確かフロアボスの部屋は一定時間が経過するとボスを倒せていなかったとしても入ってきた扉が開くんだったよな?


前々世で探索者をしていなかったから誰かから聞いた話だが。会長たちと、元婚約者たちの面白エピソードの中だったかな?


とりあえず適当に時間を潰してあいつらを帰らせてから考えるか。


俺は飛んできた魔法やスキルによる斬撃を全て自らの魔力で撃ち落とす。

ふむ、前世で身につけた魔法とかスキルや技術は使えるみたいだ。


いや、前より弱くなってるな。

転生の影響か?それとも転生したのがここだからか?


「なっ、あっさり全部消されたぞ!?」

「やっぱりリッチは厳しいよ。新宿の40層で出てくるレベルじゃねーよ!」

「ここは制限時間まで守りましょう」

「悔しいが仕方ねーな」


あっさりと彼らは守りに入ったから、俺も適当に攻撃しながら記憶を思い出すことに専念した。




□転生の説明をしてくれる神様との対話ができる世界


「えーと……2回目か……?」

『そのようですね。お疲れ様です、間野塔弥様』


見覚えのある真っ白な空間で呟くと答えが返ってきた。

前回の転生の時には女神様が相手をしてくれたが、今回は男の神様みたいだ。

そして残念ながら姿は見えない。


 

「前とは違う神様なんだな……なんですね」


危ない。前回と同じなら声の主は神様だ。

さすがにため口はヤバそうだ。

 

『前回担当したのは……アホ女神ですね。申し訳ございません。私が転生者の手によって異世界に落とされている間に』

「えっと、なにを謝られているのかよくわかりませんが、前回案内してくれたのはギャルっぽい綺麗な女神様でしたね」

『彼女はクビになりました。見目の良いものを配置する方針で任されたようですが、結局アホはだめだということになりまして』

「……ここは笑ってもいいところでしょうか?不敬とか」

『問題ありません。転生者の方には自由に過ごして頂いて構いませんので』


神様なのにアホってどういうことだ?確かに頭が弱そうというか、軽そうだった。

そして今回はずいぶんと真面目で優しそうな神様だな。

前の女神様にはいろいろ質問したら適当にスキルを選ばれて勇者として頑張れって言われて放り出されたからえらい違いだ。


『あなたにスキルの付与は不要に思えますね。すでに十分すぎる力を身につけている』

「次はどこなんですか?前みたいな世界ならまだまだ強くなってみたいけど、地球とかそれっぽい世界なら過剰戦力だとは思います」

『次は地球の日本という国です……ですが、あなたの今の力は必要になるでしょう。それなら……』

「地球で?そういえばダンジョンが出現していたのでそのせいですかね?」

『残念ながら今の地球は滅亡寸前のようです。その運命に抗うためには力は必要でしょう』

「えぇ!?」


地球と聞いてちょっと安心したところにとんでもない爆弾が降ってきた。

地球って滅亡寸前だったの?


人間は力をつけすぎたし、環境破壊も酷い。でも寸前と言われるということは、ダンジョンの迷宮神関係か?

その辺は転生したらわかるか……。

勇者の力を使ってダンジョン攻略して迷宮神を倒せってことか?


『なにか質問などはありますか?あなたに関してはある程度は答えても構わないとのことです』


2回目だからだろうか?

俺って死んでも働かされる社畜もびっくりな状態ってことだもんな。


「あいつは……雪乃は元気かな?」

『雪乃?情報を得ますので少々お待ちください』


雪乃は絶世の美女……とかではないが、物静かで優し気な美しい白髪の女性だった。

なんでここで聞くのかって?当然だろ?恋人だったからだ。


前世のせいで少し遠い記憶になってしまったが、大事な人だったことは変わりない。


結婚するつもりだったんだ。


『情報確認しました。大変残念ですが、既に亡くなっていますね。事件事故ではなく、病気です。家族に見守られて亡くなったようです。お悔やみ申し上げます』


家族か。俺がいなくなってから結婚でもしたのかな?

良い奥さんになっただろう。仕方ない。死んだ俺がどうこう言える話じゃないしな。

 

「そうですか。俺が転生してからだいぶ時間が経った世界なんですか?」

『えぇ。転生するのは地球で2023年ですね』


俺が転生してから20年くらい経ってるのか。

それで病気?ちょっと早い気がするけど、まぁ仕方ないか。


「滅亡寸前っていうのはどれくらい時間が残されているのか分かりますか?転生後1分で滅亡とかは嫌だなぁと」

『さすがにそんな世界に転生する方をここにお呼びすることはありません。ここに来てもらうのは、行先の世界を救える可能性を増やすためですから。少なくとも数年は大丈夫なはずです』

「そんな背景があったんですね。わかりました。他には特に質問はないです」

『では、これをあげましょう』

「これは……」



□リッチが転生してはじめてポップした場所


貰ったのは"魔力回復(大)の指輪"と、"状態異常防御の指輪"だったが、それは左手についていた。他にも首や腕に何かじゃらじゃらついてるけど、鑑定しても不明……。

今はまだ使う時じゃないってことか?


まぁ、魔力回復(大)の指輪のおかげで魔力が勝手に回復するから適当に魔法を撃って時間を潰した。

 

「くっ、なんていう魔法なの!?」

「あの威力が絶え間なく降り注ぐなんて無理ゲー過ぎだろ!!?」

「そろそろ時間だ!あと少し頑張れ!」

「開いた!行くぞ!」


そして人間の探索者たちは去って行った。


ふぅ、殺さずに済んだな。


しかしモンスターか。


そう言えば人間だとは言われてないものな。

仕方ないな。

あいつも死んでしまっているなら未練もない……いや、皇ちゃんとか早紀さんは元気だろうか?神谷先生とか酒井ちゃんは?

 

というか、俺の命はいつまでなんだ?

これ、死んだら終わり?

ボスモンスターは死んでもリポップするって聞いたことがあるけど、その場合俺の意識は残るというか続くのか?



一回死んでみたらわかるか。


よし、目標を決めよう。


俺が次に探索者に倒されるまでの命だったとしたらそれでいい。

もしそうじゃなくて、人間たちに干渉できるのであれば、やるべきことは1つだな。


人間を育てて世界の滅亡を防ぐことだ。


あとはあいつの家族がいるならいつか会ってみたい……。

昔の知り合いたちも20年ならまだ生きてそうだ。

でも、モンスターじゃあ怖がられるか、早紀さんには瞬殺されそうだな。


もしかしてモンスターとも交流すべきなんだろうか?


迷宮神の傀儡みたいな奴らとは絶対に会話が合わないし、むしろ俺の目的とは相反しそうなんだけどな……。



***

ここまでお読みいただきありがとうございます。

↓ちなみに登場した転生の神様は昔短編で書いたこの方でした↓

『数え切れない転移者をさばく実は優秀な神様のお話』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074730183390

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