第31話 地上への階段

「オークタイタンは下半身を狙って倒してから撃破するのが定石だけど、どうするの?」

 夢猫ドリームキャットは現在走ってオークタイタンに接近しながら作戦を考えている。

 そこで魔法戦士の堀内裕美香がリーダーの詩織に尋ねる。


「あの巨体が倒れてしまうと、周辺の建物にかなりの被害をもたらしてしまうから、それは避けたいわね。どこかあれを倒せる場所があればいいけど……」

 詩織は悩む。

 倒すだけなら倒せるだろうが、ここは新宿だ。

 所狭しと建物が並んでいる。


「立ったままのオークタイタン撃破をやり遂げるしかないな。せめて膝をつかせるくらいで」

 生田大輝は拳を振り上げながら主張する。


「俺たちの攻撃力も、リッチ様に色々習ったおかげでだいぶ上がっているはず。そもそもこの状況だから、やってみるしかないな!」

 騎士の菊池海斗も力強く言い放つ。


「そうね!行きましょう!」


:頑張れ夢猫ドリームキャット

:応援してるぞ!!!

:詩織様、お願いします!

:今まで探索者なんて横暴な奴らだとばかり思ってたけど、こんなに真面目に事に当たってるの見たら応援するしかねぇよ!頼む!


「応援ありがとうございます。普段やったことはありませんが、なんとかオークタイタンを直立させたまま打倒を試みます!」


視聴者たちの応援に答えながら詩織たちはオークタイタンに挑んで行った。



 

□新宿ダンジョン1層


「あはははは……新宿が壊れていく。ははははは、もうすべてダンジョンみたいなもんだ。ほら逃げろよ。死ぬぞ?」


:ふざけんなゴミクズ!お前のせいだろ!!

:ダメだこいつ。もう壊れたんじゃね~か?

:いよっ、世界初のスタンピードを起こした有名人だな!

:とっとと国外逃亡の準備でもしたほうがいいんじゃねぇか?


「△◇▽★☆□◆○?」


こいつか……こいつがスタンピードを起こしたんだな。捕まえておくか。


:まさかのリッチ様登場で草

:素直にお縄につけ、ゴミクズ

:起こしたことを一生後悔しろ!


「くっ、リッチ!この化け物め!お前もスタンピードに加わって、どっか行け!!!」


俺を見て動転した五味葛ごみくずは、再び硫黄の魔道具を投げてくるが、当たるわけがない。

 

俺はその魔道具を魔法で覆った足で蹴り返して五味葛ごみくずにぶつけて気絶させた後、逃げられないように拘束しておいた。


野良モンスターに襲われないといいな……。


そして新宿ダンジョンの管理室に足を踏み入れる。


本当に入れたよ。

びっくりだな。

本当に世界は変わってしまったらしい。

今回は召喚されてるわけじゃないしな……。


管理室の奥には階段がある。地上へ上がる階段だな。見たのは人生で2回目だな。いや、人生とか言っていいのかわからんが。


1回目はまだ間野塔弥だったころに皇ちゃんと早紀を見送った時だ。


世界で初めて深層に挑む2人が降りていく階段は赤々とした威厳に満ちたものだった。



しかし今、その階段はズタボロだった。


なにか巨大なものが無理やり通った、そんな破壊の跡がくっきりとついていた。



そして管理室の中には倒れてる人間たちがいる。

倒されたモンスターは全て黒い霧になって消えていくから倒れてるのは人間だけだ。


その中には町田さんと松野さんがいた……。

2人とも……息があるな……。


その隣の探索者も体はボロボロだが息がある。


しかし、入り口近くで転がっている男……そいつだけは残念ながら亡くなってるな。


俺は生きてるやつらに回復魔法をかけたあと、管理室に固定化した防御の魔法をかけてから地上へ上がった。

こうしておけば俺以外のモンスターは管理室には入ってこれないだろう。






□東都テレビジョンのスタジオ


「みなさん見てください!4名の探索者がオークタイタンに戦いを挑み、攻撃をあてています!今のところ、なんとオークタイタンに対して攻勢に出ています!これが探索者の力です!」

司会の男が熱く叫び続けている。

どうか倒してほしいという思いを隠さず、全力で叫び続けている。


「あれはBランク探索者チームの夢猫ドリームキャットです。若いながら優秀なチームです!彼女たちの配信も今見ていますが、オークタイタンを立たせたまま倒しきるために周囲からの攻撃を続けているようです」

大木はスマホを片手に解説を続けている。

少しでも視聴者に希望を持たせるために。

そしてその取り組みは成功しつつあった。


番組のツブヤイターに寄せられる視聴者の声は応援一色になりつつあったからだ。

しかしそんな様子に水を差すようなことを言ってしまう男もいる。

辛口コメンテーターの男だ。


「さきほどから見ていて思ったのだが、この場にAランクの探索者チームはいないのか?世界にはSランクというチームもいるらしいが」


「残念ながら日本には世界ランカーが2名しかいません。その2人は、九州と京都です。そして日本にはAランク探索者チームは数えるほどしかいません。だから、日本はダンジョン探索においては後進国と言われているのです」

そのコメンテーターの発言に対して、大木は事実を語った。


スタジオは水を打ったかのように静かになってしまった。

そんな中で、再び声をあげたのは司会の男だった。


「しかし、見てください。オークタイタンと戦う姿を!まだ若い探索者たちだと思いますが、立派に戦っています!今は不満を言う時ではなく、応援しましょう!」


その言葉にスタジオにいるものはモニターにくぎ付けになる。

辛口コメンテーターの男は少し発言を恥じているかのようにうつむきがちだったが。


そして静かになったままのスタジオとは裏腹に、番組のツブヤイターには引き続き応援コメントが寄せられ、モニターの端を流れ続ける。



彼らは夢猫ドリームキャットの戦いから目が離せなくなっていた。

一方的に周囲から攻撃を当て続け、振り回されるこん棒にも攻撃を当てて周囲の建物へのダメージすら防ぎながら、オークタイタンに反撃すらさせない戦い見事な戦いから……。


そして……


「見てください!あの巨大なモンスターが消えていきます。最後に片膝はつかせてしまって交差点が陥没していますが、探索者チームは見事にオークタイタンを倒しました!」

「おぉ!夢猫ドリームキャットすげぇ!!!!」

その完全なる勝利に大木はテレビに映っていることを忘れて叫んだ。



番組のツブヤイターも一瞬にして彼女たちを讃えるコメントで溢れかえった。



これは行ける……誰もがそう思ったところで、中継におかしなものが映り込んだ。






それは白い球体だった。



その球体は中継の端を横切って行った。



慌ててヘリコプターに乗ったカメラマンがその球体をカメラで追いかけると、それは都庁にぶつかって爆発し……




都庁の上部が地上に崩れ落ちて行った……。




* * *

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