第28話 世界初の地上戦
「あ~っはっはっは!逃げ惑え~。いつも偉そうにしてる探索者がゴミみたいだな。ウケる」
岩陰に隠れてスタンピードを見守っているのはこのスタンピードを作り出した張本人である
:あれ?あのなんか巨大なやつはどこいった?
:あれだよ、
:だから管理室とかが見えるのか。
:さすがゴミクズwww
「うるせぇよ!あんなもの相手にできるかよ!でも見ろよ!あの逃げ惑う探索者どもを」
:あ~っはっは、ウケる。いつもあんなに偉そうなのにな
:ゴミクズ、ふざけんな!みんな命がけなんだぞ!?
:はいはい、真面目探索者乙
:だよなぁ。普段の態度を棚に上げてピンチの時だけ言われてもな
「あはははは。工場なんて壊してしまえ~!」
:あの工場稼働してない?大丈夫?
:えっ?ダンジョンの経済利用は停止したんじゃなかったの?
:おいっ、見ろよ!工場からも人が出てきてるぞ!
:まじか……ゴミクズ、やっちまったな。さすがに一般人を巻き込んだらまずくないか?
:関係ねぇだろ!ダンジョン内は自己責任だぜ?
:おい……モンスターが管理室に入って行ってないか?
:えっ?
:ほんどだ。ウソだろ?あのリッチ様ですら入れねぇって言ってたのに……
:これこそやばくね?
:なになに?
:もしかして外出てくんのかな?
「モンスターはダンジョンは出れねぇだろ?なに言ってんだ?遠目で錯覚してるだけだろ」
:いや、見ろよ、ニュースになってる!
:ほんとだ、管理室突破して地上に上がったってよ
:まじだよ。1Fにリッチ様に飛ばされた世界ランク9位の探索者がいて応戦してるらしいぞ!?
:終わったな、ゴミクズ。この配信は証拠になっちまうな。
:世界初!スタンピードをダンジョン外に仕向けた男ゴミクズ……即逮捕案件で草
「あははははは……」
:おいあれ!オークタイタンとかまで向かってるじゃねぁか。やばいだろ!!!
:誰か新宿のダンジョン協会とかに連絡しろよ!
□新宿ダンジョン1Fのダンジョン協会にて
「来たぞ!モンスターだ!」
その声に協会内が騒然となる。
管理室にモンスターが到達した時点で覚悟はしていたが、聞くのと実際に見るのとは大違いだ。
「可能な限り押し返せ!時間を稼ぐんだ!少しでも避難の時間を稼ぐんだ!」
この新宿のダンジョン協会の責任者である皆川が叫ぶ。
なんとかこの場にいた探索者たちで少しでもモンスターを減らさなければならない。
そしてダンジョン周辺で警察が出動して避難指示を出している。一般人が避難する時間を稼がなくてはならない。
この場には20名の探索者がいる。
ランクはばらばらだが、最上位は世界ランキング9位のオリヴィエ・フランソワード・リーランチェスカだ。彼女がここにいてくれたのは僥倖だった。
彼女は大剣を主とした戦闘形態のため、ダンジョン協会の建物内では全力は発揮できないが、それでも上層のモンスターに後れを取るようなことはない。
それ以外にもCやDランクの探索者も何名かいる。
スタンピードにはオークタイタンにランドドラゴンなどがいたという情報がある。
もしそれらの大型モンスターが出てくれば周囲の環境の制約もあってフランソワード1人での対処は厳しいだろう。
しかし、それ以外の魔物はここで撃退してしまうつもりだった。
そうすれば探索者の応援も来て、大型モンスターをも撃退できる可能性が上がる。
「くそっ、なんて数だ!押さえきれねぇ!」
「なんとか堪えろ!武器を振れ!魔法も使っていい!少々モノが痛むのは気にするな!」
探索者たちは各々の武器で戦い続ける。
手加減などしている余裕はない。
わずか20人ほどで1,000体以上のモンスターを倒さないといけないのだから。
そうして彼らは次々に倒していく。
ダンジョン協会内はトルネードでも暴れまわったかのような散乱具合だが、建物に大きなダメージはないし、モンスターもまだ外には出していない。
主に高ランクの探索者が前に出て武器を振り、低ランクの探索者は合間から遠距離攻撃をあてていくスタイルとなった。
その結果、今のところ探索者側には被害を出さずに、200体ほどのモンスターを倒している。
モンスターは倒すとダンジョン内と同じように黒い魔力となって消えていくから、死骸を気にする必要もない。
「新宿周辺の避難は半分くらいは終わったようだ!」
「まだ半分かよ!早くしろよ!」
しかし避難は進まない。
これまでダンジョンに入ったことがない人々にとっては、新宿にモンスターが出てくると言われてもピンとこないのだ。
半信半疑で新宿ダンジョンが見えるところに出てくるような野次馬もいて、警察は対処に苦慮していた。
□新宿〇ルタ前
『繰り返します!現在、新宿ダンジョンで発生したスタンピードがダンジョン協会に到達しており、間もなく新宿の街に出てくる恐れがあります。急いで避難してください!』
新宿の街は騒然としていた。
警察車両がいたるところに停車しており、スピーカーを使って警告を上げ続けていた。
しかし、人々の動きは遅い。遅いというより、そもそも避難しないものも多かった。
「うるせぇな~なんだよ。今までモンスターが外に出たことなんてないんだろ?心配しすぎじゃね?」
「そうよね~。ちょっと今まで入れなかったところに入ったからって、地上までは出てこないんじゃないの?」
「そうそう。俺たちこれからカラオケ行くんだから、邪魔すんなよな~」
若い高校生のような男女がぶつぶつ言いながら警察による制止を恨めしそうに見つめている。
「おぃ、ふざけるなよ!この先に私の会社があるんだ!通してくれ!会議なんだよ!」
別の場所ではスーツを着た男が警察に怒鳴っている。
「今は命の危険があります。可能な限り新宿から離れてください!我々もモンスターが出てきたタイミングでの避難命令が出ているのです。その前に、みなさんは避難してください!」
「うるせぇよ!そんなもん探索者でなんとかしろよ!」
「そうよ!高い報酬貰っていい生活してるんだからなんとかしなさいよ!」
口々に飛ぶ不満。
30年もの長きにわたって一般人が貯めてきた鬱屈した不満がここで表面化してしまったようだ。
自分たちにはできない方法でアイテムを得て、それを高額で売る探索者たち。
探索者というだけで、公共施設の利用や税金が優遇される。
それはダンジョン協会が苦心して整えたダンジョン探索のための環境だが、絶対にそれを享受できない一般人たちに取っては不満のタネになっていたのだった。
そしてこれまで1度もダンジョンの外にモンスターが出ていないということもまた、悪い影響を及ぼしていた。
龍の発言は探索者が龍の計画を達成できなかったことを示している。
もし今回モンスターがダンジョンの外に出るなら、それは探索者の怠慢によるものだと思っている者までいた。
彼らには命をかけてのダンジョン探索がどのようなものかということは理解できない。
この新宿で決定的な溝が表層化したのだった。
* * *
ここまでお読みいただきありがとうございます!
この後書きを書いている7/16の時点で5万PVを突破いたしました!皆様の応援のおかげです┏○ ペコリ
ありがとうございます。
また、『変態ですんません…』さん、当作品へのレビューコメントありがとうございます┏○ ペコリ
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たくさんの方に読んでいただくため、どうぞ応援(作品フォロー、レビュー(コメント、星評価(☆☆☆→★★★))、応援(♡)、コメント)の程、よろしくお願いします。
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