第27話 応援要請

「全員出入り口を駆けあがれ!逃げろ!ダンジョンの外にはモンスターは来れないはずだ!」

松野が叫ぶ。


探索者も工場の従業員たちもみな出入口へ走る。

しかし、


「うわぁ、やめろ!やめて!!!」

管理室の入り口にいた鬼頭にゴブリンが飛び掛かり、スカルナイトが剣を振り被っていた。


「くっ……」

それを見た松野が踵を返す。


「やめろ松野さん。あいつはもうダメだ!逃げろ!逃げるんだ!」

松野に普段世話になっている探索者が叫ぶ。


「誰か配信してねぇのか!誰でもいいから助けを求めろ!管理室にモンスターが入り込んだんだ!」



 ------------------


俺は『新宿ダンジョンの上層でスタンピードが発生してるみたい』という詩織の連絡を見て、配信してるやつをみつけてその映像を見ていたんだが、眼を疑った。

管理室にモンスターが突入したからだ。


正直、工場が破壊されたのはバカだなぁ、あんなところに建てるからだよ、としか思わなかったが、管理室は違う。


これまで管理室にモンスターが入った例はない。

行けても外まで。召喚された阿蘇ダンジョンで一度入っただけで、普段は窓から様子を伺ったことはあったが、それ以上先には絶対に行けなかった。


この俺でも入れないのに、あんな雑魚モンスターが入れるのか?


しかも、いつもお世話になってる町田さんと松野さんがまだ残ってる。


行くか……。


いや、しかし……。



俺は迷っていた。

なにせあそこはダンジョン協会と探索者たちの領域だ。

スタンピードは本来、彼らが対処すべき問題なのだ。


恐らく探索者の成長を促す仕組みの1つなのだ。


その機会を俺が奪っていいのか?


俺はモンスターだ。

いくら人間を育てたいと思っていたとしても、人間の領域に出て活動するのはどうなんだ?


今回仮に死傷者が出たとしても、それは本来俺には関係ない。

むしろ悲劇を繰り返さないために、もっと人間たちがダンジョン探索に本気になるかもしれない。


 


もしかして龍の言っていた『一部の制約を外す』はこれのことか?

平和ボケした人間に向けた警告。

世界を滅ぼすための一手。

なんか真逆な気がするんだが、あれが何を考えているかなんかわからない。


いや、そもそも何かしらの制約でも受けていて、ダンジョン探索を進めさせることでその制約が撤廃され、最終的にはモンスターたちが世界に溢れ出す。

そして人間は滅亡する。

そんなシナリオじゃないだろうな?


まずい……まずいぞ?


そこへスマホが鳴る。

皇ちゃんからのメッセージだ。配信しろって?わかったよ。


皇ちゃん:塔ちゃん……見てるか?スタンピードが管理室に突入した。なにかが起きてる。

塔ちゃん:みたいだな。龍の言っていた変化はこれかもしれない。地上にモンスターが出るぞ?

早紀:なんですって???皇一、私も戻る!


早紀が戻るならあの程度のモンスターは問題ないか……今どこ行ってんだ?


皇ちゃん:塔ちゃん、ヘルプしてくれないか?早紀は今ブラジルだ!


おぃ、無理だろ。

何日かかるんだよ。



詩織:私たちも行きます!モンスターが地上に出たら酷いことになります。

レファ:私たちもね

:俺も行くぞ!

:リッチ様もお願いします!

皇ちゃん:頼む。塔ちゃん!塔ちゃん?どした?


うん。行くか。

この際しかたない。

配信で映った映像を見る限り、結構強いモンスターも出てそうだ。

現時点で地上にまでモンスターが上がるかはわからないが、応援に行こう。


龍に表立って敵対してしまうのかもしれないが、それでも人間を見捨てるわけにはいかない。


塔ちゃん:わかった。俺もいく。

皇ちゃん:助かる。すまん。

塔ちゃん:ただ、今は新宿の40層じゃない。今は100層だ。時間はかかる……。

皇ちゃん:そっか。わかった。なるべくこっちで耐える。だから申し訳ない。モンスターのお前に頼むことじゃないんだと思うが頼む。


「待ちなさい」


皇ちゃん:??

:誰だあのエロテロリストは?

:あれ、始祖ヴァンパイアじゃね?新宿100層のボスだろ?

:ぐぬぬぬぬ。新宿100層までたどり着ける実力を付ければあんな美女とくんずほぐれつできるのか……

:いや、あれバケモンみたいに強いからな?100層ボスの中でも最強かもとか言われるレベルだぜ?

塔ちゃん:やっぱりモンスターの俺がスタンピード止めに行くのはまずいか?

:あっ……。

:そういうこと?マジか、そりゃそうかも……。


「いえ?別に問題ないわよ?」

『だめ』って言われたときに視聴者に説明するのが面倒で、スマホ画面を見せながら打って聞いてみたら、ロゼリアから帰ってきたのはそんな返事だった。


:ないんか~い!

:じゃあなんで止めたん


「ちゅぅ♡」


:えっ、突然のラブシーン?

:抱き着くと恰好がきわどすぎるせいで裸に見えるな……

詩織:!?!?!?!?

:お子様は見ちゃダメ

レファ:きゃーですわ

詩織:ぐぬぬぬぬぬぬ

:詩織ちゃん、おっさんと同じ反応になってるからwww


「せっかく来たのにすぐ帰るなんて言うから、キスくらいはね」


:ただの恋人ムーブか

:リッチ様……大人だったのね……

塔ちゃん:遊ぶな!俺は行くからな。

:お願いします!!!!


「ちゃんと魔力回復と速度強化の魔法をかけてあげたから頑張って♡」


:このモンスターもいいやつだな……

:キスによるバフ……羨ましすぎる

:おい!遊んでないで!スタンピードが1Fに上がったらしいぜ!?

:まじかよ……。

:今、フランソワ―ドが抑えてる。

:おぉ!?さすが世界ランク9位!!

:頼むリッチさん!間に合ってくれ!!!!!!!





* * *

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