第26話 常識の終焉

□新宿ダンジョン1層


「こっちだ!早く逃げろ!」

管理職員の町田と松野は管理室に用意されている警報機を作動し、音声拡張器を使って走って逃げている探索者たちに声をかける。

無事に声が届いたようで、探索者たちが走る方向を管理室の方に向ける。


しかし、その音に驚いたのは工場の従業員たちだ。


「なんだ?」

「なにがあった?警報?」

「おい!あれ!あれ見ろよ!!!!」

突然の警報音に驚きたじろぐものがほとんどだが、一部がスタンピードに気付く。


「あれ、あれはスタンピードってやつなんじゃないのか?」

「なんて数だ」

「落ち着け。ここは1層だ。探索者たちが対処するから黙って見てろ」

動揺する従業員たちに声をかけるのはひょろひょろのスーツの男。この工場の管理を任された責任者の鬼頭だ。

スタンピードの方を見もせずに従業員たちを怒鳴りつけるが……

 

「あんた、モンスターの前を探索者たちが逃げてるのが見えねぇのかよ!」

「なんだと?」

従業員に言われてスタンピードの先頭を見ると、逃げる探索者たち。


「なにをしている!逃げてないで戦え!お前たち、それでも探索者か!」

それを見て大声を張り上げる男だが、そんな声に反応するものはいない。

本当なら護衛に雇った探索者たちもいるはずだが、急遽稼働させたからか、この工場にはまだ到着していなかった。


『スタンピードが発生しています。規模は1,000匹以上で、オークタイタンにランドドラゴンなど大型のモンスターも発生しています。この声が聞こえた人は全員ダンジョン管理室または、協会まで退避してください。繰り返します……』

「ばかな!」

「うわ~逃げろ!!!」

「どけよ!みんな逃げるぞ!」

「まっ、待て!職場放棄だぞ!ふざけるな!」

「お前がふざけんな!ダンジョン協会が逃げろっつってんだろ!?」

従業員たちを押しとどめようとした鬼頭だが、突き飛ばされてしまい、従業員たちは目の前にあるダンジョン管理室のある建物に逃げ込む。


管理職員の町田と松野は警告放送を終えた後、建物の入り口からダンジョンの出入り口までの間の障害を取り払っており、退避してきたものを全員ダンジョンの外へ出して行った。


そんな中、ついにスタンピードのモンスターたちが工場に襲い掛かる。

先陣はランドドラゴン。


凄まじい速度で工場の壁に突進し、あっさりと突き破る。

そこからさらに様々なモンスターが建物や機材を破壊していく。


そしてオークタイタンがこん棒で屋根を叩きつける。


「ひぇ~」

鬼頭はそんな状況から命からがら退避し、なんとか管理室に辿り着く。

そこには避難してきた探索者たち。


「お前らなにしてる!探索者だろ!戦え!」

そして唾をまき散らしながら探索者に文句を言う。


「なに言ってんだおっさん。スタンピードだぞ?ダンジョン協会から決して戦わずに逃げろって言われてるのを知らないのか?」

「ばかもの!お前らだけ逃げるって言うのか?見ろ!俺たちの工場はめちゃくちゃだ!」

鬼頭は工場を指さしながら訴えるが、探索者たちがそんなことを気にするわけがない。

そもそも……


「なんで工場が稼働してるんだ?ダンジョン協会からは計画停止だと聞いてるぜ?」

「あれだろ?総理大臣が探索者に守らせろとか言うから、湊会長が自衛隊でどうぞって返した話だろ?知らねぇよ。そもそも計画停止なのになんで稼働させてんだよ」

「うるさい!お前らは探索者だろ!?ふだんデカい顔してるのにいざとなったら怯えて逃げやがって!」

「はぁ?ふざけんなよおっさん。守りたいなら自分でやれ。なんで俺たちが助けてやらないといけないんだよ!」

一般人の鬼頭が殴り合いで探索者に勝てるわけがないのだが、彼は工場の管理者という権力側にいる人間のため、威張り散らすことしかできない。

しかし探索者がそれに従ってやる理由など皆無なのだ。


命を賭けさせるなら、相応の報酬が必要だ。

しかもこの場にいるのはダンジョンの上層にいた比較的低ランクの探索者たちだ。


政府や企業の計画のおかしい点はこれだ。

通常スタンピードが発生すると、上に上にとあがっていくのだ。

なので、発生した層よりも上の層で活動するものしか巻き込まないのだ。

つまり、スタンピードと戦える戦力が整うことはない。


もし整うとしたら、偶然高ランクの探索者が歩いていた場合のみなのだ。

これに関して湊会長は何度も繰り返して政府の会議で説明したが、誰も聞かなかった。



ガシャーーーン!!!!


「なっ、なんだ????」


探索者と鬼頭が言い争いをしていると、管理室の窓が割れた。

そして……



「おいっ!なんでだよ!なんでモンスターが管理室に入れるんだ???」

管理室のある建物に殺到したモンスターたちが窓を割って入ってきたのだ。


「そんな……バカな……あのリッチ様ですら入れなかったんだぞ!?」

それを見て町田も呆然となっている。

当然だ。


ダンジョンのモンスターは出入り口付近には入ることはできない。これは世界の常識なのだ。


入れるとしたら召喚獣として呼び出された場合だけだ。


そしてその出入り口付近もしくは出入り口を覆うように作られるのが管理室だ。


ありえないことがこの新宿ダンジョンで起こっていた。



* * *

ここまでお読みいただきありがとうございます!

少し遅れましたが5万PVを突破いたしました!読んでいただいている皆様、ありがとうございます。

引き続き頑張って書いていきますので、どうぞ応援(作品フォロー、レビュー(コメント、星評価(☆☆☆→★★★))、応援(♡)、コメント)の程、よろしくお願いします。

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