第13話 リッチの夢①前世
「あなたとの婚約は破棄しますわ!」
「なんだって?」
俺は目の前で怒りの表情を浮かべている王女を見つめて呆然としてしまった。
今言われたことが信じられなかったからだ。
「何度も言わせないでいただきたいですわ、勇者ヴェルト。王女であるわたくしと婚約しているにもかかわらず浮気をしたあなたとは結婚できませんわ。ですので、あなたとの婚約は解消させていただきます」
俺はもう一度聞いても理解できなかった。
いや、言葉はわかる。婚約破棄だな。別に問題ない。ただ、浮気だと?
それを目の前のビッチ……違った、王女が言うことが理解できなかったんだ。
なにせこいつは俺が魔王を倒したときに連れていた仲間である、剣士とも賢者とも浮気してる。
まさかの聖女とも百合の関係だ。
貞操関係だけはこの女に言われる筋合いはない。
まさかあれだけ露骨にやっておいて、気付かれてないとでも思っているのだろうか?
しかも俺は誰とも浮気はしていない。
昨晩、なぜか寝室に忍び込んできた聖女はお説教して部屋に帰した。
俺は今、女に興味ないんだ。
もちろんこの王女にもなんの幻想も抱いていない。
婚約していたのは勇者の使命として王女と婚約し、そしていずれは結婚してほしいと王様から頼まれたからだ。
あぁ、そうか。
俺と王女との結婚を推進していた王様が亡くなって喪があけたから婚約解消とか言い出したんだな。
なら俺も自由にさせてもらおう。
「特に浮気はしていないが、お前が解消したいというなら問題ないぞ?」
「なっ……」
自分から言い出しておいて、なぜこいつが驚くんだろうか。
顔だけは可愛いけど、浮気ばっかりのこいつへの憧れなど1mmも持っていないんだ。
そもそもお前、俺が勇者に選ばれたパーティーのときにすり寄ってきたけど、特に相手にせずに飯食ってたら速攻で剣士にアタックしてただろ?
「それならあなたにはこの国を出て行っていただきたいですわ」
「もちろんだ。ここにいる義理はもうないしな」
「なっ……」
だからなんでお前が驚くんだよ。
俺は、俺と両親を助けてくれた王様……もう亡くなったから前国王だな……彼への義理でここにいただけだ。
もう十分だろ?
魔王まで倒したんだ。結構可愛かったのに。
魔王って言うから、ドラ〇ンク〇ストのゾー〇みたいなのを予想してたのに、そこにいたのは絶世の美女。
危なかったぜ。両親のことと国王陛下への義理がなかったらその場で剣士も賢者も倒して、聖女は丸め込んで魔王を救ってしまうところだった。
まさかの反乱になっちまうが……いや、こいつらの所業を考えたら別におかしくはないか。
剣士と賢者を含めて貴族たちからの平民出身の俺への扱いは酷い。
最初からこの世界で生まれて死ぬ人間なら身分差は頭に刻み込まれているから気にしないのかもしれないけど、俺にはなぜか前世の記憶があるから苦痛で仕方がなかった。
「じゃあ、俺は行くぜ?じゃあな」
「待ちなさい!剣を……聖剣を返しなさい!あれはこの王国のものです!」
なんだよけち臭いな、と思ったものの、国宝扱いされているものだから当然か、と考え直す。どうせ最近は使ってなかったしな。
「ほれっ」
「きゃっ、あなた……」
それを王女の方に放り投げて俺は窓から部屋を出る。
飛べるから問題ない。
王女が何か喚いてるが、それも問題ない。
これで自由だ。
俺は残りの人生を謳歌するぜ。
前世の記憶にあるようなうまい料理や心躍る娯楽はこの世界にはないが、変わりに自然があるし、魔法や剣もある。
なにかを極めてみるのもいいな。
ん?どんな前世かって?
わかるかな?日本っていう国なんだけど。
あんまり覚えてないけど名古屋っていう街に住んでた平凡な少年?青年?の記憶だ。
世界中にダンジョンが出現していたし、海外の予言者が7の月に世界が破滅する?とか書き残したせいで世界が混乱していたな。
俺はダンジョンに興味もなかったし、特に大きな魔力も持ってなかったから普通に理系の大学を目指して勉強していた。
いや、受かったんだったかな?
受かって大学生になって、なぜかダンジョン協会でアルバイトしてたような……。
魔力の流れが見えるとかいう特殊体質だったからかな?
この辺りの記憶はあいまいだ。どうやって死んだのかも含めてな。
次に気づいた時にはヴェルトと名付けられた少年だった。
乗っ取ったとかじゃなく、ふと思い出したんだ。
まぁ、ほぼ役に立たなかったけどな。
この世界の俺は膨大な魔力量を誇り、さらに天才と呼ばれるほど魔力の扱いに長けた子供だった。
そうして俺はこの広い世界を自由気ままに旅した。
するといろんなことが見えてきた。
意外に旨い料理、美しい景色、優しい人々。
俺が行く世界はそんなもので満ちていた。
俺はそれを守りたいと思った。
だから魔法を高め、剣も高め、さらに肉体も高めた。
残念ながら精神は前世からのエロガキが少し大人になった程度だったが……。
ん?なんでエロガキが美しい王女や聖女に欲情しなかったのかって?
無理だろ。
だって王女は性格悪いビッチだし、聖女は8歳の幼女だ。
相手として終わってる。
もちろん聖女には可能性があるが……。
だから俺は旅で仲良くなった娘と結婚したよ。
子どもも作った。
こいつらが強く生きていけるといいなと思ってできる限りの技能も伝えた。
あぁそうだ。
なんと復活した魔王とも再会したんだぜ?
どうやら魔族の秘術とやらで戦いで死んでも復活できるように準備していたらしい。
今度は敵対は避けて、遊び相手になったんだ。
ちゃんと浮気はしてない。大丈夫だ。奥さん一筋なんだ、俺は。
それでも、お互いに技能を磨いて試す相手になった。
楽しかった。
そして、こいつの方が俺より先に死ぬとは思わなかったが、葬式には出た。
魔王を継いだやつはあんまり好きな相手じゃなかったが、先代魔王の手前、表立って喧嘩したりはしなかった。たしか、イルデなんちゃらって名前だったな。
俺の人生、前半は酷いものだったが、後半は良いものだった。
だから満足して閉じたんだ。
その先があるなんて思いもせずにな。
まぁいっか。
俺は行った先でも気に入らないやつはボコって、気に入ったやつは魔法や技術を育ててやるという自由気ままな生活を続けてるよ。
世界が崩壊したら俺も一緒に死にそうで嫌だから、それだけは避けるために探索者育成しながらな。
*----------
なんていう前世の話を今さら思い出した変な夢を見たんだが、なんか意味があるのだろうか?
もしかしてあの王女とかがこっちの世界に転生してるとかないよな……。
ないな……。
あの世界の住人に比べてこっちの世界の住人は魔力の扱い方が下手すぎるから、関係ありそうなやつがいたらわかるだろう。
でも、誰も思い当たらない。
というか、詩織たちに負けてリポップ待ちでこんな夢を見るのはなんでだ?
***
ここまでお読みいただきありがとうございます。
それでは前話の予告の通り、キャラ紹介を桃太郎形式でやっていきたいと思います。パチパチ……。|ω・*)チラ
まず最初はやはり主人公のリッチさんから行きたいと思います。それではどうぞ。
名前:間野塔弥、リッチ<モンスター>
外見:漆黒のローブを羽織り、周囲に黒い魔力を展開する骨
役回り:きびだんごのように食べるだけで超絶パワーを与えるミラクルアイテムを作る力は持ってなくても、探索者たちに愛を持って接し、教え、育てる姿はまさにお爺さん兼お婆さん。
星に願いを:どういうことだよ!?あ?読者のみなさんへのコメント?ならそう書けよ!みんな!読んでくれてありがとな!フォロー、評価、コメント、応援待ってるぜ!(こういうことだろ?)
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